19.檮杌戦後始末
「終わった……か?」
「終わりましたね。奴にはすでに抵抗する力は残っていません」
「ん? その言い方だとまだ生きてるのか? 結構本気で全弾打ち込んだんだが。ちょっとしぶとすぎない?」
第八まで使ってぶちのめしたのに死なないって、すごいしぶとさだな。
こりゃ、白石たちを足手まとい扱いするのも分かるわ。白石は第三までしか使えなくて無効化されてたしな。
「そうですね、ちょっと予想外のしぶとさでした。まぁ、無力化には成功しましたし、よしとしましょう。それで勇人様どうします? とどめを刺しますか? それとも配下にでもしますか?」
「あれだけやっておいて今更言うのは何だが、正直人の言葉を喋ってる存在を殺すのは忍びないな。それにもう抵抗できない相手にとどめを刺すってのもな。でも、配下にするって大丈夫なのか? 反逆とかされたりしない? そもそも、こいつ俺を狙ってきたんじゃないのか? そいつ配下にして大丈夫なのか? 殺さなくて平気?」
「大丈夫ですよ。良い機会です。私以外の存在と召喚契約を結んでしまいましょう。主従契約を結べば相手は勇人様に逆らうことが出来なくなります」
「まぁ、反逆されないって言うならそれで。俺は何をすればいい?」
「では、こちらで契約の準備を致しますので、しばしお待ちください」
そう言うと青龍は落ちている木の枝を拾い、
「話には聞いてたが、本当にお前一人で大丈夫だったみたいだな……。俺も命削ったんだがなぁ。流石は四凶ってことか。俺もまだまだ修行が足りないな」
青葉はそう言うと相変わらずの青い顔でエストックを鞘にしまう。あれ、さっきの赤い剣どこ行った?
「っておい! お前のその血溜まりなんだよ!?」
気づくと、青葉はいつの間にかできた血溜まりの上に立っていた。て言うか、さっきの戦い誰も出血してないよな? なんで血が出てるんだ?
「あぁ、こいつは俺の特殊能力でな、自らの血を固めて武器や防具にすることが出来るんだ。まぁ、流石に防具作るほどの出血とか普通に死ねるから武器がせいぜいなんだけどな。命削るから本当はあまりやりたくない技だ。いちいち自傷しないといけないのも欠点だ」
なるほど、さっきの戦いで自傷とか言ってたのはこのことか。しかし、特殊能力ってなんだろう。俺のギフトみたいなもんだろうか? 聞いても教えてはくれなさそうだ。
「この技心臓に悪いからやめてほしいんですけどね……。あ、すいません真宮寺先輩、やっぱり私足手まといでしたね……」
そう言って申し訳なさそうに謝ってくるのは白石だ。まぁ、ファイヤーボールが無効化されてから何もしなかったからな。多分、あれ白石が出せる最大火力を打ったんだろうな。で、それが通用しなかったから置物化と。
しかし、これは下手な慰めは逆効果だろうな。
「まぁ、気にするな。最初から当てにはしてなかった」
「うぐ……、分かってはいましたがそうはっきり言われるとくるものが……」
白石はうつむくとそれ以上何も言わなくなった。
よし、これで第七以上の魔法使ったこと追求されないな! このままうやむやにしよう!
「終わったの? 終わってみればあっさりだったわね」
最後に声をかけてきたのは冬美。こいつは真性の置物だったな。全く何もせず本当に突っ立ってるだけだった。まぁ、最初から戦わないとは明言してはいたが、それにしたって本当に見てるだけとは。
「お前……、いや何も言うまい」
「勇人様、準備ができました。こちらへどうぞ」
青龍の声に振り返ると、
「オッケー。俺はどうすればいい?」
「術式はこちらの方で処理致しますので、勇人様は血の一滴だけ下さればそれでいいです。血を一滴だけ魔法陣に垂らして下さい。その後は私がやりますので」
「血、血ですか?」
思わず敬語になってしまったが、血を垂らすってことは傷つけろってことだよな? 青龍からナイフを渡されるが、これで血を出せと?
