僕はレイジ。魔導体術(魔法+武術)の学院に通う、16歳。学院長の息子にいじめられ、学院から追放。その後なぜか、最強無双の道が開けた! 学院長の息子よ、今の僕は、君を一撃で倒せるけど、試合する?
第25話 ベクターを見舞う & ディーボの野望①
第25話 ベクターを見舞う & ディーボの野望①
足を大怪我したベクターは、競技場近くのグラントール王立総合病院に運ばれた。
ベクターの足は治癒魔導士たちにより、すぐに検査。当然、面会謝絶。僕らはその日、ベクターの見舞いに行けなかった。
翌日は休日だった。僕とケビンはようやくベクターを見舞うことができた。僕の次の対戦相手、強敵、グローバス・ダイラントとの試合は六日後だから、まだ余裕はある。
病室に入ると、ベッドにベクターが横になっていて、足を吊って寝ていた。睡眠中か……。
「ちっきしょお……」
ケビンは、ベクターの変わり果てた姿を見て、悔しそうに声を上げた。
「あのディーボの野郎……本当に汚ねえヤツだ。わざとベクターの足を壊すなんてな! ベクターは
「
ベクターが目を開き、いきなり言葉を発したので、僕らは飛び上がるくらい驚いた。お、起きていたのか。
「症状はどうなんだ?」
僕があわてて聞くと、ベクターはのんきにベッドの上で伸びをした。
「複雑骨折だ。全治三ヶ月ってとこらしい。ただ、車椅子を使えば、外に出られる。悪いけど、ちょっと外に出たいんだが」
ベクターがそう言ったので、ケビンは彼を車椅子に乗せてやった。僕はベクターの車椅子を押すことにした。怪我をした友人の世話をするなんて初めてだ。
◇ ◇ ◇
外は良い天気だった。空には飛竜の配達便が飛んでいる。僕らは病院の敷地内の芝生広場に入った。
ベクターは静かに話し出した。
「あのディーボってヤツ、闘ってみて分かったことがある」
「な、何か弱点を発見したのか?」
僕は驚いてベクターを見やった。ベクターは口を開いた。
「確かにヤツは強い。僕の蹴りをいとも簡単につかまえちまったんだからな。でもあいつ、本気で
「え? 意味がわからんぞ」
ケビンが首を傾げた。
「何と言うかな。
ベクターは考えている。
「そんなバカなことがあるかよ。
ケビンが聞く。しかしベクターもまだ答えが出ていないらしく、腕組みをしていた。
「いや……僕もちょっと変なことを言っていると思う。そうだな、言い方を変えれば、ディーボは、
「どんな言葉だ?」
僕が聞くと、ベクターが言った。
「『
「よく分からねえな。難しいこと言うなよ」
ケビンは頭をかいた。
しかし、僕は何となくベクターの言っていることが分かった。
◇ ◇ ◇
次の日の午後、宮廷直属バルフェス学院では――。
校舎の外に造られた訓練施設で、生徒たちが
訓練施設は二十棟もある。クラスごとに何と何と一つずつあるのだ。たくさんの最新ウエイトトレーニング機器も備えられ、練習用リングもそれぞれの施設に二つずつあった。大変な豪華な設備だ。
バルフェス学院、3年A組の訓練施設では、14歳から15歳の生徒たちが、一生懸命、訓練に
「おい……ディーボさんだ」
「静かにしろ」
騒がしい生徒たちの声が、一瞬にして静まり返った。
ディーボ・アルフェウスが入ってきたのだ。彼は制服ではなくスーツを着ており、手には、一メートルの
「僕に構わず、練習を続けろ」
ディーボは生徒たちにそう言いながら、練習用リングを見やった。
3年A組の有望株、男子のダニー・ラスとマイク・イーサンがこれから練習を始めるところだった。しかし、ディーボが入ってきたので、直立不動になった。それくらい、ディーボの学校での地位は高い。
「何をやっている。練習試合を始めて」
ディーボは静かに二人に言った。横にいるグローバスは静かにニヤニヤ笑っている。
ダニーとマイクは、あわてて練習試合を始めた。
さすがにバルフェス学院の生徒だ。パンチも蹴りも基本ができており、見事な練習試合を見せていた。
ドガッ
その時、ダニーのパンチが、マイクのこめかみに当たった。マイクは倒れ、ダニーはあわてて、「おい、大丈夫か」と心配そうに駆け寄った。
「何をしている!」
ディーボがそう怒鳴りながら、リング上に上がってきた。
「は、いえ」
ダニーはあわててディーボに言った。マイクはリング上で仰向けになって、ぐったりしている。
「カウンターで急所のこめかみに当たってしまいました。治癒魔導士を呼んでこないと」
「攻撃の手を休めるな」
「え? ディーボさん、マイクはダウンしています」
「叩き潰せ!」
「はっ?」
ディーボは手に持った
「ギャッ!」
「相手が倒れても、叩き潰せ!」
「は、はい!」
ダニーは馬乗りになって、マイクの顔を殴りつけた。ダニーは殴りながら泣いていた。
「もっと殴れ! 非情になれ!」
ディーボは、ダニーの背中を棒でバシンと叩く。ダニーは泣きながらも、マイクを殴り続ける。マイクはすでに失神している。
「よーしよし」
ディーボはダニーを抱きしめた。
「ダニー、凄いじゃないか。君はやればできる」
「え? あ、ありがとうございます」
「よく非情になれたな。君は、すごい選手になれるぞ。選抜メンバーの候補にしてやれるかもしれない」
「えっ? そ、そうですか! ありがとうございます!」
ダニーは泣きながら、ディーボの手を握った。マイクはまだ失神している。騒ぎを聞きつけた治癒魔導士が、リング上に飛び込んできた。それと入れ替わりに、ディーボはリング下に降りた。
「おい、ディーボ」
グローバスはひきつって笑いながら言った。
「随分、熱い指導じゃねえか。だが、最後、
「……指導? ふん、あんなのは演技だ」
「え? なんだと?」
「散々、恐怖を与えた後で、優しくしてやる……。これは心理的な技術だよ」
ディーボはそう言ってニヤリと笑った。薄気味の悪い笑顔だった。
グローバスはあわてて聞いた。
「お、おい、じゃあ、すべて計算なのか?」
「そうだ。借金して失意のどん底にいる人間に、百万ルピーなどの大金を与えてやるのと似ている。そうすれば誰でも、神に助けられたと思うくらいに、その者に感謝するだろう」
ディーボは続けた。
「恐怖を与えて絶望させ、その後ゆっくり、優しくしてやる。それを繰り返すことで、だんだんと心を支配できる……」
グローバスはディーボの言葉にゾッとした。ディーボは続ける。
「すべて僕の将来の、
ディーボは別の生徒の方にスタスタ歩いていく。
「さぼるな! 手がちぎれるまで、腕を
バシイッ
また
その時、スーツ姿の老人が、あわてて訓練所に入ってきた。
「坊ちゃま!」
「おい」
ディーボは老人に言った。
「学校では坊ちゃまはやめろ、と言っただろ。なんだ、デニル学院長」
彼の名はボイド・デニル。ディーボの父の部下であるが、バルフェス学院の学院長も務めている。
「グラントール王が、ディーボ様に会いたいとおっしゃっています。すぐに城へ!」
「……ふむ、分かった」
ディーボは表情を変えず、ただ静かに言った。
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