1 始末書

 無機質な部屋の中心で、なるはひとり肩を震わせていた。

 こうなることを予想しなかったわけではない。いつだってノリと勢い、楽しくパーティ!が自分率いるアイドルユニット、ハヤラスのテーマだ。そうだから、今回もノリだけで舞台に励んだものの、どうやらそれは大人の事情に引っかかってしまったようで。

「始末書代わりに企画書を出せ……って、うう、読書感想文だって書けないのに!」

 ことは前回の大型イベント、ハロウィンナイトフェスティバルの一件に遡る。なんともノリの良いアイドルとの急な共演を果たし、会場は大いに盛り上がった。いつもならば事務所関係者も笑い賞賛し、「ハヤラスらしくて良いね」と言ってくれる。が、今回ばかりは、社長の琴線に触れてしまったらしい。わけのわからないまま、鳴は社長の前で縮こまり、内心「おれのせいじゃないのに」と泣いた。そうして強面の社長より渡された挽回策、それがこれだ。

「アイドルが流行を発信する対バン企画……いや投げやりすぎる! 流行ってなに! 今期のアニメしかおれは知らんわ! 企画そのものだって! おれはまだ高校生のアイドルだぞー!」

 ひとりで騒いでいても仕方がない。重い腰を上げて、頼れる仲間だと信じたい仲間たちの元へと歩みを進めた。



「──と、いうわけです」

 半ば涙声になりながら、鳴はこちらを見る面々へと訴える。こんな事態になった元凶ともいえるクラウスは、ひととおり話を聞いたと思いきやレッスン室を駆け回り、適当なポールに登り始めた。陽向ひなたは「ふうん」と鼻を鳴らしてケータイを構い、みくりにいたっては素振りを始めている。

「うっ、お前らぁ、ひとごとじゃないんだからなあ!」

「わかってるっての。流行、でしょ? 今だと部屋の中でできることが人気出やすいんじゃないかなー」

「え」

「俺はやっぱりお笑いかな。今ならザッスラーズが旬。ショーチキノーチキ〜って挨拶が流行ってるね」

「え?」

「クラはきのぼり! だいちゃんとのぼった! みんなたのしい!」

「部屋の中って言ってんでしょ。で、だいちゃん? ああ、ヴァンドの子だっけ。あの子たちの屋台、事務所でも人気だったみたいだよお」

「クラもみた! にらめっこ!」

「屋台が大盛況、ある意味でそれも流行りだね。室内で安全に体を動かせる、それが肝かも」

「え、あの、皆さん……?」

 動揺する鳴をよそに、陽向はどこからかホワイトボードを引っ張り出してきた。

「ハヤラスもそろそろ企画物扱っても良いと思ってたんだよね。さすが社長、良い采配するじゃん〜! ってわけで、鳴ちゃんもぽんぽん意見出してよね」

「えっ、あの、もしかして、慣れてる……?」

「アイドルユニット自身が企画を主催することはままあるよ。なかなか審査に通らないことも多いけどね。でも今回は俺たちが企画する前提での話。良い子を作ろうね、ナル」

「クラこーいうのはじめて! なーちゃん、がんばろ!」

「は、はえぇぇ……」

 なんだかすごいことになってきた、そして頼もしい仲間で正解だった。鳴がほっとしたのもつかの間、またすぐに陽向から催促の怒号が響くのであった。

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