2 企画

「ええと、セゾンの葵海坂あおみざかさんに、マジアワのうたくん、霹靂神はたたがみの二人と……」

「マリーメアの八神やがみさん、ティアゼからシキと種田たねだ

「げえっ、あいつら来るのお? んーとあとは、ピエージェ……ああ、いおりんのとこか。そこから幸坂こうさか鳴崎なるさきね。あとリルドロが二組」

「だいちゃんとたっちゃん! ぎんちゃんとひこちゃん!」

「ひええ、人いっぱいだあ……」

 参加者リストを読み上げ、なるは項垂れる。想像以上に、様々なユニットが興味を寄せてくれた。Bsプロの同期ユニットはどちらも──始末書の噂を聞きつけたのか──協力を惜しまないようで、それ以外にも手伝いに名乗り出てくれたアイドルは多い。こうまで人が動くイベントになったことに感動しつつ、鳴はプレッシャーで死にそうだった。

「トーナメントどうしよっか。人数的にボクたちからパフォーマンスも必要そう?」

「クラおどりたい!」

「俺は当日も適当なところでいいよ。あ、優勝賞品のツッコミソード、そろそろ完成するみたい」

「ああもうお前ら! 不慣れなリーダーを気遣って! ひとりずつ話して!」

 そういうわけで、各々のやりたいことをすべて放り込んだ企画──流行はやらす!Dance the Partyダンスザパーティ!が始動したのだった。



 秋風が肌を撫でる。公式Tシャツは失敗だったかなあ、などと肩を震わせながら、鳴はMarionette×Nightmareマリオネットナイトメア──通称マリーメアの雨乃霧兎あまのきりとと共にビラ配りに踊り出ていた。他のメンバーは設営や受付で分散して仕事をこなしている。本来であればリーダーである自分が設営の指揮を取るべきだろうが、そのへんは陽向ひなたが理解してくれている。ちら、と横に目をやれば爽やかな笑顔が街道に向けられていた。

「ん、どうしたの?」

「あっ! いえ! なんでも──」

「ふふ、鳴くんは面白いね」

 何が面白いのか、どう言葉を返せばいいのか、わからないままにパクパクと口だけが動く。初対面の、しかもエーデルの、マリーメアの、キラキラの、アイドルの先輩と二人きり。設営のほうにいれば良かったと若干の後悔とともに、隣に立つイケメンのオーラは役得だが今すぐに溶けてしまいそうだ。

「あっ、き、霧兎さん! ビラ、多く持たせちゃってす、すみません!」

「ああ、気にしないで? ほら、俺のほうがアイドルとして先輩だし」

 後輩に頼ってもらえるのは嬉しい。そんな霧兎の言葉に、鳴はまた溶けそうになる。

「えっ、えっ、うっ、すみません。えっと、あ、お、おれ、飲み物買ってきます! 何がいいですか!」

「飲み物? んー……じゃあ、俺は水がいいな。えーっとお金は」

「お、お金! けっこうです! す、すぐ買ってくるので!」

 こういうことに経費を使わねば。脱兎の如く走り出し、鳴は自販機へと逃げ出した。

 霧兎だからこうなわけではない。誰にでもこうで、言葉が上手く出てこなくて。なんとなくパシリを名乗り出てしまう。

(またやってしまった)

 小銭を機械にねじ込み、ガコン。出てきた水を抱え、自分も適当に缶コーヒーを選ぶ。が、出てこない。

「た、足りない……」

 小銭が。いくら財布をひっくり返しても、出てくるのは1円だけ。こういうときに限って、札も諭吉しかいない。お金をもらってくれば良かった、と渋々踵を返せば

「ぶっ」

 何かに額を打ち付けた。

「……」

「だえっ!?」

 思わず珍妙な悲鳴をあげてしまう。目の前に佇んでいたのは、

「は、白鶯士葵はくおうしき……さん」

「お前、たしかあいつらんとこの」

 あいつら、もしかしてみくりと陽向のことだろうか。そう思考してブンブンと頭を振れば、士葵は自販機へと小銭を投下した。

「せいぜい、楽しませてもらう」

「えっ」

 渡された缶コーヒー。そのまま立ち去る男の背を眺め、鳴はコーヒーを握りしめた。

「極甘コーヒー…………無糖が良かった」

 霧兎の元へ戻るやいなや、支給されたBsプロ水に気づくのはまた別の話。購入したほうの水を選んでくれた霧兎は優しかった。

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