2019.12.23
クリスマスライブ本番前日。
本番に近づくにつれ、だんだんと練習日が減っていた。普段なら入念に練習するし、シミュレートだって重ねるのに、それができないくらいに三人が揃わないことが増えていって。どうにも全員が全員、噛み合わない。
年明けに向けての雑誌の個人撮影中、カメラマンに言われた。
「
「え〜? まあたしかに、ボクと
「ああ、やっぱり単なるデマかぁ。巷では
「なにそれ」
「え? いや、噂だよ。ほら、今日も陽向くんはひとり撮影だけど、先週はあっちのふたりの撮影が同時にあったしさ」
「きいてない」
「ひ、陽向くん……?」
背中が寒い。何を言われてるのかもうあやふやだった。頭の中がぐちゃぐちゃする。なんとかボクを取り繕ったけど、撮影が終わってすぐにみーくんに連絡した。怖い。怖いよ、みーくん。
「みーくん、今なにしてる?」
『学校帰りだよ。ヒナは撮影終わり?』
「う、うん。あの、あのね、変なこと聞くけど」
唇が凍りそうだった。いつもだったら、みーくんがボクの仕事を労ってくれるだけで頭が幸せになれるのに。そんなことを気にできないくらい、頭の中が灰色がかってて。電話の向こうから微かに聞こえた声のせいで、涙が溢れてきた。
「白鶯と、いっしょ、にいる……?」
わかってることを聞いてしまう。それに対して何を言われたかったのかはわからない。でも、一緒にいるなら、ボクも呼んでくれたらって、ただそれだけだった。のに
『──いないよ』
声にならない悲鳴が上がった。みーくんに、嘘をつかれた。どうして嘘をつく必要があるのか。全然わからなくて、涙と一緒に声が溢れてくる。
「どこにいるの! みーくん! 会いたい! 今すぐ! みーくん!」
『ダメ。絶対に来ないで』
「なんで? どうしてなの、みーく──」
『また明日ね』
一方的に切られた電話。続く無音を耳に流しながら、ボクは事務所に向かって走り出した。
事務所の前で、とある男とすれ違った。たしか別の事務所の、なんだっけ、ユニット名が思い出せない。ともかく格式高いユニットで、うちとは──MesseRとも、
そうして、会いたかったひとの顔を、見つける。
「みーくん!」
「ヒナ──」
みーくんはこれ以上ないくらい目を見開いていて、次の瞬間には「来ないでって言ったのに」と顔を歪めていた。その隣、みーくんが腕を掴んで離さないあいつの顔を見て、ボクの沸騰した頭は真っ白になる。
「ねえ、最近、わけわかんないよ。どうしてボクは来ちゃいけないの。ふたり、一緒にいるのに。なんで、いないなんて言うの。ねえ、ボクを、避けてるの。ボク、何かした。ボクが、ワガママだから。それで、ふたりしてボクを仲間外れにするの」
「違う。違うよ、ヒナ」
「何が違うの! ねえ、みーくん! ボクのことも見てよ! なんで、なんでそいつばっかり! 練習だって、ボクは真面目にやってるのに!」
「ヒナ、落ち着いて」
みーくんの気がボクに向く。やっとこっちを見てくれた。安堵に一瞬頬が緩めば、白鶯はみーくんの腕を振り払って。
「だから、言っただろうが」
「シキ!」
「もう触んな。お前らと俺とじゃ、目指すものが違えんだよ」
「……え、なに。なんの、話」
「ヒナ、あとで説明するから」
「ピーピーうるせえ。陽向も、芧、てめえも。停止した思考のエゴばっかりぶつけやがって。てめえらのママゴトにゃあもうウンザリなんだよ!」
「シキ、まだ話は──」
「まって、待ってよ!」
話が全く見えなかった。ボクが激昴して縋り付きに来たはずなのに。突然怒り出した白鶯はそのまま外へ走って行ってしまって。追いかけようとしたみーくんはボクを気にして動けずにいて。何から何まで、めちゃくちゃだった。
翌日のライブは、出演辞退。そのあとのレストランも、もちろんキャンセルになった。
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