2.レナとメルの初共闘

「レナちゃんとメルちゃんはこれね」


勇者派遣本部で魔王討伐の依頼を受けるふたり。受付のリリアが言う。


「ふたりなら大丈夫だと思うけど、一応中級魔王だから気を付けてね。既に暴れていて被害が出ているようなの。至急、討伐を頼むわ!」


「はい」


レナとメルは初めての共闘を行う。中級魔王に襲われていると言う異世界を救うのが仕事だ。



「レナちゃんと一緒だなんて嬉しいな」


「そうね、よろしくね。メルちゃん」


ふたりはリリアから依頼指示書を受け取るとゲートへと向かった。




「ゆ、勇者様っ!!」


ふたりは異世界にある『レナイッタ王国』の王城へと転送された。突然現れた勇者を見て歓喜の声が上がる。見渡すと国王らしき人物が涙を浮かべながらふたりに近付いて来る。


「国王でしょうか?」


「はい、勇者様……」


国王はやって来た勇者が女の子ふたりだったためかやや驚いた顔をする。

レナとメルはすぐにレナイッタ王国に攻めて来ている魔王軍の状況を聞く。相当の攻撃を受けているようだが王城自体はまだ無事とのこと。

心配する国王達をよそにふたりは戦闘準備を整え出撃する。




「48剣技がひとつ・5の勇技ゆうぎ乱撃らんげき!!」


「48宝技がひとつ・11の技【勇技ゆうぎ】氷結の大津波!!」


レナとメルは街郊外に広がる魔物の群れを次々と倒して行く。敗戦濃厚だったレナイッタ王国の兵士達がやって来た勇者の強さに驚く。



「勇者が少女ふたりだと聞いて一時は戸惑ったのだが、我々はとんでもない勘違いをしていたようだ。これが本物の勇者なのか」



そして雑魚魔物が一掃された後に現れた中級魔王。

筋肉隆々の巨漢にスキンヘッド。褐色の肌でなければ大勇者ハーゲンそっくりである。



「メルちゃん、兵士達を退却させて。こいつは私がやる!!」


「う、うん、気を付けてね。レナちゃん!!」


そう言うとメルはレナの指示通りに兵士達に撤退を指示する。



(この魔力。さすが中級魔王ね。それよりもなんかハーゲンさんそっくりだわ。なんか見ているだけでイライラしてくる)


レナは普段ハーゲンから受けている『無自覚の嫌がらせ』を思い出して怒りが沸いて来る。



(整形しろとか、子供を作れとか、ああ、思い出しただけで腹立ってきた!! 許さんっ!!!!)


レナは目の前のハーゲンそっくりの中級魔王に日頃の怒りをぶつける。中級魔王が言う。



「ちょっとは腕の立つ者が来たようだな。だが、貴様など、この私、チュッキュ魔王様にかかれば……」


「うるさいっ!!!!」



「へっ!?」


怒鳴ったレナに一瞬驚くチュッキュ魔王。そしてレナが叫ぶ。



「キモイんだよ、お前っ!! 48剣技がひとつ・7の勇技ゆうぎ割撃烈火さくげきれっか!!」



ドオオオオオン!!!!


「ギョワアアアアアア!!!」



チュッキュ魔王はレナの剣技の前にたった一撃で吹き飛ばされてしまった。


「おおっ!!」


遠巻きに撤退しながらその様子を見ていた兵士達から歓声が上がる。メルもその様子を見て一安心する。ただ、その中でただひとりレナだけが違和感を覚えた。



(何この感覚……? 何かが変だわ……)


レナは言い表せぬ不安を全身に感じる。

そしてその不安はすぐに現実のものとなった。




ゴオオオオオオオ……


突然目の前に舞い上がった砂嵐。

驚くレナが後退して剣を構えると、その砂の中から先程のチュッキュ魔王よりもさらに巨漢の男が現れた。



「砂まみれじゃないか。もっと別の登場方法を考えられんのか?」


その巨漢の男は全身にかかった砂を払いながら不満そうに言った。



(こ、こいつは、まずいわ……)


レナはその様子を汗を流しながら見ていた。

その巨漢の男、これまで見て来た魔物とは桁が違う強さ。対峙しているだけでその強力な魔力がビシビシ伝わって来る。



「レナちゃん、あれ……」


兵士を撤退させ戻ってきたメルがレナに言う。




「ええ、まずい奴が来たわ。上級魔王クラスと言ったところね……」


そう言いながらレナはどう対処するかを必死に考える。魔王が言う。



「お前がレナって女か? なかなかいい女じゃないか。俺が貰ってやろうか?」


剣を構えるレナが言う。


「貰う? ふふっ、残念だけどもう先約がいてね。」



レナの剣が振り上げられる。



「48剣技がひとつ・1の勇技ゆうぎ】レナちゃん斬り!!」



レナの剣から強烈な剣撃が砂嵐を巻き上げながら巨漢の魔族に放たれる。


ドオオオオオオオオオオオン!!!!



(直撃した!! これなら……、えっ!?)


舞い上がる砂埃が消えると、そこには全く無傷の魔族が立っていた。



(私の全力の、最も強い攻撃を受けて、傷ひとつ負わせられないなんて……)


レナは予定外に現れた謎の魔族を見て全身から汗が流れる。魔族に言う。



「あなた、誰なの!!」


巨漢の魔族は笑いながら答える。



「我か? 我は大魔王デラ=ツエー様の左腕、魔王ミタメ=ツエーだ。訳あってを捕えに来た。力の差は感じているのだろ? さあ大人しく捕まるがよい」


(わ、私が目的? なぜ……、いいえ、今はそんな事よりも……)



レナは剣を振り上げ剣技の構えを取る。そして魔王ミタメ=ツエーに向かいながらメルに叫んだ。



「メルちゃん、ここは私が引き受けるから逃げてっ!! そしてユータに、ユータにここに来るよう伝えて!!!」


「レ、レナちゃん!!! 分かったわ!!!」


メルとて厳しい勇者学園で勇者学を学んだ者。ふたりがかりでも勝てないことは既に気付いていた。ならばどちらかが囮になり一刻も早く援軍を呼ぶのがセオリー。

メルは後退しながら【もしもしでんわ】を取り出し電話を掛ける。そして心の中で祈った。



(レナちゃん、死なないで!! ユータ君、早く出て!!!!)


メルはひとり魔王ミタメ=ツエーに向かって走り込むレナを見ながら涙を堪えた。

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