15.対人型

 そして、翌日。俺は荒木市から少し離れた山間の神社にいた。

宗玄さんに仕事を斡旋してほしいと頼んだ際、なぜか同席していた青龍と宗玄さんの背筋の寒くなるような話し合いの後、俺に人型の妖(こういう風に呼ぶらしい)を退治する仕事が斡旋された。


「人型の妖と言っても、人語を解したりするわけでもなく、普通にただの化け物だから初心者には丁度いいと思うよ」とは宗玄さんの弁だ。


 あっさり見抜かれてるなーとは思うが、青龍の言うとおりこの借りは必要経費として計上するしかないだろう。


 で、その妖が出現する場所に来たわけだが、


「さて、いよいよ初仕事ですね、真宮寺先輩!」


 こいつである。そう、なぜか白石のやつが俺についてきて一緒に仕事をするようなのだ。

 十中八九お目付役だと思うのだがなぜこいつなのいかよくわからない。まぁ、青葉の奴が来るよりはマシだと思っておこう。。


「いやー、真宮寺先輩の実力が如何程のものか、この目で見られるとは。学校サボってよかったなんて思ったのは初めてですよ」


 そうなのだ、現在俺と白石は学校をサボってここに来ている。言い訳させてもらうと、俺だって学校が終わってから来たかった。だが、目標の妖の目撃情報が午前中なので、午前中に来るしかなかったのだ。

 ていうか、冷静に考えて目撃情報っておかしいよな。多分一般人が目撃したんだと思うんだけど、それだったら魔法とか超常現象とかの存在が一般にバレるんじゃね? ひょっとしたら暗示とかそういうので記憶を消してるのかもしれないけど、なんとなく腑に落ちない。こういうのは大概夜中がセオリーだろうに。


「あんまり期待するなよ。まだペーペーなんだから」


「またまたー。古代魔法を第四位階まで使えるのは知ってるんですよ。それでペーペーとかなんの冗談ですか? 私に対する嫌味ですか?」


 そうは言っても、ペーペーなのは事実だしなぁ。ここ三週間で身につけたと言ってもふざけるなとしか思われないだろう。しかも、第十位階まで習得しているしな。数十年の苦労が三週間とか誰であってもふざけるなだろう。


「つっても、魔法しか使えないしな。武器も使えるようになりたいんだが。そういや白石は魔法なのか、武器なのか?」


「魔法だけでも、第四位階まで使えるなら十分すぎると思うんですけどねー。あ、私が使うのは古代魔法より主に魔術で、得物はこれです」


 魔術? 魔法とどう違うのだろうか。そう聞こうとしたが、それより白石が取り出したものに仰天してしまう。


「お、おま! それモデルガンだよな!? 実銃とか言わないよな?」


「実銃ですよ。付与術でモデルガンに偽装していますので、職質も安心です」


「いや、白石みたいな女子高生がアーミーマニアはちょっと無理があるような……」


「まぁ大丈夫ですよ。最悪催眠術で暗示かけて乗り切ればいいので」


 なんか、さっきから未知の単語の連発でちょっとついていけないんだが。

 いや、単語の意味自体はわかる。魔術、付与術、催眠術。全部多分魔法的な何かなんだろうが、詳細な内容がわからない。白石に聞くより青龍に聞いたほうがいいのかなこれは。


 で、その青龍だが今回は付いてきてない。宗玄さんとの交渉の際はいたが、それ以降は前言ってた人型の魍魎を探すということをしているのだろう。そばに青龍がいないのは少々不安ではあるが、呼べば来るらしいのであまり心配はしていない。

 それに側に青龍がいてしまうと、俺も青龍に頼ってしまいそうなので、今回は丁度いいだろう。


「ま、まぁ、白石の戦い方は把握した。で、問題の妖なんだがどうやって探せばいいんだ?」


「とりあえず、目撃情報のあった場所を巡りましょう。運よく出くわすかもしれませんし、いなくても妖気の残滓を辿ることができます」


「そこらへんの細かいところは俺には分からないから、任せる。なんせ、師匠の教育方針で攻撃魔法しか教えてもらってないからな」


 そう言うと白石がうろんな目を俺に向けてきた。


「攻撃魔法しかって……、どう言う教育方針ですか。しかも、その言い方だと古代魔法しか教えてもらってない感じですか? 魔術は? 錬金術は? 付与術は? と言うか先輩の師匠って何が専門なんですか? まさか、今時古代魔法が専門とかいうわけじゃないでしょうね?」


 次々と白石から俺に疑問が投げかけられるが、俺はそれに答えられない。

 て言うか、俺が青龍に聞きたいことばかりだ。


「ま、まぁ、色々と謎の多い師匠だからな。俺も知ってることは少ない」


「ふーん。ま、青木さんはどうやら実在する人物のようですし。協会内でも謎の人物として知られてますが、評判的には悪い人ではないようです。興味はありますが、これ以上聞くことはしません。本人がいないところではマナー違反ですしね」


