10.魔法使い会合
「やっぱり、白石のやつだったのか……」
「ま、俺とお前の共通の知り合いなんてそう多くないしな」
青葉の奴から本命の正体が明かされたが、驚きは少なかった。
予想はしてと言うのもあるが、青葉が言うように俺と青葉の奴の共通の知り合いなんてそれこそ白石の奴しかいない。
「ただいまー」
そんな話をしていると、教会の入り口から元気な声が聞こえてくる。
あぁ、確かにこの声は白石の奴だな。
「あれ? 京ちゃんが来てるなんて珍しい。それに真宮寺先輩も。お二人でウチに何か用事ですか?」
「て言うか、お前の実家、教会だったんだな」
「えぇ、私こう見えても、洗礼名もあるシスターですので。洗礼名はマルタです。て言うか、今日も部活休むなら言ってくださいよ! しばらく部室で待ちぼうけしたんですから」
そう言ってプリプリ怒る白石。怒ってる姿も子犬系で可愛い。なんて思ってる場合じゃなくて──、
「いやまぁ、俺の用事というか、な」
「そこから先は奥でした方が良いでしょう。こんな公衆の場所で話すようなことではなさそうですからね」
白石兄はどうも、これから何を話すのか分かってて言ってるようだ。察しがいいのか、それとも青葉の奴が事前に話を通していたのか。
「??」
しかし、白石の方はなんの話か分かってなさそうで、クエスチョンマークを浮かべていた。
うーん、可愛いパート2。こんな状況でなければもっと愛でていたいのだが、裏を知った今ではこいつの一挙手一投足にも裏があるのではと勘ぐってしまう。
いかんな、どうも疑心暗鬼になってしまっている。
※ ※ ※ ※ ※
白石兄に連れられて奥の部屋へと案内される。
粗茶ですが、とお茶を差し出されるが、俺はそれを飲む気にはなれなかった。いや、別に毒を警戒してるわけではなく、単純に緊張しているからではあるのだが。
今この場にいるのは青葉と白石兄妹、そして俺だ。これからする話に白石を排除しないってことはつまりそういうことなんだろうな。
そして、青葉が話の口火を切る。
「さて、では始めるとするか。取り敢えず、紹介からするか。ひとみは知ってると思うが、こいつは真宮寺勇人。俺の後輩で、新しい我らのお仲間だ。いや、もっと直接的に言おうか。こいつは魔法使いだ。お前たちと同じ、な」
「え? 魔法使い? 嘘、だって今まで……」
白石がそう反応するが、魔法使いという単語に対する驚きではない。その驚きは俺が魔法を使えるという方にだろう。
「青葉だけでなく、白石も、か。いつから俺の周りは変人集団になってたんだ?」
それにプラス、冬美と青龍も追加されるのだが、この場で言うわけもない。
「つまり、君はモグリの魔法使いとして今まで活動してたってことかな? よくもまぁ、今まで我々の探知に引っかからなかったものだ。あぁ、責めてるわけじゃない。ちょっと自分の不甲斐なさに落胆してただけさ」
白石兄がそう言って嘆息するが、そうは言っても俺が魔法使えるようになったのは、一昨日の話だし、見つからないのはある意味当然というか。
それに、ここで正直に「いや、一昨日から急に魔法が使えるようになりまして、えへへ」などと言っても信用されないのは明白だろう。
俺の魔法習得はギフトに依るもので青龍曰く、同じ精度で行使するには才能あるやつでも5年かかるらしいからな。
「はぁ……、真宮寺先輩がですか、いや、なんというかこっちも驚きなんですけど。確かに真宮寺先輩ってば、一般人にしてはすごい魔力持ってましたけど、でもそれだけでしたよね? 私も当初その魔力の高さに警戒して色々調べたんですけど、結果わかったのは一般人だったってことでしたし……。あれ? なんかおかしいような?」
白石が一人でぶつぶつ何かを言っているが、反応はしないでおく。というか、俺のこと調べてたのかこいつ。手芸部に入ったのも俺を監視するためとかじゃねーだろうな。いかん、人間不信になりそう。
「というか、他人の魔力とかそんなのわかるもんなのか? 俺にはそういうの全くわからないんだが……」
「「「え?」」」
疑問の声とともに、3つの視線が重なる。
おい、なんだその反応は。分からんものは分からんのだから仕方ないだろう。
「お前、魔力感知もできないのか?」
「えぇー……。私たちに気づいてなかったことから薄々想像はしてましたけど」
「というより、貴方の師匠は誰なんです? 基本中の基本も教えずに何をやっているのですか?」
三者三様のフルボッコである。そう言われても基本なんて教えてもらってないんだから仕方ない。というか、1ヶ月でモノにするために基本はおざなりにならざるを得ないというか。
基本抜かしていきなり習得できるってのもすごい話だが、まぁ俺の場合はギフトありきだからな。
というか、俺はそういう基本はすぐに身につくもんなのか?
