2019.12.14

 街はクリスマス一色に染まっていた。街がそうってことは、ボクたちが出演するクリスマスライブももうすぐそこだ。

 MesseRメッセの作風的に、クリスマスらしいことなんて思いつかなかったけど、もうこれも三度目のこと。いつもみたいに。そう、いつもみたいに社会風刺を歌いながら、誰かの幸せの後押しをする。クリスマスにすることだって同じ。大好きなみーくんと、ちょっとムカつくけど嫌いになれない白鶯はくおうと、そんなふたりに見劣りするかもだけど、一生懸命かわいく頑張るボクの、この三人で。

「ねーねー、今年の打ち上げはどこ行く?」

 大きなステージのあとは、三人でご飯に行くのが習わしだった。クリスマスはレストランの限定メニューが増えるから楽しい。けれど、そんなボクの高揚感とは裏腹に、うちの問題児は練習が終わるや否や身支度を整えた。

「俺、パス」

「はあ〜? なにそれ〜! まあ、みーくんと二人でもボクは別にいいけどお!」

 ねー、とみーくんを見れば、いつだったかと同じ曇った顔で。ボクの向こうに手を伸ばす。

「シキ」

「放せ。行かねえっての」

「お願い」

「……チッ」

 みーくんは何を焦っているんだろう。大きな舌打ちを落とした白鶯は、仕方無しにと腰を落とす。

「けっきょく行くの? ……ていうかさ、このあいだから、なんなの」

 みーくんはじっと白鶯を見つめていて。白鶯は、そんなみーくんから逃げるように視線を逸らしていて。どうしてボクだけ蚊帳の外。

「……まあ、いいけど」

 なんとなくいたたまれない。だから全部飲み込んで、ボクは行きたいレストランのホームページを開いた。

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