13.陰陽剣の使い道
「陰陽剣たちが言うには、この周囲に妖怪の反応はないらしい」
「陰陽剣たちが言う? 何を言ってるのでござるか、貴殿は」
俺が陰陽剣の言葉を伝えると千代ちゃんがかわいそうなものを見るような目でこちらを見てくる。
「いやいや、そんな目で見るんじゃねーよ。陰陽剣は意思を持ってるんだよ。本人たちが言うには、妖怪を探知する力があるらしい」
「ふ、ふーん。し、知ってたござるよ。それぐらい。決して忘れてたとかそう言うことは決してないでござる」
忘れてたんだな。とは思うが口には出さないでおいた。というか、そこらへんの伝承はちゃんと伝わってはいたのか。
「そ、それより、この周辺に妖怪がいないとなるとどこを探せば良いものか」
「それだったら、最適な魔法……ここじゃ術って言うんだっけ? 術があるからそれを使うことにする」
そう言うと俺は気を落ち着けると、頭の中に昨日の夜相対した土蜘蛛の姿を思い浮かべる。そして、魔法を唱える。
「『ロケーション』」
本来は失せ物とかを探すための探索魔法である。今回は例の隠密特化とやらの土蜘蛛の居場所を探索する。魔法を唱えると、頭の中に簡易のマップのようなものが浮かび、探そうと思っていた土蜘蛛の場所がマーカーで表示される。
「こっちだな」
いくつかの場所にポツンポツンと1体だけ配置されてる場所がいくつかあったが、それは隠密特性を利用した情報収集用の個体だろう。そこを訪れても他の土蜘蛛がいる可能性は低い。狙うのは6体ぐらいが固まっている場所だ。そこがおそらく奴らのアジトだろう。
「相変わらず、術に護符も何も使わないのでござるな。一体貴殿は何者なのか……」
いや、俺も一応発動体は使ってるんだけどね。指輪になってるから目立たんだけで。でも、ひょっとしたら護符とやらは消耗品なのかもしれない。とすると何も使ってないと言うのは正しいのかもしれん。
山を山頂に向かって登ると、途中途中で巨大な蜘蛛の巣が散見される。かなりわかりやすい形に配置されているので避けるのはわけないが、動きが制限されるので邪魔くさい。いっそ切り裂きたいが、粘着性があったりしたら切ろうにもなかなか切れないし、蜘蛛の巣だから引っ掛かったら向こう側に引っ掛かったのが伝わるようになっているのかもしれない。うかつに触ることはできない。
「蜘蛛の巣が増えてきたでござるな。これは奴らの住処が近づいてきた証拠でござるな」
「あーもう。邪魔くさい! いっそ燃やしちゃったらダメなの?」
「燃やすか。それなら大丈夫か?」
「やめてください勇人様。延焼します」
白虎の燃やすと言う提案に乗りそうになったが、青龍にたしなめられる。だって、それぐらい邪魔なんだよ。
「勇人様、前方に複数の気配があります。おそらくは土蜘蛛かと……。む、回り込もうとしていますね、囲むつもりでしょうか」
いつもの青龍の謎索敵である。青龍がいると不意打ちとか絶対無理だなこれ。敵が可哀想になるわ。
「よし、全員戦闘準備。とりあえずこっちから土蜘蛛に先制攻撃だ」
こっちからは向こうは見えてないが、どうにか攻撃する手段あるかな。流石にマジックミサイルとはいえ見えてない相手を追尾することはできない。しかも、周りは林なので火炎系は延焼の危険性がある。どうするか。
(勇人。今こそ
(
どうするか考えてた俺に、陰陽剣からの念話が飛んでくる。本当に大丈夫かこいつら? なんか、霊力を食われるだけ食われて終わりってなりそうなんだが。
ともあれ、俺が取れる手段は他にはなさそうなので大人しく言う通りに構える。二振りの陰剣と陽剣を構えるとそれは融合して一振りの太刀へと変化する。それと同時に、吸われ始める霊力。うーん、相変わらず長く持ってはいられないな。
((では、やり方を説明するわ勇人。
(刻むってどうすりゃいいんだ? 刀身に傷でも入れるのか?)
陰陽剣のサラウンド念話に疑問を呈する。
((そんなことしたら呪い殺すわよ。そうじゃなくて──、そうね頭に追尾するという想像を思い浮かべながら『追尾剣』とでも声を発して陰陽剣を振ってみなさい、そうすれば分かるわ))
どうにも釈然としないものを感じるものの、とりあえずは言われた通りにやってみることにした。ここで戸惑っても霊力を吸われ続けるだけだしな。
「『追尾剣』」
追尾するイメージを頭に浮かべながら、声を出して陰陽剣を振るう。すると、陰陽剣の刀身に横に平行なヒビが入る。え? 壊れた? と思った次の瞬間、刀身が細かな節に別れ、その間は鋼線でつながった状態になり、
ガリアンソードだこれー! 蛇腹剣でも可。
その伸びた刀身は縦横無尽に辺りを飛び回り、森の中へと分け入っていく。
「グッ!」
「ガッ!」
「ギッ!」
そして、辺りから聞こえてくる呻き声。そうか、陰陽剣は妖怪を探知する能力があるからそれを使って妖怪を追尾してるのか。
((ははは! 恐怖しなさい妖怪ども!
テンションの高い陰陽剣。テンション高いのはいいがキンキンする声ではやめてほしい。脳に響く。
「ええい、なぜバレた! こうなっては直接やる他は──ガッ!」
何か約一名、反撃に出ようとした奴がいるようだが、哀れ十把一絡げに撃退された。
しばらくして呻き声が止むと、蛇腹剣になった陰陽剣が刀身を回収し、元の太刀に戻った。
「これで全部か?」
「えぇ、気配はありませんね。できれば一体ぐらいは残してもらってアジトに案内して欲しかったのですが」
「蛇腹剣かー、ファンタジー武器の極みだよね。現実でそんな武器絶対使い物にならないし」
「こ、これが陰陽剣の力……! この力が真宮寺家にあれば……!」
俺は霊力の消耗を抑えるために、再び陰陽剣を分離させると鞘にしまう。なるほど、陰陽剣は文字で何かの効果を唱えることでその効果を乗せることができる刀剣なのか。
めちゃくちゃオールマイティーな刀じゃね、それ? 例えば、治癒剣って刻んだら、斬撃で相手を回復することもできるってことだよな。
(概ねその通りよ勇人。ただ、ちゃんとイメージができてなければ発動しないわ。ねぇ、
(それと、刻む文字は2文字が限度よ。それ以上の文字を刻むことはできないわ。平仮名でもカタカナでも漢字でもいいけど、2文字よ。あと、造語でもちゃんとイメージと刻む文字が一致していれば効果は発揮されるわ。うまく使うことね。ねぇ、
なるほど、制限は一応あるってことか。でも、2文字制限があるんだったら断然漢字だな。平仮名カタカナじゃ、2文字で意味を持たせるのは難しいからな。道すがら色々効果を考えてみるかな。
とりあえずは、再びロケーションで判明した場所に向かうとするか。
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