第22話 ついに、個人戦トーナメントに出場するぞ!

 宮廷保養訓練施設にて、修学旅行の二日目。


 アリサは屋外広場で、魔導体術まどうたいじゅつの「型」を下級生の女の子たちに教えていた。アリサの型は見事だ。グラントール王国「型」試合で、三位入賞をしたこともあるそうだ。

 蹴り、突き、ひじ打ち、見事なスピードで技を見せていく。

 アリサはまるで先生のように、下級生の女の子たちに声をかけた。


「はい、しっかり技を放ったら、ビシッと止めること。これが重要だよ」

「はーい! アリサ先輩!」

「怪我をしないようにね!」


 アリサは女の子たちのあこがれの先輩のようだ。




 一方、僕はルイーズ学院長に、保養訓練施設の会議室に呼び出されていた。


 一階の奥の会議室に行くと、部屋の中は薄暗かった。奥の壁に貼りつけられた魔導鏡まどうきょう(記録した映像を映し出すための、魔法の鏡。円型)には、魔導体術まどうたいじゅつの試合の映像が映っていた。

 椅子に座ってその映像を見ているのは、ルイーズ学院長だ。

 その時、パッと部屋が明るくなった。天井の魔導ランプが点灯した。


「来たわね」


 ルイーズ学院長は振り返った。僕は立って、ルイーズ学院長の話を聞くことにした。一体、何の話をするのだろう?


「まあ、楽にしなさい。さて、二月の個人戦、レイジには出場してもらうことになったわ。それはもう分かっていますね」

「は、はい」


 う、うわ~。きた!


「グラントール学生魔導体術まどうたいじゅつ個人戦トーナメント」は、その年度の最強の学生を決定するトーナメントといっても過言ではない。それに僕が出場できるというのだ。信じられない気持ちだ。名誉なことだけど、ちょっと怖くなった。

 ちなみに出場予定だった十二月の冬期団体戦は、急遽きゅうきょ、下級生が出場するらしい。


 しかし、ルイーズ学院長は浮かない顔だ。そういえば、ルイーズ学院長の顔は、修学旅行初日の昨日から、ずっと考え深げだ。


「が、学院長、一体、どうかしたんですか?」

「……レイジ、あなたは今や、我がエースリート学院のNO1魔導体術家まどうたいじゅつか。きちんと言わなければならないわね」

「えっ?」

「エースリート学院は、無くなるかもしれないのよ……」

「えええ? ど、どういうことですか?」

 

 僕はあまりに驚いて、声を上げた。一体、どうして?


「それに……すでに、私は、もう魔導体術家まどうたいじゅつかじゃないわ」


 ルイーズ学院長は、さみしそうに言った。意味がさっぱり分からない。

 ルイーズ学院長は話をしてくれた。どうやらエースリート学院は、宮廷直属バルフェス学院に吸収合併される計画があるそうだ。つまり、エースリート学院の生徒は、バルフェス学院所属となってしまう。

 そしてルイーズ学院長は、バルフェスの魔導体術まどうたいじゅつ指導長に逆らったので、魔導体術家まどうたいじゅつかの資格を失ったそうだ。


「な、なんでそんなことになるんですか? 一体、誰がルイーズ学院長の資格を、はく奪したんですか?」


 僕は本当に驚いて聞いた。するとルイーズ学院長はつぶやくように言った。


「私の魔導体術家まどうたいじゅつかとしての資格をはく奪したのは、ディーボ・アルフェウスよ」

「ええ? 昨日、会ったバルフェスの生徒ですか?」


 僕は昨日、一緒にソフィアの練習試合を観戦した少年を思い出した。


「だ、だって、彼はバルフェスの生徒じゃないですか。魔導体術まどうたいじゅつ指導長って、先生がするものでしょう?」

「ディーボは生徒でありながら、魔導体術まどうたいじゅつ指導長なのよ。バルフェスは魔導体術まどうたいじゅつ養成学校では、最も権威があるわ。その指導長に『やめろ』と言われたら、従うしかないわ」

