第8話 レイジ VS ケビン②

 僕は、恐ろしい山鬼族の生徒、ケビンと闘うことになってしまった。

 僕の体格は156センチ、58キロ。しかし、目の前の生徒、ケビンの体格は……約182~184センチ、おそらく77~78キロくらいだ。

 常識で考えれば、殺される。


 しかし、試合は始まってしまっている!

ケビン、今度は左ジャブと右ストレート。つまりワンツーパンチだ。今度は多少速い。僕はその二連のパンチを腕で受け、今度は彼の脇腹にボディーフック。つまり左横からの大振りのパンチ。チョンと当てる。

 何と、これも見事にカウンター。


「うっ、くっ」


 ケビンは何かを感じたようで、僕から離れた。観客はドッと笑った。


「おいおいおい~!」

「ケビンちゃんよぉ!」


 観客たちはあおりはじめた。や、やばい。ケビンが怒るぞ。


「そんなヒョロガリ相手に、何やってんの?」

「遠慮せずに、ボコッちゃえよ~。そんな野郎」


 僕はあわてた。み、身勝手なことを言いやがって! ケビンが本気になっちゃうだろ。僕が心の中で文句を言っている時、ケビンは決心したようだ。


 今度は左ジャブ三連打! 僕の顔に向かって、軽いパンチを打ち下ろす! 今度はスピードが速い! しかも魔力が込められていて、拳に青白い光がまとわりついている。本気の左ジャブだ!


 シャシャシャ!


 僕は全て……よけた! 体をそらし、腕で受け、三発目は肩で防御した。見える……! ケビンのパンチが全部見える。何だ? そうか、「ミット持ち」の経験が活かされているのか?

 そして、この光景には見覚えがある。昨日、ドーソン叔父さんのパンチをすべて手で払い落した時だ! あの時、叔父さんのパンチが、全て見えていた。


「な!」


 ケビンは真っ青な顔だ。


「お、お前?」


 すると今度はケビンは本気で、左下段蹴りだ! これは足の太ももを攻撃するのではなく、足首をりにいく攻撃だ。つまり、僕を転ばせるための攻撃なのだ。

 これをやられたら、ケビンは調子づいてしまうはずだ。

 避けなければ! 


 シュ


 僕は無意識にジャンプしていた。そして……僕は左フックを、ケビンのアゴに決めていた。


 ケビンが、「あぐ」という声を出したのを聞いた。

 僕は、完全に彼のアゴをとらえた。完璧な一撃だった。スピード、タイミング、すべて完璧だった……。


 ドサ


 ケビンが倒れた。……ケビンが倒れた! リング上に尻持ちをついている。セコンドであぜんとしているアリサの顔が見える。

 僕もあぜんとしていた。何が……起こったんだ? 僕が本当に、ケビンを倒したのか?


 ドヨドヨドヨッ


 観客席がざわめいている。衝撃的な光景だ、無理もない。


「ケビンが倒れたぞっ! エースリート三位のケビンがダウンだ!」

「おいおいおいおい! あの弱そうなヤツに倒されたぞ!」

「なんだこれ、なんだこれ~!」


 ルイーズ学院長は即座に魔導拡声器まどうかくせいきを使い、『カウント! 1、2、3、4』と声を上げた。


「ま、待て……や! こらあああっ!」


 ケビンがフラフラになりながら、立ち上がった。そう、僕はケビンをダウンさせたのだ。練習試合で、ボーラスたちからダウンさせられるのは、ほぼ毎日だった。しかし、今、僕はケビンという強敵を、逆にダウンさせている!

 何が起こっているのか、よく分からない。でも僕は、なぜか少し落ち着いている。


「てめえーっ、うがあああーっ」


 ケビンは僕に両手で掴みかかった。逆上だ。僕の魔導体術着まどうたいじゅつぎの胸ぐらをつかみ上げ、投げた!

 しかし僕はリング上でゴロリと回転し、投げの威力を最小限にして、そのまま立ち上がった。

 彼が何をしてくるのかが、完全に予測できた。だから受身うけみをとれたのだ。


「そんな技は効かない」


 僕は勇気を出して言ってみた。


「ひ、ひい、な、何だ、お前はよぅ……」


 ケビンの顔は真っ青だ。お、おや? 意外に言葉の効果があったようだ。ケビンは動揺どうようしている。無理もない。こんな弱そうな僕にパンチを全てかわされ、ダウンさせられたのだから。


「し、仕方ねえっ!」


 ケビンは真っ青な顔で、十歩も後ろに下がる。何をする気だ?


「砕け散ってもらうぜ、ガキィ!」


 観客はざわめいた。


「おい、やべぇぞ!」

「ケビンの必殺技だ」


 アリサは声を上げた。


「レイジー! あいつは、『ケビン・タックル』をする気よ! よけてぇ!」


 ケビンは僕に向かって走り込んでくる。あの巨体で、体当たりをされたら、ひとたまりもない。今までの僕ならば。


 ドガッ


 音がリング上に響いた――。


 僕の右飛び膝蹴ひざげりが、ケビンのアゴに入っていた。

 

 ――完璧だった。

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