11.藤御前

「来ましたね」


 藤御前の部屋にくると、藤御前は今度は襦袢ではなくちゃんとした着物姿で俺を出迎えた。

 ちらと俺の後ろに控えている、青龍と白虎に目をやるが、起こしたアクションはそれだけで特に何か言うことはなかった。青龍も白虎も何故か今回は姿消してくれなかったんだよな。まぁ、藤御前にバッチリ目撃されてるし、今更姿消すのは不自然なのは分かるが。


「まず、次郎三郎のことを聞きましょうか。どう言う経緯でああなりましたか?」


 そっちからか。意図的に利光のこと無視してたから興味ないのかと思ってた。とりあえず、俺はありのままの経緯を話すことにした。


「俺が寝入ってるところに闇討ちに来た。で、俺は応戦しようとして庭に出て青龍と白虎を呼んだら、青龍が土蜘蛛を発見して攻撃を加えた。そっからは、土蜘蛛を俺たちが倒して、土蜘蛛に糸で囚われた利光を助けたら次の瞬間斬りかかってきたから、陽剣で防御したら利光の剣が真っ二つに折れた。その時点で藤御前様が来たって感じだ」


「なるほど、よくわかりました。しかし、式神召喚ですか。それも青龍と白虎。そんな強力な式神を従えられるとは只者ではないようですね。いっそのことうちの三郎と交換したいぐらいです」


「その、三郎勇人のことだがな……、あなたには残念なことを伝えざるを得ない」


 俺は苦悶しながら言葉を続ける。


「その土蜘蛛のやつが言っていたんだ。真宮寺勇人、貴様は確実に始末したはずだがな、って」


「!」


「だがもしかしたら、相手がそう思っているだけでまだ生きているかも──、」


「いえ、慰めは結構です勇人なにがし。妖怪があなたにそう言ったということは三郎が死んだのは間違いないことなのでしょう」


 そう言う藤御前の顔からは悲しみの気持ちは感じ取れない。ただ、純然と事実を受け止めフラットな表情でいるだけだ。


「すまない」


「何故、あなたが謝る必要があるのですか? 下手人は土蜘蛛でしょうに。あなたが謝って三郎が戻るのですか? 不快ですので即刻その申し訳なさそうな顔をやめなさい」


「わ、分かった」


 藤御前に毅然とした態度で叱られ、俺も表情を戻す。強いな、この人は。流石武家(多分)の妻と言ったところか。


「しかし、妖怪が屋敷の中に入り込むなど考えられません。結界はどうしていたと言うのか……」


 藤御前は真宮寺勇人のことなどもはやどうでもいいと言った感じに、別のことを考え込む。

 その様子に俺はこの世界の真宮寺勇人に少しばかり同情した。

 だが、それも一瞬で次には俺は藤御前にあることを持ちかけていた。


「藤御前様。あの土蜘蛛たちのアジト、あぁいや住処はどこにあるんだ?」


「……それを聞いてどうするつもりです?」


「奴らを根絶やしにしてくる──「それは」、一応言っておくが同情とかじゃない。いや、その気持ちもないと言ったら嘘になるが、俺がそうしたいと思ったからだ。そして、その俺がそうしたいと思った気持ちに嘘を付いてはいけないことになっているからな」


 俺の目的はこの世界を救うことだ。その救うと言うのは単純に悪者を倒せば終了という代物ではないだろう。アドミンが言っていたように主人公を助けるだったり、あるいは国を発展させることだったり、何か特別なものを生産することで成し遂げられることもあるかもしれない。

 だが、今回の件については土蜘蛛一味を根絶やしにする。それが世界を救う一手になるだろうと俺は確信している。何故なら、それは今俺がやりたい事・・・・・・・だからだ。だから、土蜘蛛を根絶やしにして真宮寺勇人の仇をとる。それが今俺のやるべきことだ。


「言いたいことがイマイチ分かりませんが、土蜘蛛を討伐してくれると言うのなら、私に否やはありません。ですが、聞いておくことがあります。それは可能なのですか?」


「それはわからない。まず土蜘蛛たちがどの程度の規模なのかも知らないし、どこに生息しているのかも分からない。まずはそこを調べるところからだな」


 俺が正直にそう答えると、藤御前は、はぁっと出来の悪い息子を見るような残念そうな顔を浮かべて嘆息した。


「ないない尽くしではありませんか。その程度の目算で根絶やしにするとよく言えたものですね」


「一応その意気込みはあるってことで。まぁ、俺も完全に勝算がなくて言ってるわけじゃない。この付近に訪れたときにも、土蜘蛛と思しき妖怪をすでに単独で討伐しているし、今回の喋る土蜘蛛も楽に討伐できている。喋るってことはそれなりに力のある妖怪なんだろう。それをせいりゅ……、式神の力をほとんど使わずに倒した。なら、式神の力を十全に使えば土蜘蛛恐るるに足らず、だ」


 実際、青龍だけでも本気を出せば討伐なんて一瞬で終わるだろう。それに白虎に俺が追加されるのだから、土蜘蛛がどんな強大な勢力であろうと討伐はわけないだろう。


「……彼奴らの首領である女郎蜘蛛もですか? あなたは男でしょう。女郎蜘蛛に勝てるとは思えませんが」


「女郎蜘蛛? 男なら勝てないって?」


 お、知ってる名前が出てきた。確か、女に化ける蜘蛛の妖怪だな。しかし、男なら女郎蜘蛛に勝てないとはどう言うことだろうか。


「女郎蜘蛛は男を魅了し、その配下とします。男なら誰であろうと抗えません。あなたが敵にまわれば、その式神も敵に回ります。そのような危険を犯させるわけには行きませんね。今でさえ、土蜘蛛たちに手を焼いている状況なのに、これ以上厄介なことを引き起こされてはたまりません」


 なるほど、チャームみたいな技を使えるのか。でも、それだったらプリベンションで防げるし、青龍たちはそもそも今は女だから効かないしで、問題ない気がするな。


「大丈夫だ。魅了に限らず状態異常を事前に防ぐ術なら会得してある。それに見ての通り、俺の式神たちは女だ。女郎蜘蛛の魅了は効かない。安心してくれていい」


 本当はこいつらは無性らしいが、それを言うとややこしいので言わないことにする。まぁ、無性だったらどっちにしろ性別に由来する技や魔法は効かないだろう。

 俺がそう言うと、藤御前はじっとこちらを見た後ポツリと呟いた。


「あなたが魅了された場合は遠慮なく討伐するので、そのつもりで」


 それはつまり了承と言うことでいいのだろう。藤御前の了解が取れてひとまず安心と言ったところか。


「じゃあ、聞きたいんだけど、土蜘蛛──あぁ、いや女郎蜘蛛か、奴らの住処はどこにあるんだ?」


「大まかな場所はわかりますが、詳細な場所までは把握しておりません。明日その場所まで千代に案内させましょう」


「分かった。じゃあ、また明日ってことで。おやすみなさい藤御前様」


「えぇ、おやすみなさい。勇人なにがし」


 お互いそう挨拶して、俺は藤御前の部屋を後にした。

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