13.使い魔
草木も眠る丑三つ時。ってこれ前もやったな。
まぁ、いつも通りの深夜、俺は魔法の特訓にいそしんでいた。
第六位階、第七位階と、順調に魔法を習得していく。ほんと、体動かすことと違って魔法の習得はマジで一瞬だな。武術の方はどうにもならんのかね。インパクトの瞬間だけ鋭くても、全体として動きができてないと意味がないのだが。剣術スキルとかそう言うカテゴリーなら、俺の能力なら一瞬で習得できるはずなのだが、何が悪いのだろう。
「勇人様のギフトは把握しておりますが、ここまで順調に習得しすぎるとむしろ怖いですね。数十年の修練が必要な魔法が一瞬ですか」
「でも、青龍が言ってたみたいに位階が上がると規模がデカすぎるな。もっと対単体用の強い魔法が欲しいな」
「これでも規模が小さい魔法を中心にお教えしているのですよ。規模の大きい魔法だと街中で使えば大災害になりますからね。ガス会社のせいにだけは出来ないのです。まぁ、魔法の事件の場合揉み消すのは魔導協会の仕事ですので、困るのは向こうさんですが」
なぜそこでガス会社? と思ったが大爆発をガス漏れとかで処理するってことか? ガス会社に対する風評被害がひどいなそれ。
「魔法の存在を世間に知られないようにってことか? フィクションでよくあるパターンだな」
「そうなのです、よくあるパターンです。まぁ、一般人が知らないだけで国家の中枢の人間とかは非魔法使いでも、普通に知ってるんですけどね。陰陽寮も国の機関ですし」
「え? マジか? じゃあ、陰陽寮に所属すれば国家公務員になれるのか?」
「──その発想はありませんでしたね。確かに国家公務員と言えるかも知れません」
「それなら、所属もちょっとやる気出てくるんだが」
「勇人様……」
青龍が呆れたような目で見てくる。
いや、だって試験も無しに公務員になれるんだったら是非ともなりたいじゃん。安定万歳! ブラック企業なんて糞食らえだ。
「ところで、陰陽寮ってどういうところなんだ? あんまり詳しく話してくれなかったよな」
「別にこれと言って特別な組織ではありませんよ。日本という国家が運営している退魔組織という以上のことはありません。仕事内容が退魔というだけで実態としては普通の企業と変わりありません。まぁ、命の危険がある仕事な上特別な才能が必要ということで給料は破格らしいですが」
「ほうほう。確かスカウトで能力者を集めてるんだよな? とすると最下位スタートの魔導協会よりは待遇は良さそうだな」
「何を言ってるんですか。陰陽寮の所属魔法使いは全員魔導協会にも所属していますよ。当然でしょう、魔法使いは強制参加なんですから。魔法使いとして陰陽寮に参加したいなら、魔導協会への登録は必須ですよ」
「あー、そうか。そうなるのか……」
「相手はお役所ですからね。いくら実力があったとしてもモグリの魔法使いを雇うことはないでしょう」
確かに冷静に考えるとそうだよな。官営じゃなかったらそこらへんは融通が利くんだろうけど、お役所だとなー。戸籍なしで就職しようとするようなもんだ。
「まぁ、そもそも陰陽寮の人間と出会うことがなければ絵に描いた餅です。私も陰陽寮とは無関係ですしね。こんな大した霊地もない所に出向してくる陰陽寮の人間もいないでしょう」
「青龍も陰陽寮に所属してるわけじゃないのか。やっぱ、それは中国の神様だからか?」
「別に国は関係ありませんよ。まぁ、正直母国ではありますが、今の中国はあまり好きではありません。日本は好きな国ですが、かと言って日本の国家組織に所属するほど母国が嫌いなわけでもありません」
「ふーん、色々あるんだな」
となると、陰陽寮に所属するときは俺一人で、ってことになるのか。
いや、青龍は俺のいわゆる使い魔に当たるから一緒扱いになるのか?
そうなるとやっぱりスカウト構成が凄そうだな。俺単体は大したことなくても俺を雇えば青龍が一緒についてくるわけだから。
青龍の実力を全部見たわけじゃないが、魔法に剣の腕に、隔絶したものを持ってるのは間違いないみたいだし。
ていうか、使い魔、扱いでいいんだよな? 怒ったりしないよな?
「な、なぁ、青龍。俺にとってお前ってなんだと思う?」
「どうしました、急に? そいういうことは勇人様がお決めになることで私が言うことではないと思いますが?」
「えーと、その……。青龍は俺の従者って言ってたけど、その、扱いとしては使い魔ってことになったりするのかなーって……」
かなりしどろもどろになりながらも青龍に聞いてみる。だって、ここ大事な所だよな。従者であるとは聞いてるけど、確か青龍って精神生命体なんだよな。
そうなると、目の前のこの肉体だって仮初のものってことで、使い魔だとするといつでも呼んだり消したりとか出来る、出来るんだよな? そこらへん青龍から一切聞いてないから分からないんだよな。
「あぁ、そういうことですか。確かにご説明していませんでしたね。そうですね、私は勇人様の従者ですが、扱いとしては使い魔ということになります。勇人様と私はすでに契約のパスで繋がれておりますので、私とは念話で会話が出来ますし、私がお側にいないときでも勇人様がお呼びいただければいつでも駆けつけることが出来ます。とはいえ、今は私が一見居ないように見えても、精神体として常にお側におりますので、勇人様が危機に陥ればすぐさま実体化いたしますが」
「てことは、教会でいきなり現れたのも……」
「はい、お側で控えさせていただいたのを実体化することであの場に参上いたしました。なので、転移などを使ったわけではないのですよ」
「なにそれこわい」
てことはこいつ四六時中俺と一緒にいるってこと? えぇー、それは健全な男子高校生としてはちょっと困るんだが。
そんな俺の考えが顔に出ていたのか、青龍は良い笑顔で、それはもうとても良い笑顔で微笑みかけた。
「大丈夫ですよ、勇人様。
「うがあああああ!!」
は、恥ずかしい。穴があったら入りたいとはまさにこのことか。こいつ俺は恥ずかしがらせるためにわざと言ったんじゃねーだろうな。
ていうか、今ちょっと聞き捨てならないことが聞こえたんだが、幻聴だと思いたい。
「『私自身で処理』って、あの、そういうことだよな?」
しかし、幻聴だと思っていても聞かざるを得ない。だって、こちとら現役男子高校生。エロいことに興味津々なのは仕方ない。
青龍のナイスバディと言っていいその体を思わず凝視して、ゴクリと生唾を飲み込んだ俺を責められまい。その俺の視線を受けて青龍はまたしてもいい笑顔で、
「えぇ、
そう言ってウインクひとつ。
なんというか、その大人の余裕な態度に俺は勝てる気がしなかった。
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