「え、えーと……」
正直に言おう、怖い。
そう思うと手先が震えて上手く指先を切ることができない。自分から刃物に手を近づけるってこんなに怖いのか。
そんな俺の様子を見かねたのか、青龍が嘆息する。
「勇人様……。私が切って差し上げます。じっとしてて下さいね」
「す、すまん……」
青龍に頭を下げて指先を切ってもらう。実際に切ってもらうと大して痛くないし血の量もちょっとしか出ない。
さっきまで怖がってたのはなんだったのかと思うが、それは青龍が切るのが上手かっただけだろう。
これを経験した上で、自分で同じことやれって言われても同じように震えてきれないのは容易に想像がつく。
俺が出した血を青龍が陣に垂らす。そうすると魔法陣全体が淡く光った。横で青龍が何やらブツブツと呟いているが、なんと言ってるのかはよく聞き取れなかった。
多分術式の詠唱か何かなんだろうけど、何語なんだろう。日本語っぽくはないな。
青龍の詠唱が終わると、魔法陣が一際大きく輝いた後、魔法陣を描いていた線がボボボと燃え上がり、魔法陣は跡形もなく消えた。
「これで完了です。勇人様と
「相手に同意取ってないけどそれはいいんですかねぇ……」
「問題ありません。勇人様の実力で相手をねじ伏せましたので。言葉には出さずとも相手はすでに敗北宣言をしていると同義なのです。その状態であれば容易に主従契約が結べます。さ、では命令してみましょうか。起きろと命令してみて下さい」
「えーと、『起きろ』」
俺がそう命令すると、
「くっ……、主従契約だと!? よりにもよって人間と!? ふざけてんじゃ──、がっ……て、てめぇ……」
何やら立ち上がりかけたとともに頭を抱えて痛み出した、なんだいったい。
「反抗すると、痛みを伴うように術式を施しました。10段階で8ぐらいの痛みなので、まともに反抗することは無理でしょう」
「てめぇの術式か、青龍! いますぐに解除しやが──、い、痛い痛い! な、なぜ!?」
「ちなみに私に対しても適用されます」
鬼や、鬼がここにおる。自分に対しても反抗許さないとか。
「チッ! けったくそ悪い! 仕方ねぇ、今はいうこと聞いてやるよ。だが、俺様をそう簡単に操れると思ったら大間違──、があああ!」
「懲りないですねぇ」
反抗的な“態度”だけでもだめなのか。
「ちょっと厳しすぎないか?」
「こいつに対してはこれでもぬるいぐらいです。何しろ、尊大にして頑固、根っからの戦闘狂で、人の言うことは一切聞かないというどうしようもない輩ですので」
「はっ! 人のこと戦闘狂とか言えたタチかよ! テメェの方がよっぽど──、や、やめろ! これぐらい軽口の範囲だろ!!」
なんか台詞のたびに頭抱える
「分かった! 大人しくする! 言うこと聞くからこれ以上はもう止めろ!!」
「ようやく折れましたね。はぁ、長いこと長いこと」
青龍がどうしようもないと言った感じで嘆息すると、こちらの方を向いて何かを促してくる。こっからは俺が喋れってか。
「あーっと、
「大丈夫じゃねぇ、と言いたいところだがこの状況だ。逆らえるはずもねぇ。大人しくお前の下僕にでもなんでもなってやるよ」
「そうか」
「それに、考えようによってはこれはチャンスだしな。これで俺様は労せずしてテメェのその謎魔力源を手に入れられる訳だ。まぁ、俺様としては? 今後は定期的に戦場に連れ出してくれりゃあ言うことはないな。ちゃーんと餌と戦いの場を用意してくれるなら忠誠だって捧げてやる。せいぜい俺様を退屈させないように振る舞うこったな」
「安心しろ、戦場に関しては今後は困ることはないだろう。俺が保証してやる」
「へぇー。この現代でそんなに戦場があるとは思えんがな」
どうも、
「ま、信じてくれなくても今は結構。とりあえず、今は姿を消しておいてくれ。消せるんだろ? 精神生命体とやらは」
「あぁ。じゃあ、戦いになったら呼べよ。きっちり活躍してやるからよ」
そう言って、
「じゃ、
「ええ、そうですね。お疲れ様でした勇人様」
そう言って帰ろうとする青龍に俺も付いて行こうとするが、後ろから視線を感じる。流石に無視することもできず、振り返る俺。
「召喚術って、妙にニッチなことしますね先輩の師匠は。まぁ、そちらの教育方針に口出しはしませんけど……。って、それより!」
白石がこちらを見てブツブツ言ったかと思うと途端に大声を上げて俺に詰め寄る。
「第八位階魔法とか聞いてないんですけど! 第六までって言ってたじゃないですか! 人間の限界突破してることについて小一時間問い詰めたいんですが!!」
「あーそれはだな、師匠の筋が良かったと言うことで」
「その言い訳で乗り切るつもりですか……!」
「そうは言っても、前言った俺のトップシークレットに関わることだからな。何を聞かれても答える事はできんぞ」
「うぐぐ……。しかしこれはどう兄さんに報告すれば」
「もう見たまんまを言うしかないだろう。真宮寺は第八の魔法を連発して四凶の一柱を退治して召喚獣にしましたってな」
おい、青葉その言い方は誇張しすぎだろ。第八は一回しか使ってないぞ。
「それしかないですか……。はぁ、どうなるやら今から憂鬱ですよ」
「まぁ、そっちのことはそっちで片付けてくれ、俺は知らん」
「先輩の進退にも関わることですのに、他人事ですねぇ……。まぁ、そう言うことなら遠慮なく報告させてもらいますよ」
「そうしろそうしろ。じゃ、帰るぞ青龍。青葉、白石、冬美。またな」
そう言って背を向けて後ろに向かって手を振って歩き出す。
さて、これでアドミンからの任務は達成なのかね?
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