6.繋がった電話
「も、申し訳ございません。最凶魔王様!!」
突然ユータに対して土下座をする魔王。意味が分からず首を傾げるユータ。それを遠くから見ていたマリエッタがハーゲンに尋ねる。
「い、一体何があったんでしょうか……?」
ハーゲンは腕を組みながら答える。
「さあ、
「最凶魔王?」
意味が分からないユータが再びその言葉を繰り返す。魔王が言う。
「あ、あなた様が復活されているとはつゆ知らず。ど、どうかお許しを!! 最凶魔王様っ!!!」
ユータが言う。
「最凶魔王ってなんだ? 俺は勇者だ。意味が分からんぞ?」
魔王が顔を上げて言う。
「まさか、お気づきになられていないとか。転生? いや、しかしこの覇気、そしてこの平和を守るというその
「魔王? 俺が? そもそも魔王が善行って矛盾してねえか?」
未だ理解できないユータが言う。魔王が説明を始める。
「古の時代、最凶魔王様は最強勇者と死闘を繰り広げておられましたが、やがて和解し、そして勇者ともに平和を守って来られました。我々三下魔王は日々あなたに悪行を知られることを恐れているのです」
「ね、ねえ、何か必死に話しているような気がするんだけど……」
立ち上がったマリエッタがハーゲンに尋ねる。
「放っておけ。躾をしているのだろう」
ハーゲンもその様子を遠くから眺める。
「良く分からんなあ……」
そう言いつつも、ユータは確かにこれまで何度も同じように様々な奴らから畏怖されたことを思い出す。自分自身良く分からない気持ちが強かったのだが、目の前で震える魔王に言った。
「まあいいや。……で、お前、これから分かっているよな?」
「はいいいいいいっ!!! もう悪いことは致しません。い、命だけはお助け下さい!!!」
魔王は再び地面に頭をこすりつけて懇願する。ユータが言う。
「分かった。命だけは助けてやる。その代わりお前の残党どもにもう悪事をしないようしっかり言っておけ。いいな? それができないようならば……、分かるな?」
「は、はいっ!! 決して最凶魔王様の命に背くようなことは決してえええ!! では失礼しますううぅぅぅ!!!!」
魔王はそう言って再度頭を地面にこすりつけてから起き上がり逃げるように去って行った。
「ほ、本当にいいのでしょうか。こんなもので……」
魔王の脅威から救われた『オウケーチ王国』。
その夜、その拠点ではささやかながら勝利を祝う祝賀会が開かれていた。街に残っていた酒を集め、皆が笑顔で歌い食事を楽しむ。随分長いことなかった当たり前の光景がそこに広がった。
マリエッタはユータとハーゲンの前に来て約束していた『マケータ』を手渡す。それを見たユータが満面の笑みで言う。
「おお、マケータ30年物じゃん!!!」
目を輝かせるユータ。そしてマリエッタが言う。
「ほ、本当に報酬は酒と、その……、わ、私の同席だけでいいのですか?」
ユータはそう言って顔を赤らめる目の前の美しいドレスに着飾ったマリエッタを見つめる。真っ白な肌に、胸や肩を大きく露出させた華やかで色っぽいドレス。スリットからはその美しい足が少しだけ見え隠れする。
「がはははっ、いいぞいいぞ。仕事の後の一杯は最高だ。さあ、座れ!!」
隣にいて既に酔っ払っているハーゲンが大声で言う。
「お前、何もしてないだろ!!!」
そう言って怒るユータだが、マリエッタがふたりの間に座ると一瞬でその気品ある美しさがふたりを黙らせた。マリエッタがマケータを持って酒を注ぐ。
「さ、さあ、どうぞ……」
慣れないマリエッタ。ふたりはデレデレとしながらそんな美しいマリエッタのお酌を受け酒を楽しむ。マリエッタが言う。
「しかし、勇者と言うものの本当の強さに驚きました。我が国にも勇者と名乗る者は大勢いましたが、本当に恥ずかしいことです」
ユータはマケータを飲みながら答える。
「いいんだよ、それで」
「え?」
「強いとか弱いとかはあんまり関係ない。もちろん強さは大切だが、それよりもっと大切なのは諦めない心。諦めた時、そいつは勇者じゃなくなる」
「うん、そうですね……」
マリエッタは圧倒的強さを誇る魔王軍に諦めかけていた自分を思い出す。そして何度も頷きながらユータを見つめた。
「がはははっ、酒持って来い、どんどん持って来い!!」
その横で豪快に酒を飲むハーゲン。
「だから何にもしていないお前が何でそんなに騒いでいるんだよ、このハゲ!!」
「まあ、ユータ。ハーゲさんがいたから安心できたことも事実。私はそれで十分感謝しています」
全く悪気の無いマリエッタがユータに言う。
「がははははっ、……ん? 今ハゲって言ったか?」
ハーゲンは上機嫌で笑いながら酒を飲み続けた。
トゥルルルル、トゥルルルル……
その時、再びユータの【もしもしでんわ】が鳴った。
「ユータ、電話じゃないですか?」
酒のボトルを持ちながら着信に気付いたマリエッタが言う。
「ん? ああ……」
ユータが面倒臭そうに道具袋から電話を取り出し見つめる。
(またメルか……、あいついつから被害妄想女から『ストーカー』に変わったんかよ……)
電話を見つめるユータを見つめるマリエッタ。
(誰からだろう、もしかして女性なのか……)
マリエッタが思わず尋ねる。
「女性から、ですか……?」
ユータが鳴り響く電話を見つめながら答える。
「ああ、そうだ。最近ストーカーみたいになってきたな、本当に……」
(ストーカー……、これだけ強い勇者ならファンがいるのも当たり前か……)
マリエッタはそう思いつつも少しだけ嫉妬している自分に気付き驚く。
(わ、私は何を考えているの! 彼は仕事で来た勇者。そう、これは仕事……)
そう思うと自分が着ている真っ赤なドレスが何だか惨めに感じて来た。
「はい、もしもし……」
マリエッタがそんな風に思っていると、ユータはボタンを押し電話に出た。そして言う。
「お前、ストーカーかよ! 一体どれだけ俺にまとわりつけば……」
そこまで言ったユータの言葉が止まる。
(泣いている!?)
電話の向こうで泣くメルの声を聞いて初めて普通じゃないことに気付いた。メルが言う。
「ユータ君、どうしてすぐに電話に出てくれなかったのよ!!! レナちゃんが、レナちゃんが魔王に攫われて……」
電話を持ちながらユータの顔が真っ青になった。
(ユータ……?)
無数の魔王軍に囲まれても顔色ひとつ変えずに対処したユータが、初めて見せるその表情をマリエッタはじっと見つめた。
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