18.檮杌戦

 そんなこんなで、檮杌とうこつが封印から解放される当日。俺はその日まで、人型の妖を中心に狩り続け、対檮杌とうこつ戦に備えて覚悟を決めていた。

 まぁ、例の如く魔法での人型殺しは忌避感もなんもなくあっさりと終わったのだが。


 そっちよりも俺としては副産物の妖退治の給料の方が嬉しかった。一回につき500万とか尋常でなく破格だった。ていうかその金はどっから出てるんだ。俺が親無しでよかった。親が通帳管理とかしてたら問い詰められて面倒なことになってた。

 ていうか、これ税金とか大丈夫なのかとか思わなくもないが、気にしないことにした。税金が問題なら宗玄さんが何か言ってくるだろ。


 で、現在青葉と白石と俺と青龍とで、完全武装状態でご神木の前にいるわけだが、そこに場違いな人間が一人いた。


「じゃ、私ここで見てるからみんな頑張ってね」


と言いつつも、俺たちと同じく完全武装でいる、この神社の巫女冬美。なぎなたとそれに使う防具を着けて、俺たちの後ろに立っている。


「ていうか、お前は別にここに来なくても良いだろうが。荒事はできないから任せるって言ってなかったか?」


 俺が冬美にそう問いかけるが、冬美は軽い様子で答える。


「だって、勇人たちが失敗したしたら次は位置的に私の家の番じゃない。そう考えると非武装でボーッとしている方が危なくない?」


「いやまぁ、それはそうだが……」


「私としては青葉先輩もそっち側ってのに驚きよ。そっちの娘は、初めて見る顔だけど」


 そう言って、白石の方を見る冬美。まぁ、俺の手芸部の後輩ってだけだから知らないのは無理ないが。青葉に関しては、冬美と一緒に下校する時も襲撃してきたから初対面ではないのだが。


「ま、今後はよろしく頼まぁな、塔馬。とはいえ、よろしくするってのは嬉しくない事態が起きた時だがな」


「そうですね。そうならないことを祈ります」


 こいつ、青葉に対しても敬語使うんだよな。いや、先輩後輩の関係だからそれが当然だと思うんだが、どうも俺はこいつに対して敬語使う気になれなくてなぁ。


「それにいざというときは、私にも切り札があるから私のことは心配しなくていいわよ、勇人」


「切り札?」


「それは秘密。言ったら切り札じゃなくなるからね」


 切り札とかなんだろう。こいつも魔法使えんのかな? 青龍の魔法に驚いてなかったしそれはありそうだ。まぁ、根掘り葉掘り聞くようなことじゃないから、これ以上は聞かないが。


「皆様、隠蔽結界は完成しました。全力を出しても周囲にバレることはありません。思う存分力を奮ってください」


 何かくさびみたいなものを持って、青龍が全員にそう伝える。隠蔽結界は組織にバレるとか言ってたような気がするが、組織にバレるよりも一般人にバレないことを優先したのかな。

 何はともあれこれで準備は完了したわけだ。


「じゃあ、青龍頼む」


「はい」


 俺の言葉とともに、青龍がご神木へと近づく。ご神木にゆっくりと手を当て、そっと呟く。


解除リリース


 呟くと同時に青龍は大きくバックステップし、ご神木から距離を取る。

 そして、ご神木が光り輝くとご神木の前に虎の獣人、みたいな人物が現れる。顔は完全に人間のそれで性別は男と思われる。短く切った金髪に、切れ長の目、全身金の毛皮に覆われている。

 警戒したながら、そいつを見ていると、檮杌とうこつは凶悪な猪の牙を見せながら、ニヤリと笑みを浮かべる。


「ハッハァ! ようやくだ、ようやく封印が解かれたぜぇ! ん、なんだぁ? 妙に人間が多いが……、ひょっとして俺様を倒すつもりとか言うんじゃないだろうな? だが、そんな程度の数じゃあ──」


「『チェインライトニング』!」


 バン! と大きな音をたて、三条の稲光が檮杌とうこつに向かって放たれる。先手必勝。相手の話を聞く必要など一切なしだ。


「に、人間がぁ……。不意打ちとはやってくれんじゃねぇか!」


 うん、わりと効いてるっぽい。次の一撃を──、


 シュッ


 ギィン!


