8.恋人だから
「消えろおおおおお、どりゃああああああ!!!!!!」
ドオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!
「グヒャアアアアアア!!!!!」
レナの救出に向かったユータとメル。
荒野が広がる中、ユータは次々と現れる魔王ミタメ=ツエーの配下を片っ端から薙ぎ倒して行った。メルが思う。
(す、凄い……、ユータ君って、こんなに強かったの……?)
ユータの強さは知っているつもりであったが、無限のように現れる魔物達をすべて吹き飛ばしながらも疲れのひとつも見せないユータにメルは心底驚いた。
「あそこか!!」
そんなふたりの前に魔物達が整然と並んでいる姿が見えた。その中心にいる巨大な魔族。発するオーラから魔王クラスなのは間違いない。しかし走るユータとメルの前に、ひとり魔族が立ちはだかった。
「止まれっ!!」
人型の魔族。黒い長い髪の単眼の魔族。両手に長剣を持ち、放たれる殺気は周りの雑魚とは明らかに違う。魔族が言う。
「誰かは存ぜぬが、相当の手練れとお見受けする。ここはそれがしと……」
「消えろ」
「なに?」
ユータから魔王の覇気が発せられる。ユータが言う。
「俺は今、最高に機嫌が悪い。もう一度言う、消えろ。貴様ら、今すぐに」
「うぬぬぬっ……」
魔族は心を潰されるような圧力に耐えながら両手の剣を振り上げる。そしてユータに走りながら言った。
「どこの勇者かは知らぬが、お命頂戴するっ!!!!」
ユータの木の剣が一瞬、
ドン、ドオオオオオオン!!!!
「ごひゅぎゃあああああ!!!!!」
長髪の魔族は両手に剣を持ったまま、ユータの剣撃によって叫び声を上げながらそのまま倒れた。
静まり返る魔物達。もはやこの時点でユータの前に立つ魔物はいなかった。
「お前が、勇者ユータか?」
その震える魔物達の中から、ひと際大きな魔族が前に出る。
「レ、レナああああ!!!!」
縄で縛られ全身に怪我をしているレナがその大きな手に握られていた。名前を呼ばれ意識朦朧としていたレナが答える。
「ユ、ユータ……、来てくれたんだ……」
巨漢の魔族が言う。
「俺は大魔王デラ=ツエー様の左腕、魔王ミタメ=ツエー様だ。お前が勇者ユータだな? ふん、まさに子供よ。こんなガキごときにコリャ=ツエーまでもビビるなんて滑稽だぜ」
ミタメ=ツエーが笑いながらユータに言う。
「……なせ」
「は?」
ユータが発した小さな声を聞き返すミタメ=ツエー。ユータが大声で言う。
「その汚ねえ手を放せって言ったんだ、雑魚がああああ!!!!」
「なっ!?」
ユータから放たれた恐ろしい程の邪気を感じるミタメ=ツエー。一瞬焦ったがすぐに掴んでいるレナを前に突き出し言う。
「この女は大魔王デラ=ツエー様のご命令によりこれより連れ去る。そしてお前は、……この私に倒される!!!」
そう言うとミタメ=ツエーは右手を前に出し大声で言った。
「魔王技・ミタメダケーーーーン!!!!」
そう叫んだミタメ=ツエーの右手から漆黒の波動が放たれる。強力な邪気を発しながら一直線にユータへと向かう。
ドーーーーーーーン!!!!
そしてそれは避けようともしないユータに直撃し、黒煙を上げながら爆発した。
「ぎゃはははははっ!! 食らった、食らったぞ、まともに!!! 恐怖でよけることもできなかったか!!! ぎゃはははっ!!!」
「ユ、ユータ君!!」
離れた後方で見ていたメルが叫ぶ。
しかし黒炎が消え去るとそこには先程から微動たりもしないユータがそこに立っていた。
「な、なんだと!?」
驚くミタメ=ツエーにユータが言う。
「この程度か?」
「な、なに?」
ユータが言う。
「この程度の力で、俺からレナを奪おうとしたのか? 貴様」
その言葉に怒りを表すミタメ=ツエー。そして再び攻撃をしようと右手を差し出したが、既にユータの姿はそこにはなかった。
「な? ど、どこだ!?」
ミタメ=ツエーの頭上に声が響く。
「48剣技がひとつ・33の
ドゴオオオオオオオオン!!!!
「ぐほっ……、ごごごっ……」
バタン!!!
