2 ユニット


「で? 企画もぜんぶ向こうに丸投げしてきたわけぇ?」

「えっ、ダ、ダメだった……?」

 事務所の会議室で、なる陽向ひなたを見上げる姿で正座させられている。思わぬ緊迫した空気に、滝のように汗が流れて行った。

「たしかにボクたちはゲストだけどさあ、ハヤラスの良さを一番知ってるのは誰? ボクたち自身だよね? それを相手に任せたら、もうそれは相手だけの舞台じゃん。段々UP!だんだんアップとボクたちは、曲のジャンルは近いかもしれないけど、全然違うの。先輩の胸を借りる、って正しい意味わかってる?」

 仁王立ちのまま、有無を言わせぬようにして陽向は唾を吐き出す。ふるふると震え、鳴は隣で悠々と椅子に体を預けるみくりの足元に縋り付いた。

「ひーん、芧ぃ、助けてぇ〜…… 陽向くんのお説教が止まらないぃ……」

「ナルも言い方が悪いよ。出演は決めたから、内容は各々で詰めてこようって話だったでしょ。ちなみに、胸を借りるの語源は相撲らしいよ。ドスコイ〜」

 出演が決まるや否や、段々UP!のはるきは企画について動き始めた。対する鳴はというと、そういったメディア露出への浮ついた心が隠せず、何をするにも頷いてしまう勢いだったのだ。

「うっ…… でも、ネット配信とかわかんないし、慣れてるはるきくんたちの案に乗ったほうがいいかなって……」

「ほんっとに鳴ちゃんは甘い!」

「なーちゃんおかし?」

「甘くておかしいお菓子」

「味方がいない……」

 怒涛のお菓子ラッシュに頭を抱える。痺れた足を崩しながら、低く唸り声を上げた。

「じゃ、じゃあ、陽向くんは何か案とかあるの?」

 言えば、よくぞ聞いてくれたとばかりに、陽向は胸を反らせる。思わず鳴は耳を塞ぎたくなった。

「ボクの可愛さをみんなにプレゼンしてもらうの! フリップ用意して、ヒナくんクイズ! 存分にボクを敬うがいいよ!」

「それハヤラスじゃなくて陽向くんのための企画じゃん!」

「案のないひとに言われたくなーい」

 ぐうの音も出ず、鳴は逃げるようにして視線を芧へ移す。

「みんなで一発芸とかどうかな。ぜんぶ俺が突っ込んであげる」

「却下。お前ツッコミ成功したこと一回もないからな! ハリセン使いたいだけだろ!」

「ナルから貰ったこれ、俺と相性最高なんだよね」

「じゃあまともなツッコミしてください。次! クラは!」

 聞いた自分が馬鹿だった。唐突に振られたクラウスは、テーブルの上に乗りあげようとした。慌てて鳴は彼の腰を抱き、必死にそれを食い止めるも。

「ドッヂボールしたい!」

「配信で! ネット配信! 室内でやるから!」

「おへやでできるよ?」

「広さ考えて! 体育館レベルのお部屋が必要だよな!」

 ウーンと静かになるクラウスから離れ、たよりないリーダーはがっくりと膝を落とす。

「ダメだ…… こいつらがまともな回答をするわけがなかった……」

「これが俺たちだよね」

「そーそー。みーくんの言う通り」

「クラあそびたい!」

 あまりに自由だ。しかし、これがハヤラス、というのも間違っていない気がしてきた。はた、地面を見つめたまま、鳴はぽつりと呟く。

「そうか、これがおれたちなんだから……」

 三人の視線が鳴に集う。

「それこそ、陽向くんクイズじゃなくて、ハヤラスクイズとかにしたらいいんじゃ……? みんなのいいところ紹介もできるし、おとぼけ回答にツッコミもできるし、ミニゲーム要素を入れたら遊びにもなるし……?」

 止めどなく溢れる言葉に、陽向はふふんと鼻を鳴らした。

「ようやくボクのアドバイスに気づいたね」

「本当かよ……」

 思わぬ形で案がまとまってきた。釈然としないがしかし意気揚々と、鳴ははるきにメッセージを飛ばした。

 楽しい収録まであと数日。

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