2.ご神木
「よしっ、これでいいか」
「ありがとう、助かるわー」
青葉の襲撃を切り抜けた後、家に帰り着替え、すぐさまその足で誠明神社に来た。
冬美の両親に軽く挨拶したあと、倉庫の整理を手伝う。
誠明神社はまぁ、どの地方にもあるいたって普通の神社だ。
あ、普通じゃない点が一個あったな。この神社は殺生石を祀っている神社ということだ。殺生石といえばかの有名な妖怪玉藻前が封印されたと言われる石だ。まぁ、十中八九分社か何かで本物の殺生石ではないだろうが。本物の殺生石は那須と三高田にあるしな。あれが本当に本物かは議論の余地があるが、アドミンの言が正しければこの世界は魔法も不思議もある世界だ。
玉藻前が実在していたとしても不思議はない。
そう考えるとこのパチモン殺生石も霊験あらたかなのかもしれない。
あと、殺生石以外にもアドミンが言っていたご神木も境内に存在する。まぁ、そんなどこにでもありそうな神社である。
「いつものことだが、なんでこうも取りにくい場所に置くかね。毎年出すもんだろうに」
「置く場所がないんだから仕方ないじゃない。整理はした方がいいんだけどねー」
「ま、俺としてはバイト代がもらえるからいいんだけどな」
バイト代は1000円。1時間ぐらいの作業だったので、時給1000円。肉体労働とはいえ高校生の身空では割と美味しいバイトである。こういう手軽に稼げる機会は素直にありがたい。
「じゃ、出すものは出したし、お茶でも飲んでく?」
冬美がそう言って誘ってくるが、俺は手を振って拒否する。
「いや、その前にちょっとやることがあってな。それ終わってから寄らせてもらうわ」
「そういえば、うちに用事があるって言ってたわね。あ、素敵な賽銭箱はそこよ?」
「いや、そういうんじゃなくて、ちょっとご神木に用事がな」
「別にあれ、うちで一番古い木ってだけで御利益も何もないけど?」
「ま、俺もダメもとって感じだしな」
「ふーん」
冬美はそれ以降興味を失ったのか、特にこれ以上聞いてくることはなかった。
冬美と一旦別れた後、境内の裏手にあるご神木まで歩く。
そこにあるのは本当にただ古い、ただ昔からあるという感じそのままの木であった。
確かに太いが、取り立てて太いわけではなく、確かに高いがそれよりも高い木も周りにある、という。樹皮などをみる限りでは、これが確かにここで一番古い木であるというのは分かるのだが、それ以上はなんの特徴もない、なんてことのない木である。
「さて、ご神木に来たはいいが……、こっからどうすればいいんだ? 待てばいいのか?」
アドミンが言うには、ここで生涯の師に出会えると言う。だとすればここで待つのが正解のような気がしてくる。
「ま、30分ぐらい待って誰も来なかったら、やっぱ夢だったってことだよな」
言いながら、俺はご神木を背もたれに木の根の上に座る。
その瞬間──、
「な、なんだ!!?」
突如辺りを光が包む。直接自分に光が当たっているわけではないのに、ものすごく眩しさを感じる。
どこだ、光源はどこだと探すと、自分の姿が影になっているのが分かる。
「後ろ!?」
そのまま後ろを振り返る。だが、眩しすぎる光によって何も見えない。
だが、確実に目を灼くような眩しすぎる光なのに目を開けていられた。間違いなく目を閉じてしまうような光量なのに、光源がはっきりと見えた。言うまでもない、俺の後ろにあったものといえばご神木しかないのだから。
そんなご神木からの謎ビームを浴びながら、俺は混乱の極みにあった。
「な、なんだこの光は!! こんな超常現象聞いてない!」
俺が眩しさに顔をしかめながら謎ビームの光源を見やると、徐々にその光が収束していく。光が収束していくと、あり得ないことにご神木が一回り小さくなっていた。そして、その傍に一人の女性。
その女性は、一言で言って滅茶苦茶美形であった。冬美も美人に属するタイプだが、目の前の美人とはまるでタイプが違う。
冬美は真面目系の美人だが、目の前の美人はお姉さん系の美人である。しかも、その美人度たるや半端ない。ぶっちゃけ、俺が今まで出会った中で一番の美人と言っていいだろう。さらに、その美人さんで目につくのがその髪である。銀髪なんて日本人にない特徴も備えており、しかもそれがまた絵になるのである。絵になるといえば、目の色も特徴的だ。緑色なんて明らかに自然にない色を備えてる。碧眼ではない、緑なのである。しかし、その時の俺は完全に女性に見惚れてしまっており、カラコンか、とか言う常識的な考えすら浮かばなかた。
服装もスリットの入った際どい服を着ている上、胸の谷間も露出している格好をしているのでぶっちゃけ目のやり場に困る。あ、お胸は大変大きくございました。
いきなり小さくなったご神木と、いきなり現れた美人。その現象に究極の混乱に陥っていると、美人さんは俺をまっすぐと見据え、口を開いた。
「勇人様、お懐かしゅうございます……。この青龍、一日千秋の思いでこの日をお待ちしておりました」
青龍と名乗った美女は、懐かしげな感極まった表情を俺に向ける。目には涙すら浮かべており、本人の言うとおり感無量と言った状態なのだろう。
しかし、そんな美女に対して俺は、
「えっと、すまん。誰だ?」
瞬間、空気が凍った。
空間にビシッとヒビが入った擬音が聞こえそうなほど問答無用のエアクラッシュである。
いや、だってしゃあないだろ。本当に知らない人なんだもの。いや、よく見たら見覚えるのあるような顔をしているが、パッと思いつかない辺りデジャブとかその辺りの感覚だろう。少なくとも、記憶を無くしてから今までの7年間ではお会いしたことのない人物だ。て言うか、こんな美人だったら絶対覚えてるはずだ。
「お、覚えてらっしゃらない……!?」
青龍さんはまさにこの世の終わりと言った表情で愕然とする。
その様子に罪悪感を覚えるが、どうあがいても知らないのだ。
「いや、すまん。ひょっとしたら俺の昔の関係者なのかも知れないが、俺昔の記憶が──」
とりあえず俺の記憶喪失を説明しようと言いかけるが、そこで相手の様子がおかしいことに気づく。
「お、覚えてない……、お、覚え…………」
青龍さんは顔面蒼白、足取りはふらつき、立っているのもやっとといった状態で、ご神木に手をつき杖代わりにする事でなんとか立っていた。
「お、おい。アンタ大丈夫か?」
「あ、アンタ……。フ、フフフ。……はうっ」
俺の声かけがトドメになったのか。青龍と名乗る美女はご神木にもたれかかるようにして気絶した。
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