ユータはミタメ=ツエーの頭上から強力な剣技を放った。
直撃を受け倒れるミタメ=ツエー。そして倒れながらようやくその段違いの覇気の意味に気が付いた。
(この、この覇気は……、大魔王様と同じ……、危険だ、至急知らせねば……)
そう思いつつもミタメ=ツエーはそのまま意識を失った。
「レナ!!!!」
ユータは地面に投げ出されたレナに向かって走る。そしてその体を抱き上げ名前を呼んだ。
「レナ、レナっ、起きろ!!」
「う、うーん……」
意識を失っていたレナが目を覚ます。ユータが道具袋から薬草を取り出しレナの口に入れる。
「さあ、飲め。少しは楽になる」
「う、うぐっ。ユ、ユータ……」
薬草を飲んだレナがようやく状況に気付く。ユータが言う。
「すまない、遅くなって。俺のミスだ……」
レナは申し訳なさそうな顔をするユータを見て思った。
(何も言える訳ないよ、また助けて貰ってさ。悔しいけど、勇者としての資質は負けてるもん……)
「レナ、すまない……」
まだ謝り続けるユータにレナが言う。
「来てくれたんだ、ありがとう」
そう言ってユータの頭を撫でる。ユータが答える。
「当たり前だろ。俺はお前の恋人(の代役)だろ?」
「えっ!?」
突然の想像もできなかったような言葉に驚き、一瞬で顔が真っ赤になるレナ。すぐに言う。
「な、何よ、突然!! えっ、何言ってるのよ!!」
ユータがレナに言う。
「何って、(恋人代役の)約束したろ? 忘れたのか?」
レナは子供の頃からの記憶を遡って思い出す。
(ユ、ユータと恋人になる約束って、うそ、そんなのしたっけ……、いやー、思い出せない!!!)
顔から汗をたくさん流して考えるレナを見てユータが言う。
「まだ体調が悪そうだな。よし乗れ」
そう言って強引にレナを背負う。
「ちょ、ちょっとお!! 何するのよ!!」
驚きと恥ずかしさで声を上げるレナ。ユータが言う。
「大人しくしてろ、怪我人が。さあ、帰るぞ」
そう言って歩き出そうとしたユータに倒れている魔王ミタメ=ツエーとその配下が目に入る。ユータが言う。
「お前ら、帰ってデラ=ツエーに伝えておけ。このお礼は必ずするってな」
ユータに睨まれ魔物達がブルブルと震え出す。
「ユータ君!!!」
そこへメルがやって来てふたりの無事を泣きながら喜んだ。
(そっか、そう言うことだったのね……、ああ、恥ずかしい……)
勇者派遣本部に帰って来たレナは、『レナイッタ王国』でユータに言われた『恋人宣言』について思い出しひとり顔を赤らめた。
(て、てっきり恋人になるっていう話かと思ったんだけど、考えてみたら私、ユータに恋人代役を頼んでいたんだよね。すっかり忘れてたわ……)
父親が来るため恋人代役を頼んでいたことを忘れていたレナ。改めて自分の勘違いを恥ずかしく思う。
「おーい、レナ!!」
そこへ約束していたレナの父親が現れる。
ラフな格好をしているが、グレーヘアーの渋い紳士のような父親。レナは少し緊張した顔をしながら父親に言う。
「は、早かったのね……」
「そりゃ、娘の大切な人に会うんだ。親としては少しでも早く会いたいからな」
そう言って笑う父親。レナは「はあ」と大きな溜息をついて言う。
「も、もうすぐ来るわ。ユータって言うの……」
「ユータ君か。立派な勇者なんだろうな」
父親は何度も頷きながら答えた。
(あ、来たわ!)
そんなレナの目にこちらにやって来るユータの姿が目に映る。ユータもレナに気付いたようで手を振りながら走って来た。
「おーい、レナ!!」
「ユ、ユータ……」
レナの全身を緊張の波が襲う。
しかしそんな緊張もユータの次の言葉を聞いて一瞬で吹き飛んでしまった。
「なあ、レナ。恋人のふりをするのって、いつだっけ? 日にち忘れちゃってさ。教えてくれよ。ちゃんとそれらしき格好してくるからさあ」
「えっ?」
予想もしていなかった言葉に驚くレナと父親。隣にいる男に気付いたユータが言う。
「あれ? 誰だこのオッサン? お前、パパ活でも始めたんか?」
レナの父親が尋ねる。
「……なあ、レナ。この子がユータ君か?」
レナは父親の言葉にも反応せずにふつふつと怒りのオーラを発し始める。
(ま、まずい……、良く分からんけど、何か地雷踏んだぞ……)
ユータは本能的に身の危険を感じ、その場から去ろうとする。しかしレナの怒りの鉄槌がそれを逃さなかった。
ドン!!!!
「痛ってえええええ!!!!!」
レナが目から涙を流して言う。
「貴様あああ!! ユータっ!!!」
「はいいいいい!!!」
余りに激しすぎるレナの迫力にユータが直立不動で答える。
「これが私の父親っ!! そして約束の日は、今日!!! 今、ここっ!!!!」
「う、うそ……、まじで……」
今度はユータから大粒の脂汗が流れ落ちる。
ドン、ドオオオオン!!!
「痛って、痛ってえええええ!!!!」
レナの鉄拳が立て続けにユータに落とされる。
「許さない、許さないっ!!! 絶対に許さないんだから!!!!」
「ひえ~!!!」
ユータは殴られながら思った。
面倒な頼まれごとを聞き、宴会の途中で美女を放り投げてまで異世界へ助けに行ったのに、やっぱり最後は殴られるのか……
そして直ぐにその思いに首を振る。
(いや、今回は冒頭でも殴られたような気がするぞ……)
ユータはレナの鉄拳に耐えながら自分の不幸を呪った。
Re:派遣勇者 ~最凶魔王が新米勇者に転生し無双して異世界平和を守るのだが最後は何故か女の子に殴られるお話~ サイトウ純蒼 @junso32
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