 青龍のこと調べたのか。まぁ、宗玄さんも確認する見たいなこと言ってたし、そこは文句を言うようなところじゃないか。

 しかし、協会でも謎の人物って青龍は一体何をやらかしているんだ? まぁ、青龍であること自体は秘密にしてるっぽいし、謎なのは間違いないな。

 しかし、そんな謎の人物がなんでサファイアなんて高い階位になれたんだろうか。ちょっと魔導協会の内部事情が気になる。


「まぁそれはいいです。ともかく、目撃情報のあった場所から周りましょう」


 そう言って、ふんすと気合を入れる白石。その後についていく俺。

 うーむ、こういう状況だと完膚なきまでに役立たずだな俺。魔法には索敵とか探索系の魔法もあるはずだからそういうのも教えてもらわないとな。

 まぁ、全ては檮杌とうこつを倒してからだが。



   ※ ※ ※ ※ ※



「あっさり見つかりましたね」


「あぁ、あっさり見つかったな」


 白石の方針に従って目撃情報のある場所を巡っていたのだが、一発目で目標と遭遇した。その妖を見やる。なるほど確かに人型をしている。下腹が不自然に膨れ、棍棒のようなものを持ってウロウロしている。見るからにテンプレの雑魚鬼って感じの妖だ。それが3体ほど。

 ていうか、ほんとこんなのが近所にいてなぜ付近の住民は気付かないのだ。いや、気付いても処されてるのか? まぁ、俺としては気軽に退治できる存在がいればそれでいいんだが。とりあえず、俺たちは木陰に隠れている状態なので、向こうはこちらに気付いていないようだ。


「で、どうする?」


 俺は隠れながら小声で白石に尋ねる。白石はこちらを振り返りニッコリと笑う。


「まずはお手並拝見といきましょうか。時に人型を殺す覚悟はありますか? まぁ、練習と思って頑張って対処してくださいね。まぁ、無理だったり漏れがあってもこちらで処理しますので安心して対処してください。餓鬼程度私でも簡単に倒せますので」


 白石がそういうものの、3体という多さはちょっとまずい。これが1体なら単体魔法でチャンチャンなのだが、3体もいるとなるとちまちま単体魔法で倒していられれない。いくら俺が無詠唱で唱えられると言っても単体魔法で一度に仕留められるのは2体が限度だ。3体目には確実に攻撃を貰ってしまう。

 いやまぁ、避ければいいんだがそう確実に避けられるとは限らない。


 それに一度に2体と言ったのは、1体目を殺してそのままスムーズに2体目にとりかかれた場合の話だ。今の俺の精神状態はかなり緊張してるし、心臓もバクバクしてる。

 このまま、流れるように2体同時に殺すというのは無理筋だろう。1体倒しただけで動揺するのが目に見えている。そうすると、取れる手段というのは限られてくる。


「よし、やるぞ──」


スゥーっと大きく息を吸うと木陰から飛び出す。


「ギギっ!?」


 餓鬼の一体が反応するが、他の二体は気付いていない。

──遅い!


「『エナジーバースト』!」


 第五位階の範囲攻撃魔法だ。

 範囲がどれくらいかは以前使って知っていた。ゆえに三体の位置関係で全員巻き込めると踏んだ。

 魔力による爆発現象が起き、餓鬼は三体とも一瞬でバラバラになった。


 うっ……、こ、これはキツいな。人型がどうこうじゃなくて生物がバラバラになるのが精神的にキツい。吐かなかった俺を褒めてほしい。

 だが、これはダメだな。人型でもあっさり殺せたがそれは銃を撃って相手を殺すようなものだ。ぶっちゃけ、魔法という超常の力で殺してしまったせいで、あんまり殺してしまった感がない。

 精神的に不安定なのは、単にグロい物を見たせいだけであって、人型を殺してしまった事による忌避感じゃない。どうも、魔法では人型への抵抗を減らすことは出来そうにない。

 だが、逆に言えば檮杌とうこつ相手でも問答無用で殺すことができるとは言えるが。


 とりあえず、仕事自体はこれで終了か。あまりにもあっさり終わってしまったがこれでいいのだろうか?

 そう思って、白石の方を見ると、白石は口を空けてポカンとしていた。


「い、一撃……、しかも第五位階、いやその前に詠唱省略? 無詠唱? 第五位階を!? そ、そんなバカな……」


 あれ? これはひょっとして「俺何かやっちゃいました?」案件なのではなかろうか。というか、青龍がナチュラルに無詠唱やってたもんだから、俺も無詠唱でやっちゃったがマズかったのだろうか。

 というか、俺詠唱とか教えてもらってないんだよな。詠唱ってカッコいいかと思うんだけども。


「あー、白石。取りあえず仕事の方はこれで終了でいいのかな?」


「一体どういうことですかー!!!!」


 白石の初めて見る大声が神社内にこだましていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る