 打とうとしたところで、青葉が前に飛び出てエストックを振るう。しかし、その一撃は檮杌とうこつの爪によって防がれる。


「二度も不意打ちは通用しねぇよ!」


「ちっ!」


 青葉はエストックの一撃が防がれたのを見ると、すぐさま後ろに下がる。よし、空間ができた、なら次の一撃を──、


「《マナよ、万物の根源たるものよ。我が意に従い、燃え盛る火炎となれ!》『ファイヤーボール』!」


 打とうとしたところで、今度は白石の魔法が発動した。くそっ、さっきから邪魔されまくってるぞ。ていうか、白石がなんか異国語っぽいのを喋ってたがあれが詠唱って奴なのか? とりあえずファイヤーボールだけ理解できた。


「かあっ!」


 しかし、そのファイヤーボールは檮杌とうこつの気合の叫びだけで消される。


「そんなっ!?」


 白石が驚愕の表情を浮かべる。なるほど、第三位階ぐらいだと普通に防がれるのか。


「じゃ、今度はこっちの番だな」


 言うが早いが、檮杌とうこつが俺を目掛けて疾走する。やはり俺が目当てか、ってはや──、


「ふっ!」


 俺が反応するより早く、青龍が俺の前に立ち塞がる。


「チッ」


 檮杌とうこつは嫌そうな顔をして、攻撃しようとしたその腕を引っ込める。なんだ? そのまま攻撃しないのか?


「厄介なことを。自殺でもするつもりか?」


「勇人様の盾になれるのでしたら、この身は如何様にでも」


「フン、自ら盾になるか。テメェを攻撃せずに突破しなければ奴は手に入らなねぇってわけか」


 なんか、お互い言ってることが理解できないのだが、今はチャンスと言えるだろう。初手のチェインライトニングは効いたから、同じぐらいの一撃を与えれば効くはずだ。


「『アトミックレイ』!」


 超高熱の炎熱光線を放つ第七位階魔法──あ、しまった第七使っちまった。まぁ、後で適当にごまかすか。

 第六であの効きようだったから、これは効くだろう。


「がああ! こ、こいつ、青龍の陰に隠れて……! やはり貴様が一番危険だ! まずは貴様を血祭りにあげてやる!」


「させねぇよ」


 青葉が再び檮杌とうこつと対峙するが、今度はエストックではなく刃も持ち手も真っ赤な剣らしきものを持っている。あれ、あんなの持ってたか?


「ふっ!」


 真っ直ぐに檮杌とうこつを突く青葉。


「フン、武器を変えたからとて! ──何!?」


 青葉が突き出したその真っ赤な剣は檮杌とうこつのが防御に使った爪を切り飛ばした。返す刀でそのまま檮杌とうこつに切り込む。

 しかし、それは檮杌とうこつによって躱される。


「俺だって少しはいいとこ見せないとな」


 そういう青葉の顔は少し青い。そして、よく見ると、青葉が先ほどいた所には血痕が──、


「って、青葉。お前怪我を!?」


「心配するな。ただの自傷だ! 詳細は後でな!」


 いや、自傷って心配する要素しかないんだが。だが、今はそんなのを聞いてる余裕はない。


「『チェインライトニング』!」


 一度効いたやつをもう一度だ、アトミックレイもそうだが、発動から命中までほぼ一瞬なので避けられないのが利点だ。


「がっ! ぐおおおお! き、きっさまぁ!!」


 ここだ、ここで畳み掛ける!

å

「『グラビトロン』! 『アトミックレイ』! 『チェインライトニング』!」


 重力魔法の、第八──、もうどうにでもなれー。ともかく、これだけ連打すれば流石に四凶と言えど──、


「がっ……はぁっ……」


 グラビトロンの重力に押しつぶされる格好で、そのまま地面に倒れ伏す檮杌とうこつ


決まったか……?

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