1 会場
肌寒さに衣替えを迎える頃、街も人も浮き足立っていた。
オレンジ、紫、黄色、緑。色とりどりのカボチャに染め上げられた街道は、ハロウィンナイトフェスティバルの会場となっているのだ。
ハロウィンナイトフェスティバル。通称ハロフェスは、各事務所のアイドルたちが一堂に会し、一夜限りの共演を遂げる祭典だ。各々がおばけやら何やらに仮装し、ファンやアイドル同士で魔法の言葉を投げ合う。ファンからすれば、そのアイドル特有のファンサービスが間近で受けられるほか、各ユニットを巡るスタンプラリーによって更なる特典を受けられる。そんな豪華極まる催しということもあり、未だ本番当夜でないものの、すっかり賑わいを見せているのだ。我先にと、当日チケットの完売は瞬間的なものだったという。
そして、今日はゲネプロが行なわれる。リハーサルのリハーサル、のようなものだ。ステージ周辺は関係者立ち入り禁止とされており、アイドルたちも気兼ねなくハロウィンの前夜祭を楽しむことができる。
「ナルがハロフェスに出たいって言い出したのは意外だったね」
出番待ちの間、ハヤラスの面々は出店を見て回っていた。先陣切って歩くのはクラウスだ。どこもかしこも目移りばかりで落ち着きのない彼を、
「いやー、おれもハロウィンとかリア充のイベントだし滅べって思ってたけどさ、こういう大きなイベントは積極的に出ないとでしょ」
「……ねえ、みーくん。鳴ちゃんがリーダーっぽいこと言おうとしてるんだけど。具合でも悪いのかな」
「心配だね」
「お前ら! なにゆえ! おれ! 真面目!」
一軒一軒、先頭でクラウスは出店を覗き込む。どうやらアイドルが出店しているところもあるようで、時折知り合いを見つけてはしゃいでいるようだ。
「
「あ、ちゃんと調べたんだ〜?」
「デカさには慣れておかないと、おれの心臓がもたない……!」
「いつもの鳴ちゃんだったわ」
ふと、クラウスがある屋台の前で足を止めていた。その垂れ幕には『ヤバい粉屋』と書かれている。
「クラ、あかん!それはやばいって!」
「おいしそーだよー!」
「美味し……?」
見れば、ジュージューと焼ける音が軽快に響いた。鉄板の上でひっくり返されるそれに、思わず腹の虫が湧いてくる。
「お、ハヤラスさんやーん! どない? スザッキーお手製のヤバい粉食うて行かん?」
「あ、ティアゼの……
前回の校内ステージ後、しっかりと復習したのだ。種田
「スザッキーって呼んでや〜! トンビくんとオレの仲やんか〜!」
首を横に振り、もう一度名前を呼ぶ。
「種田くん」
「なんでやねん!」
鳴はどうにも、こういう人種が苦手だった。いきなりあだ名で呼んでくるのも、無理矢理懐に入って来ようとするのも。それに何より、
「やばいこな、おいしそー! クラ、いっこほしい!」
「あいよ、毎度ぉ〜!」
見る見るうちにできあがるお好み焼きは、オレンジ色だ。
「カボチャを生地に練り込んでんねん〜凝ってるやろ? ほらほら、トンビくんも」
「いや、おれカボチャ苦手なので」
「えー! もったいなー!」
嘘ではない。瓜科の食べ物全般苦手なのだ。そしてこの男も苦手なのだ。お好み焼きをはふはふと頬張るクラウスの腕を引き、鳴はそそくさとそこから離れた。
「なーんや、釣れへんなあ。あ、オレらハロフェスは出えへんねん。せやから、ハヤラスの舞台楽しみにしてるで! みんなで見に行くなー!」
大声で張り上げた声に、今度は芧が足を止める。
「シキも来るの?」
「サギくんやん。相変わらずイケメンやなあ。せやで、ちゃんとシキくんも連れて行くさかい、気張ってや!」
「どうでもいいよ。みーくん、早く行こ」
「ヒナくん冷たー!」
「ヒナくん言うな、馴れ馴れしい」
騒がしくも足早に去っていくハヤラスを見送り、朱雀は頬を付いてニヤリと笑んだ。
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