7.救援
「場所は、どこだ……」
メルからの電話でレナが攫われたことを聞き、無表情になったユータが静かに電話越しに言った。
「ん? ユータ、どうした?」
酒を飲んで笑っていたハーゲンがすぐにユータの異変に気付き尋ねる。
「ユータ……」
隣に座っているマリエッタも同じように心配の眼差しをユータに向ける。
「……分かった。すぐ行く」
ユータはそうひとこと言うと電話を切った。ハーゲンが尋ねる。
「緊急か?」
ユータは立ち上がりながら答える。
「ああ、すまない、ハーゲンさん。レナが攫われた。これからすぐ戻る」
「ひとりで大丈夫か?」
グラスをテーブルに置いたハーゲンが尋ねる。
「問題ない。ハーゲンさんはここの残党の監視を頼む」
「分かった。行ってこい」
ユータは頷くとすぐにマリエッタに言った。
「この国に転送装置はないか?」
マリエッタがすぐに答える。
「あるわ。破壊された王城の地下に異世界転生装置があるの。案内するわ!」
「助かる」
ユータとマリエッタはすぐに拠点を抜けると、真っ暗な闇の中破壊された王城へと向かった。マリエッタは走りながらユータを見つめる。
(レナさんって、誰なんだろう……)
ずっと何も言わずひたすら走り続けているユータを見つめる。マリエッタは深く息を吐いてから地下へと続く階段を下りた。
「ここよ。ちょっと待って」
王城の地下にある異世界転生装置の前に来たマリエッタが装置の確認をする。王城自体は魔王軍によって破壊されてしまったが、幸い地下にあったこの転生装置は無事であった。
マリエッタはユータから転送先の場所を聞き魔法紙にその名称を書き込む。そして転送装置の端に置き、その名称を意味するように魔法石を並べる。
「……これでいいわ。さあ、その魔法陣の真ん中に立って」
マリエッタに言われたユータが魔法陣の中心へと向かう。歩くユータを見つめながらマリエッタが言う。
「ユータ、その、ありがとう。気を付けて……」
中心に立ったユータがマリエッタに言う。
「ああ、ドレスのお前、なかなか良かったぞ」
真っ赤なドレスを着ていたマリエッタが、そのドレスの色ぐらい顔を赤くして答える。
「ああ、ありがとう」
転生装置に置かれた魔法石が光り始める。マリエッタが言った。
「ユータ、その、そのレナって子はあなたの大切な
光に包まれながらユータが頷く。
「そうか、また来てくれ。歓迎する」
「ああ、また来るよ」
ユータを包んでいた光がさらに強く輝き、そしてユータ諸共消えて行った。
「男が女の為に行くんだぞ。笑顔で送ってやらなきゃならないだろ。なのに……」
目から大粒の涙を流すマリエッタ。
「なぜ私は涙が止まらないのだ……」
マリエッタは両手で顔を押さえながらその場に座り込んだ。
「ここか……」
ユータが転送されてきたのは先に訪れた『オウケーチ王国』同様、破壊された町の一角であった。ただ違うのはオウケーチ王国の街が破壊されて時間が経っていたのに対し、ここは現在進行形で破壊されていたことだ。
ドン、ドオオオオオン!!!
街の中心から聞こえる戦闘音。ユータはすぐにそちらへと走り出す。
「48
メルが魔法を唱えると、持っていた宝玉から黄金色の光の波動が発せられる。そして目の前にいた大量の魔物達に向って波のように放たれた。
「ギョウウウウウワアアア!!!」
メルの攻撃を受けて前方にいた魔物が倒れる。しかしすぐに現れる新たな魔物達。
(くっ、キリがないわ……)
メルは自分の後方に避難した街の人達を思い、魔法力が尽きかけた体に再度気合を入れる。魔物達の後ろで腕を組んでいた指揮官が声を上げる。
「魔法が弱まっているぞ!! 恐れることはない、突撃せよ!!!!」
指揮官の号令と共に大量の魔物がメルに向かう。メルはすぐに宝玉を掲げ魔法を唱える。
「48宝技がひとつ……、ぐっ……」
たったひとりで魔物の群れを食い止めること数時間。孤軍奮闘していたメルもついにその魔力が尽き、魔法を発することができなくなってしまった。
(だめ、諦めちゃ、私は勇者。絶対に諦めちゃいけない……)
疲労困憊でもはや立つこともできなくなったメルがその場に座り込む。そして護身用に持っていた小型のナイフを取り出し構える。
「ぎゃはははっ!!! 魔力が尽きたぞおおお!!! それ、やれやれっ!!!!」
魔物の群れが一直線にメルに向かう。メルはよろよろと立ち上がり、そしてナイフを持ってひとり対峙する。
(私がやらなきゃ、勇者だもん、私がやらなきゃ……)
異形の魔物の群れがメルに迫る。メルの目からは自然と涙が溜まる。
(私がやらなきゃいけない。でも、怖い……、怖いよ……、ユータ君……)
メルの目から涙が流れた。
(早く来て!!! ユータ君っ!!!!!)
「48剣技がひとつ・23の
ドオオオオオオオオオオン!!!!
「ギャアアアアアアアア!!!!」
メルの頭上を魔物に向かって水平に飛ばされる大きな剣撃。
そしてそれはこちらに向かっていた魔物達を次々と遥か彼方へと吹き飛ばして行く。
「な、なんだ、これは……!?」
剣技が通過した跡は、まるで稲刈りをした後の田んぼのように美しく魔物が狩り取られていた。
「よく頑張った。メル」
ユータは座り込んでいたメルの隣に立つと、手を差し出して言った。
「バカ、ユータ君。遅いぞ。本当に、何やっていたんだよ……」
メルは涙を拭きながら差し出されたユータの手を取り立ち上がる。ユータが答える。
「すまない。遅れたのは俺のミスだ。怪我はないか?」
メルは立ち上がってユータに答える。
「うん、大丈夫だよ。疲れてへとへとだけど。それよりレナちゃんが……」
そう言ったメルの顔を真剣な顔つきで見つめるユータ。
「直ぐに向かう。悪いが案内を頼む。これ薬草だ」
「うん、分かったわ!!」
メルは渡された薬草を飲み、ユータと一緒にすぐに魔王ミタメ=ツエーへの元へと走り出す。しかしその前に魔物の司令官が立ちはだかった。
「き、貴様、何者!!! ここを簡単に通れるとは思う……!!!」
ドオオオオオオン!!!!
「ぎゃあああああ!!!!」
ユータは立ちはだかった司令官に軽く剣撃を放つと、遥か彼方へと吹き飛ばした。
(待ってろ、レナ!! すぐに行く!!!!)
ユータはメルと一緒に必死に走り出す。
「……ふう、さすが勇者と言ったところか。随分と手こずらせてくれたな」
魔王ミタメ=ツエーは目の前で縛られたレナを見て言った。周りにはレナの攻撃によって倒れた魔物達が山のように積み上げられている。
(勝てない、勝てないわ、私じゃ。魔王ミタメ=ツエー、こんな奴がいるなんて……)
レナは目の前にいる巨漢の魔王を見て思う。
(メルちゃんはちゃんと逃げられたかな。そしてユータは……)
レナは縛られながら下を向いてユータを想う。
(ごめん、ユータ。また頼っちゃうわ。でも早く、早く……)
レナが顔を上げて空を見上げる。
「……早く来て、ユータ」
レナの頬に涙が一筋流れた。
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