「そ、そんなバカなことがあるんですか!」


 僕はドルゼック学院を退学にされた日、ルイーズ学院長が声をかけてくれたことを思い浮かべていた。その時は困惑したけど、今考えると、本当に助かった。感謝している。


「冗談じゃない。どうしてルイーズ学院長が、そんな仕打ちを受けなきゃならないんですか? エースリートも無くなるなんて……」

「……レイジ。エースリート学院がバルフェス学院に吸収合併されない方法が、一つだけあるの」


 ルイーズ学院長は、カバンから一枚の紙を取り出した。僕は声を上げた。


「うっ、これは!」



『グラントール王国学生魔導体術まどうたいじゅつ個人戦トーナメント 対戦表 一回戦』


 Aブロック


『レイジ・ターゼット(エースリート学院一位)VSライガナ・ジェス(ドルゼック学院三位)』


『グローバス・ダイラント(バルフェス学院二位)VSレビン・ゾイラス(ゾーグール学院一位)』


『マステア・オリーダ(フェンリル学院一位)VSゲブンザ・ボリガ(ギルタン学院二位)』


『シンシア・マルカ(フェンリル学院二位)VSパターヤ・マイキ(グロウデン学院一位)』



 Bブロック


『ソフィア・ミフィーネ(バルフェス学院三位)VSジェイニー・トリア(ドルゼック学院二位)』


『ローガー・ザイクル(ゾーグール学院二位)VSドンカ・ブルボーネ(ギルタン学院三位)』


『ボーラス・ダイラント(ドルゼック学院一位)VSニッカネン・マソカ(グロウデン学院二位)』


『ディーボ・アルフェウス(バルフェス学院一位)VSベクター・ザイロス(エースリート学院二位)』




「もう、一回戦の対戦表が発表されたわ。来年の二月、トーナメント一回戦が、グラントール王立競技場で行われます」


 僕は自分の一回戦の試合を確認した。うーん、ドルゼック学院三位か……。知らない選手だけど、ドルゼック学院というのはやりにくいな。

 おや?


(ん? ちょっと待てよ……)


 僕はAブロック、つまり自分が勝ち進んだ時に当たる選手──つまり二回戦で当たる可能性のある選手を見て、唖然とした。


「グローバス・ダイラント! ダ、ダイラント? ど、どういうことです? まさか、ボーラスとかデルゲス・ダイラントと何か関係があるわけじゃありませんよね?」

「関係大ありよ。グローバス・ダイラントは、デルゲス・ダイラントの長男。ボーラスの兄よ」

「う、うわあっ!」


 僕は頭を抱えた。あのボーラスに兄なんていたのかよぉおおお! しかも、兄の方はドルゼック学院じゃなくて、宮廷直属バルフェス学院所属じゃないか!


 ルイーズ学院長は、ため息をついて言った。


「あなたには、このトーナメントで優勝してほしいの」

「ゆ、優勝!」

「それが、我がエースリート学院が助かる、ただ一つの手段です。バルフェス学院の上をいけば、私たちの方が優れているという証明になるのだから」

「そ、それはそうですけど」

「その優勝を目指す上で──注目してほしい試合があるの」


 ルイーズ学院長は、Bブロックの一番下を指差した。


『ディーボ・アルフェウス(バルフェス学院一位)VSベクター・ザイロス(エースリート学院二位)』


「あっ……!」


 僕は声を上げた。ディーボの対戦相手は、ベクターなのか! しかし、僕はディーボの試合は見たことがない。彼のことは良く知らないのだ。


 ガチャリ


 その時、ノックとともに、会議室の扉が開いた。


「入ってよろしいでしょうか、ルイーズ学院長」


 女の子の声がした。


「待っていたわ。よく来てくれたわね」


 ルイーズ学院長が女の子に声をかけた。会議室の中に入ってきたのは、ソフィア・ミフィーネだった。彼女は昨日の練習試合で、ドワーフ族の強豪、ブルボーネに完勝した。圧倒的な強さだった。


 ソフィアは一体、何者なんだろう? どうしてルイーズ学院長が、ソフィアをここに呼んだのだろう?


「レイジ君──。今のバルフェス学院は腐りきっています」


 ソフィアは僕の手を取って、いきなり言った。


「どうか私たち、バルフェス学院の生徒を救ってください!」


 ええっ? 僕は呆然とした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る