あ、いや。魔力感知とか魔力操作のスキルを習得する、と考えればいいのか。
そうなると、魔法が使えてる時点で魔力操作のスキルは既に習得していると考えていいのか? そこら辺はよく分からんな。
「師匠は……。えーっと、なんて名前だったかな。そうだ、青木葵だ。うん、確かそうだ」
流石に青龍なんて教えるわけにもいかず、以前一度だけ言ってた青龍の人間形態の名前を教える。100%偽名なんだが、本人曰く、戸籍もあるそうだから、人間界ならこっちの名前を名乗らせるのが正しいだろう。
「師匠の名前がスパッと出てこない辺りすごい怪しさを感じますが、京介、ひとみ、名前に心当たりは?」
「知りませんねー」
「ないな。ていうか、墓地でお前と一緒にいた美人さんだよな?」
「そうそう、あの人」
「私も過分にして心当たりのない名前ですが……。その人に師事していて大丈夫なのですか?」
「大丈夫。っつーか、モグリの俺に魔法を教えてくれるのはあの人ぐらいしかいないからな」
ということにしておく。実際は色々複雑だが、それをここでいう気はなかった。そもそも、一応了承したとはいえ、いきなり面合わせさせられたわけだし、まだこの面子に対して信頼が置けるわけではない。
白石と青葉に関してはまだ信頼できるが、この白石兄に関しては欠片も信頼がない。
「ふむ、しかしそうなると困りましたね……。この街の魔法使いの管理も私の仕事なのですが、私の管理外の魔法使いが二人もいることになる。しかも、最低でも片方は協会に未登録の魔法使いと来てます」
「それなんだが、宗玄よ。この事はオフレコで頼む」
「京介……。私の立場をわかって言ってます?」
「こいつと約束したからな。流石に俺が“契約”を違えるわけにはいかない。わかるだろう?」
青葉が俺を庇ってくれるが、なんだろう。言葉の端々に違和感を感じるんだが。だが、青葉がちゃんと約束を守ってくれるのは俺的評価ポイントプラスだ。
「はぁ……、分かりましたよ、黙ってますよ。ただ、フリーの魔法使いとして仕事を割り振るぐらいは許容させてください。今も変わらずこの街は人手不足なんですから」
「そいつは真宮寺と改めて交渉してくれ、俺は邪魔もしないが、手伝いもしない」
青葉はそれだけいうと、頭の後ろで腕を組み、俺はもう知らんという態度をとる。
いや、確かにお前のやりたかった、仲間に紹介するってのは終わったんだから、お前としてはおわったんだろうが。もうちょっと色々やってくれてもいいんだぞ?
