12.土蜘蛛たちの住処へ
次の朝、日の出と同じぐらいの時間に叩き起こされ、朝飯を食うとすぐさま土蜘蛛たちのアジトへと出発となった。
て言うか、日の出の時間に起こすとか勘弁してくれよ。俺まだ眠いんだが。昔の人の時間感覚舐めてたわ。昔は日の出と共に起き、日の入りと共に寝るんだもんな。現代人の俺にとってこのペースはちょっと慣れそうにない。
「さぁ、出発でござるよ。勇人殿! ほら、シャキッとする! さっさと来ないと置いていくでござるよ!」
何故だか妙にエネルギッシュな千代ちゃんにケツを叩かれ、俺も気を引き締め直す。
「それにしても気合入ってるな」
俺が何の気無しにそう言うと、千代ちゃんはこちらをキッと睨んで、怒気の孕んだ声で叫ぶ。
「当然でござる! 土蜘蛛は若様を殺した憎き相手! それがしの手で仇討ちをせねば気が済まぬでござるよ!」
お、おおう。ちょっと勢いが怖い。ていうか、俺の言ったことそのまま信じたのね藤御前。しかし、案内人の千代ちゃんに伝えて大丈夫なのだろうか。そのままの勢いで土蜘蛛殺しにかかって逆襲されそうな気がビンビンするのだが。
「仇討ちはいいが、気を入れすぎないようにな。足下が疎かになると掬われるぞ」
「そう言う貴殿も足を引っ張らないようにお願いしたいでござるな! それがしの仇討ちを邪魔しないでもらいたいでござる」
ダメだこりゃ。完全に仇討ちで頭ん中一杯になってる。これは俺がフォローしなきゃダメっぽいなぁ。
「分かった分かった、邪魔しない邪魔しない。一緒に仲良く仇討ちと行こうや。それじゃ案内お願いね」
そう言うと、千代ちゃんはこちらを振り向くこともせずにそのままズンズンと進み出す。そして、それに続く俺たち。
なんと言うか前途多難だなぁ。
※ ※ ※ ※ ※
「ところでさ、あの利光はどうなったんだ?」
土蜘蛛のアジト付近に来る前、途中に入れた休憩の時に雑談のつもりで千代ちゃんに話しかける。
「次郎三郎殿がどうかしたでござるか?」
「いや、俺を襲撃したことで、罰なり何なり受けたのかなーって」
「何でござるか、それ?」
「え?」
「え?」
千代ちゃん利光のこと聞いてないのか。よく考えれば昨日の騒動の時顔を見せなかったし、今日の朝も飯食ってすぐに出発だったからそんなのを聞いてる暇がなかったのかも知れんが。
「いや、昨日の夜、陰陽剣の後継者の座をかけて、とか言って俺を闇討ちしてきてな。それに関して何か進展があったのか、気になってな」
「そうでござったか。生憎それがしはそれについては初めて聞いたゆえ、詳細はわからないでござるよ。ただ、対外的には
やっぱ罰受けるのか。まぁ、あれ自体は奴の自業自得だから同情する気はかけらもないが。
「しかしまぁ、向こうは事情は知らないとはいえ、気持ちはわかるでござるよ。それがしも貴殿が陰陽剣を受け継ぐことに納得しているわけではないゆえ」
「う……。いや、俺もな、試練を突破する気はなかったんだ。ただ、向こうがいきなり襲ってきたから反撃しただけで……。あと、一応藤御前様からはお墨付きはもらってるぞ?」
「知ってるでござるよ。だが、藤御前様が認めていようと、それとそれがしの納得は別問題でござる」
「そうだよな……」
まぁ、そりゃそうか。自分の支える家の代々受け継がれてきた魔剣をどこの馬の骨とも分からない奴に掠め取られたんだもんな。そりゃ悔しい思いがあるか。
「さぁ、休憩はこれぐらいにして進むでござるよ。奴らの住処はすぐそこでござる」
そう言って、千代ちゃんは立ち上がると再び先導を開始する。
うーん、会話の選択失敗した感があるなぁ。別に千代ちゃんと仲良くする必要はないっちゃないんだが、これから背中を預け合う仲なんだから少しはコミュニケーションを取っておこうと思ったんだが。
て言うか、さっきから青龍も白虎も一言も喋らないんだよな。千代ちゃんも二人をいないかの如く扱ってるし。うーん、空気がギスギスしてるなぁ。
※ ※ ※ ※ ※
休憩から1時間ぐらい歩き続け、山の中に入っていく俺たち。そこで千代ちゃんが立ち止まってこちらを振り返る。
「そろそろ、奴らの住処と目されている場所でござるな。各々方、準備はよろしいでござるか?」
「ちょっと待ってくれ。『プリベンション』。よし、準備万端だ」
「こちらも滞りなく」
「オッケーだよ」
青龍はここに来る前にすでにアイテムボックスから槍を出して装備させている。白虎に関してはシュッシュッとシャドーボクシングをしている。そういえば白虎の奴この世界に来る前にアイテムボックスに武器入れないのかと聞いたのだが、発動体以外特にいらないって答えたんだよな。その代わり、入れたのはスマホとかノートPCとか電子書籍とかだったが。
ともかく、武器が要らないと聞いてこいつは魔法系かと思ったのだが、昨日の土蜘蛛に入れた掌底やら、今のシャドーボクシングやらを見るに、どうやらこいつは格闘家であるらしい。
しかし、格闘家なのはいいがグローブすらしなくて大丈夫なのだろうかと、ちょっと心配になる。さらにはこれから戦うのは蜘蛛の妖怪。体液ぐちゃりとかなりそうで、すごく触るのが嫌なんだがこいつは大丈夫なのか。
まぁ、本人はオッケーと言ってるのでオッケーなのだろう。俺も陰剣を抜いて辺りを警戒する。あ、代わりの刀が手に入ったんで現代地球で買った美術品扱いの刀剣はアイテムボックス行きです。グッバイ俺の初日本刀。こんにちは陰陽剣。
(妖怪の気配は特にしないわね。本当にこの辺りに妖怪がいるの? ねぇ、
(私たちは妖怪の探知も出来るのよ。少なくとも、この周囲にはいないわね。ねぇ、
(いや、お前ら昨日の土蜘蛛探知できてなかったじゃん)
俺がそうツッコミを入れると、陰陽剣からたじろぐような感情が感じ取れた。
(あ、あれは、隠密に特化した個体よ。あれを見破るのは困難よ。ねぇ、
(むしろ、あなたの式神が何故探知できたのかそちらの方が聞きたいわ。ねぇ、
またしても青龍の凄さがわかったが、あれ隠密特化の蜘蛛だったのか。とすると土蜘蛛たちの強さに関しては上方修正をかけておいた方が良さそうだ。隠密特化ってことは戦闘には不向きだってことだろうし、戦闘用の蜘蛛はあいつより数段強いだろう。気を引き締めなければ。
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