3 流行ダン!

 トーナメントは、最大四回戦うことになる、勝ち上がり戦だ。参加者をシードに置かないために、ハヤラスの面々もみくりを除く三人が組み込まれた。クラウスと陽向ひなたはシード枠として二回戦から、なるは初戦から名前を連ねることになる。

 そして、鳴の初戦の相手はチームP(この名前も芧が勝手にわかりやすく名付けたものだ)の幸坂優こうさかゆう鳴崎なるさきみさと。ピエージェというシュメルヘンプロダクション所属の新人アイドルだ。二人とも高校一年生、今を輝く元気で輝かしい二人組だ。

「いくよっ、みさと!」

「優、流れは大丈夫だよね?」

「……もちろん!」

 ふたりはぴったり息が合っている。優が時折アドリブを入れても、それにしっかり応えるのがみさとだ。先に繰り広げられる演目を眺め、鳴はひとり肩をさすっていた。

 結果は惨敗。笑顔で相手を賞賛したものの、控え室に戻ってひとりでプンプンした。



 二回戦、いよいよクラウスや陽向の出番である。初戦後に合流した芧と共に、鳴は最前列でタイムキーパーを務める。

 つい先程鳴を負かしたチームPの対戦相手は、マジアワの馬酔木詩あせびうただ。愛くるしい見た目から放たれる豪快な動きが見るものを魅了していく。チームPの二人も先ほどと同様に軽快な若々しい振りを披露していたが、裏で何か揉めていたのを見掛けた。なんとか丸く収まったようだが、どことなくお互いがお互いを気にしている。仲が良い故だろうか。

 そして次、クラウスの対戦相手はなんとセゾンの葵海坂純あおみざかまことだ。この企画、略して流行はやダンの発端となったハロフェスの一件。その因縁ともいえる。(完全に純は巻き込まれ損だが)純と交えることにテンションの上がりまくったクラウスは、いつも以上に高く飛び跳ね、見栄えの良い振り付けを惜しげも無く披露している。対して純はそれに踊らされつつも、誰もが覚えられる振り、こちらを誘う手足の動きをふんだんに取り入れていた。

 ここまでのキーパリングを終え、鳴は陽向に休憩の合図を送る。

神鷹こうたか、ぜんっぜんダメじゃん!」

「うぇ?」

「流行らす! 主旨を理解してない!」

「しゅし? しゅし…… しゅっしゅー!」

「ぽっぽー」

「み、みーくんも乗らないでよお」

「まあまあ…… 楽しんだもん勝ちだから」

「初戦敗退でなに安堵してんの鳴ちゃん」

 主催がこれだ。頭に血が上る陽向を押さえつつ、各対戦の結果に目をやる。Aブロックの結果は、おそらく周りから目をつけられていただろうクラウスや、鳴を負かしたチームPが敗退。準決勝へとコマを進めたのは詩と純だ。かわいいもの対決といったところだろうか。そうして休憩を挟み、Bブロックの対戦となるが、そこにはチームT──ティアゼがいる。相手は霹靂神はたたがみという、プロプリの強豪ユニットだ。

「ここの対決、怖そう」

「すっごい小並感。えー、でももしあいつらが勝ってきたらボクと戦うんでしょお? 顔見たくないのにー」

「もう勝ったつもりでいるのヤバい」

「とーぜん」

 鼻を鳴らし、陽向は三人から離れるとにっとブイサインを送る。

氷麗つららとその弟。弟のほうはよく知らないけど、やり手なのはわかってるよ。だからこそ、ボクは負けない」

 その宣言通り、陽向はチーム雛菊ひなぎくに勝利を収めた。さすがは兄弟ともあって息の合ったコンビネーションだったが、陽向の負けん気が働いたのだろう。反対に、危惧していたチームTは霹靂神に敗れた。顔を見たくないと言っていたが、ほんの少し陽向が残念そうな顔をしていたのを鳴は見逃さなかった。



「くーやーしーいー!」

「お疲れ、ヒナ」

「みーくん! ボク悔しい! ぎゅってして!」

「はい、ぎゅう」

「うえっへへへ」

「いやきしょいって。うん、ともかく残念だったし、まさか決勝がプロプリに支配されることになるとは……」

「マコちゃんすごい!」

 準決勝まで駒を進めたものの、陽向は霹靂神の前に敗れる結果となった。決勝戦の前に前座を務めるヴァンドたち不思議モンスターズを見送ってから、陽向は人知れず悔し涙を零した。どこか懐かしささえ覚える曲目を耳に挟みながら、ヴァンドと共演するクラを除く三人は大会締め括りの準備に入る。

 決勝戦は、霹靂神の二人対、セゾンの葵海坂純だ。どちらも強豪プロダクション・プリローダ所属のユニットであり、さすがはプロプリ、といったところだろうか。どちらが勝ってもおかしくはない。そうなると、懸念すべきことが鳴にはあった。

「……葵海坂さんは許してくれそうだけど」

「言いたいことはわかるけど、告知の段階で出してるんだから大丈夫でしょ」

「俺は欲しいよ?」

「お前の発案だからそりゃな! ていうか欲しいなら芧も出場すれば良かったじゃん!」

「俺はダンスは観る専門ざんす」

「あ、今のはちょっと面白い」

 ヨヨイヨイ、と芧が盆踊りよろしく振るう金色のハリセン──もとい、ゼッタイバズルソード。これが優勝賞品なのだ。霹靂神の怖いほう、磯沢輝恭いそさわききょうの怒りを買わないかと、鳴の胃が痛む。

「どうか葵海坂さんが優勝しますように──!」

「うわ、磯沢さんに言ってやろ」

「やめて!すみません!どっちも勝ちますように!」

「なんじゃそら」

 そんな鳴の不安をよそに、熾烈なパフォーマンスバトルは最高潮を迎えるのであった。

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