「では、真宮寺勇人君。改めて自己紹介しよう。私の名前は白石宗玄。洗礼名はヨハネ。この教会の牧師にして、この荒木市の霊地と魔法使いの管理をしている。よろしく」
そう言って、手を差し出してくるので、一応俺も握手し返す。
白石の兄とはいえ、信頼できる人物ではまだないが、かと言って正面から喧嘩を売る気もないので、取り敢えずは恭順の意思を示しておく。
「魔法使いの管理ってのはなんとなくわかるけど、霊地ってのは?」
俺がそう尋ねると、白石兄──もうめんどいから宗玄さんでいいか──、宗玄さんはやれやれと言った感じで頭に手をやる。
「そこからか。一度君の師匠とはゆっくり話し合いたいものだね。霊地っていうのは、ざっくりいえば魔力の溜まり場さ。土地柄、建造物、周囲の環境、原因は色々あるが、魔力が豊富に存在している土地のことさ。この辺りだと、誠神神社が良質な霊地になってるね。一応この教会もそれなりの場所に建ってるけどね」
「え? あの神社ってそんな場所だったのか?」
それって青龍が封印されてたことと何か関係があるんだろうか。それとも似非殺生石が霊地の原因なのか。前者だとして、青龍の封印は解かれたからもう霊地じゃありませんとかなったら、ちょっと責任を感じるんだが。
「えぇ。と言っても他所にある上質な霊地と比べたらどうという事はない場所だけどね。誰もこんな質の悪い霊地の管理なんてしたくなくて、私にお鉢が回ってきたというわけさ」
宗玄さんも、宗玄さんでなんか苦労してそうだな。
どうでもいいけど、宗玄ってかなり古風な名前だよな。見た目若いからすごいギャップを感じる。そういや、宗玄さんって何歳ぐらいなんだろうか、白石の兄だから大学生ぐらいの感じがするが。それとも、青葉とタメなのか。
「ま、霊地の話はいい。本題だ、真宮寺君。君は昨日墓地に沸いた魑魅魍魎を退治していたそうだね? 魑魅魍魎の類は大したことのない存在だが、それでも放置はできない、非常に厄介な存在だ。
そこで君に依頼したい。今後も、荒木市に発生する魑魅魍魎の退治を請け負ってくれないだろうか。勿論報酬は出す。言っておくけど報酬はかなり破格だよ? 学生の身分では到底手に入れる事のできない額だとは言っておこう」
「ふむ」
魑魅魍魎の退治って、昨日の的当て状態のことだよな? あれをやってこのメガネ曰く、破格の報酬。これってかなり美味しくね? 断る理由はなさそうだ。
だが、待つんだ俺。こういうのには大抵裏がある。それに何より鍛錬をほっぽり出してバイトするとなると青龍が何を言うか分からない。俺にとって目下の目標はお金稼ぎじゃなくて
「師匠と相談させてくれ。俺の魔法をそういうことに使っていいのか聞いてみないと」
「おや、昨日は普通に師匠と同伴で魑魅魍魎退治をしていたらしいじゃないですか。お師匠様のご指導でやっていたのでは?」
「うぐ」
くそっ、痛いところを突いてくるな。確かに昨日は青龍の指導でやってたから反論も出来ん。
「あ、いや、そうだ。俺はまだ修行中の身だ。修行中の力で金稼ぎをしていいのか許可がいる。うん、そうだ」
次に思いついたのは修行中だから金稼ぎできないという理論だ。
実際修行中なのは事実だし、修行のために魑魅魍魎退治をすると言っても、昨日の的当てで考える限り修行の一環として捉えるのも無理がありそうだ。あんなんじゃ修行にならんからな。
「なるほど……。まぁ、さらに反論することも出来ますがそれでよしとしておきましょう。では、お師匠様の許可が取れたらということでよろしいですか?」
さらっと怖いことを言ってのける宗玄さん。
えぇー、今の言い訳でもさらに反論できるのかよ。なんかこの人怖いんだが。
「あぁ、それでいい」
まぁ、
「では、ご返事の時は是非お師匠様を連れてきてくださいね。この街にいる魔法使いとして色々と把握しておく必要がありますので」
「え“!?」
青龍を連れてくる? いや、なんというかそれは困るというか。
青龍のことはそこまで理解するほど付き合いがあるわけではないが、こんな状況で素直に来てくれるとは思えない。
そもそも、協会に関して否定的だった青龍が俺が協会に取り込まれるのをよしとするとは思えない。
「い、いやー、それは師匠の都合を聞かないと……」
「私のことなら案ずる必要はありませんよ?」
突然の聴き慣れた声が後ろからする。ハッと後ろを振り向くとそこには青龍が立っていた。
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