14.致命的な見落とし

 ほぼ毎日のような深夜の特訓の甲斐あって、俺はすでに第十位階までの魔法を習得するコトができた。

 とはいえ、青龍曰く戦闘用でかつ範囲の比較的小さい物に絞って教えたようで、魔法自体はまだまだ習得してないものがあるみたいだ。ていうか、さわりだけでも教えてもらったけど、第十位会とかかなりエグい魔法が多いな。

 習得はしてないが、隕石落としなんて魔法もあるみたいだし。


 第十位階で覚えたのは「デスグラスプ(即死魔法)」とか、「タイムストップ(時間停止)」とか、「ブレイク(防御無視攻撃)」とか、単体用でもすごいエグいのが多い。

 これ、檮杌とうこつにデスグラスプやるだけで勝てるんじゃなかろうか。 いや、流石に四凶に列せられる邪神だから即死耐性ぐらい持ってるか。


 でも、第十位階って魔力消費半端ないんだよな。今の俺だと第十位階は2発が限度だ。そうなるとタイムストップで時間止めてから攻撃ってのは現実的じゃないよな。それだけで魔力半分食うわけだし。

 それに青龍にはタイムストップが効かなかったし。同じような存在の檮杌とうこつにも効かないとみたほうがいいな。

 あれ、とすると檮杌とうこつってめちゃめちゃ強い? なんか今からちょっと不安になってくるんだが。第九の奴を3連発ぐらいで死なないかな?


「流石は勇人様です。第十位階まで問題なく習得されるとは……。この青龍鼻が高いです」


「つっても、俺自身の凄さじゃないからあんまり褒められたことじゃないと思うんだが」


「ギフトも勇人様の凄さの一部ですよ。それに、ギフトがあったとしても、勇人様のその魔力量がなければ発動すら出来なかったでしょう。そうすると勇人様がやはりすごいということになります」


 魔力量って自分じゃわからないから、そこを褒められてもな。まぁ、褒めてくれるっていうんなら素直に受け取ろうか。


「で、檮杌とうこつの復活まであと一週間ぐらいと迫ったわけだが、後どうすればいい?」


「そうですね……。あとは手隙の時間に稽古をして過ごして、最後の1日を休養とすればいいでしょう。今の勇人様の実力ならば檮杌とうこつなど楽勝、とまではいきませんが、まぁ問題なく勝てるでしょう。とはいえ、最後まで気を抜くわけにはいきませんが。……あ」


 そこまで言って、青龍は何かに気付いたような顔をする。


「どうした?」


「大事なことを忘れていました……。とても大事なことです」


 青龍は痛恨の表情で俺の方をゆっくりと向く。その顔はとても思い詰めている感じだ。


「大事なことってなんだよ?」


「勇人様、人型の存在を殺したことがありますか?」


「──」


 そう言われて俺は言葉に詰まる。人型の存在を殺したことがあるか? そんなのあるわけがない。

 ファンタジーな世界ならゴブリンやオークやらがいるのだろうが、ここは地球だ。人型の存在と言ったらそれはすなわち人間ということになる。

 当然だが俺は人間など殺したことがない。


「というか、檮杌とうこつって人型なのか? 俺はてっきり獣の姿をしてるのかとばかり……」


「伝承では人面虎足の獣の姿をしているとされていますが、それはあくまで精神体を具現化した一側面でしかありません。私含め、精神生命体の連中は人型を取ることが多いのです。私も伝承通りの龍の姿を持っておりますが、今はこの通り人間体でしょう? 実際戦闘となると足も腕も使え色々なことが出来る人間体が便利なのです」


「そうか、人間体か……」


「はい、いくら勇人様がお強くなられても、相手を殺す覚悟がなければその強さも全くの無意味です。私としたことが失念しておりました……」


 青龍は悔しそうに、本当に悔しそうにうつむく。

 確かに俺はそんな覚悟はしてなかったな。俺としては害獣退治のつもりで人型殺しのつもりは一切なかったからだ。

 でも、そうか相手は人型か。そうなると俺も人型殺しに慣れないといけないのだが、都合よく人型で殺してもいい存在がいるとは思えない。正直慣れたくない行為ではあるが、倒さなければこの世界は終わる。アドミンの言は今更疑わないが、この世界の滅びの原因とやらは間違いなく檮杌とうこつにあるだろう。それを取り除かない限り、俺や俺の友人、家族に安寧は訪れない。

 嫌だとか個人の感情で拒否するわけにもいかないのだ。


「しかしどうするよ。俺も改めて言われると確かにそんな覚悟は決まっていないんだが。ここ日本だよな。餓鬼とかそういうの居ないのか? そういう奴ら相手にすれば、少しは──」


「居れば良いのですけどね、ですが今の時代魑魅魍魎は中々見つけることは出来ません。いても、人型とは限りませんし、問答無用で倒していいわけでもありません」


「難しいな」


「──」


 青龍は親指を噛みながら必死に考え事をしているようだ。ここまで、沈痛な表情をしている青龍を見るのは初めてだ。

 ていうか、下手に人型うんぬんって言わなければよかったような気がするんだよなぁ。さっきも言ったが俺としては害獣退治の感覚で戦うつもりだったし。流石に人魂の時と同じ気分とは言えないが、人間でもない相手が絶対に悪と分かっている今の状況なら、多分普通に倒せてたと思うんだよな。

 その後で、気分悪くなったりはするかも知れないが……。


「これは、背に腹はかえられないかもしれませんね」


 しばらく考え事をしていた青龍はパッと顔を見上げると俺の方を向く。


「勇人様。不本意ですが、彼らの力を借りましょう」


「彼らって?」


「この街の管理者にです」


 この街の管理者ってあれだよな。宗玄さんのことだよな。


「力を借りるって、あいつらに檮杌とうこつを倒してもらうとか?」


「いえ、そこまで借りを作ってしまっては後々面倒なことになります。それに彼らでは檮杌とうこつに勝てないでしょう」


 えぇー。向こうは促成栽培の俺と違って、おそらく生粋の魔法使いたちだぞ? それが勝てなくて俺が勝てるってどういう理屈だよ。

 第十位階魔法ってそんなに強いのか? あっさり習得できたからイマイチすごさがわからないんだよな。


「じゃあ、どうするんだ?」


「人型の魑魅魍魎を退治する仕事を斡旋してもらいます。向こうも勇人様の力を使いたがっていましたから断られることもないでしょう」


「でも、一度断ってるのに大丈夫かそれ? 足下見られそうな気がするんだが」


「そこは必要経費と割り切りましょう。私が魍魎を探すより、この街の管理者である彼らの方が詳しいはずです」


「なるほどな。じゃあ、明日改めて言ってみるわ」


「えぇ、そうしてください。私は私で、人型の魍魎を探してみますので、勇人様は管理者の出す依頼に集中してください」


「おう、分かった」


 青龍はずっと気難しい顔をしていたが、そこまで心配する必要はないと思うんだがなぁ。

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