第7話 レイジVSケビン①

 僕はレイジ・ターゼット。魔導体術家まどうたいじゅつかを目指していたが、養成学校であるドルゼック学院を、追放という名の退学。僕はメチャクチャ弱い、はずだったのだが……強くなってしまった(らしい)。

 なんだかんだで、エースリート学院のランキング三位、ケビン・ザークと試合することになってしまった。


(はあ……まいったなあ)


 僕はアリサとルイーズ学院長と一緒に、エースリート学院の試合用コロシアムに向かった。

 ドルゼック学院よりは小さいコロシアムだが、きれいな試合場だ。中央には最新の試合用リングが設置されている。


 その最新のリング上には、あの赤い肌の山鬼族やまおにぞく……ケビンが立っていた。セコンドのヤツらと笑って話をしている。ちきしょう、余裕だな。


「こっち向いて、レイジ」


 アリサが、用意してくれた体術たいじゅつグローブ(指の部分がないグローブ。魔導体術まどうたいじゅつ試合では、必ず着用しなければならない)を僕の手につけてくれた。


「で、おまじない。一分はリングに立っていられますように」


 アリサはグローブの拳部分を、ぽんぽん、と叩いた。適当なおまじないだな。一分も持つかな……。


 僕はリング前に来た。周囲には観客席があり、すでにたくさんの生徒たちが座っていた。授業はこの試合のために、休止になったらしい。なんてこった。

 僕は試合用リングを見上げた。観客の生徒たちは、まさかチビでヒョロガリの僕が、ケビンのような強う男と闘うなんて、誰も思っていないだろう。


「さ、お行きなさい。何も心配はいらない」


 ルイーズ学院長は、僕を強引に、リング上に押し上げた。そして自分は審判席に座り、アリサにも声をかけた。


「アリサ、あなたはレイジのセコンドについてあげなさい」

「あー、言うと思った。本当は男子のセコンドにはつかない主義だけど。レイジには借りがあるから、今日は特別」


 アリサは嬉しいんだか悲しいんだか、よく分からないことを言っている。

 さて、見るからに弱そうな僕がリングに上がってきたのを見て、首を傾げたのは、ケビンだった。


「な、なんだ、お前は?」

「あ、そ、その」


 僕は戸惑いながら言った。


「あ、あなたの相手の新入生、レイジ・ターゼットです」


 ケビンは眉をひそめた。すると、「あっ」と声を出した。


「お前、昨日の! 俺にボコボコにされたヤツか!」

「あ、そ、そうですけど」

「え? 何で俺が、昨日、ボコボコにした君と闘わなくちゃならないの?」

「さ、さあー? でも、ぼ、僕はあなたと闘わなければなら、なら、ならなくなりました」


 僕は緊張して、ろれつが回っていない。

 するとケビンは頬をふくらまし、セコンドの仲間と一緒に、ギャハハハハと笑いだした。


「おいおいおい、マジかよ。君、本気なの? 本気で俺と試合するつもり?」


 ケビンは見たところ身長183センチ前後、体重78キロ前後。魔導体術家まどうたいじゅつかとしては理想的な体格だ。一方、僕といえば、身長156センチ、体重58キロ。

 ドラゴンと子犬が闘うようなものだ。常識で考えれば、闘う前から勝負はついている。観客席からも失笑がもれている。

 僕は怖くて恥ずかしくって、逃げ出したくなった。


「いやいやいや~、まいったな」


 ケビンは苦笑いして、審判席についているルイーズ学院長を見た。


「学院長~、冗談はやめてくださいよ。このチビの新入生、俺のパンチで死んじゃいますよ」

「冗談でも何でもありませんよ。この新入生、レイジ・ターゼットと真剣勝負で闘いなさい」


 僕は頭がクラクラした。真剣勝負うぅぅ? ななななな何言ってくれちゃってんの~、この学院長! 


「ほ、本気ッスか?」


 ケビンは目を丸くしている。無理もない。


「ケビン、闘わないと、不戦勝とみなしますよ。あなたの成績にそう残ります」

「悪い冗談だろ~。昨日、俺がボコッたヤツじゃん」


 ケビンはブツブツつぶやいた。


「しょうがねーなー。レイジ君、ちょっと遊ぼうか~」


 観客席はドヨドヨドヨっとざわめいている。一体、この光景は何なんだ? 学院三位の男、ケビンが、チビでヒョロガリの僕と真剣勝負を行うという。こんなバカな話があるか? ルイーズ学院長は、いったい何を考えているんだろう?

 はい、観客席の生徒の皆さん、あなた方は正しいです。僕はそう言いたかった。


「不戦勝になっちゃうなんて、不名誉だなあ。成績にも響くし。じゃあレイジ君、ちょっと軽~く、いくからね」


 ケビンは半笑いしながら、上から軽いパンチ──左ジャブをゆるーく打ち下ろした。身長差があるから、ケビンもパンチを打ち下ろさざるを得ない。

 僕はそのパンチを避け、ケビンのお腹にチョンとパンチを当てた。目の前にケビンの体しかないんだから、仕方ない。

 お、うまい具合に、カウンターになったぞ? それに、体がやけに軽いな?


「お? うう?」


 ケビンは首を傾げている。

 ……なんだ? 僕はの体は、羽が生えているように軽かった。そして、こぶしがうずいている。


 もしかして僕は、本当に強くなったのか?

 そう、僕は本当に強くなったのだ。

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