第九章「勇者派遣本部」
1.魅惑の勇者イロカ
「パパ……」
「うん、どうした? 再度言うが、お前にはその依頼成功率の極めて高い勇者を頼む」
「うん、わかった……」
そう返事をするとその少女は光の中へと消えて行った。
「何か……、ちょっと地味な依頼だな」
ユータは勇者派遣本部の受付でリリアから渡された依頼指示書を見て言った。
「まあ確かに派手さはないけど、どんな小さなことでも平和な為に頑張る、でしょ?」
リリアにそう言われてユータも同意する。リリアが言う。
「それと、今回も共同作戦ね」
「また誰かと行くのか?」
ユータが尋ねるとリリアが頷いて言った。
「そうだよ、同期の子だけどまだ経験が浅いんで一緒にお願い。イロカちゃーん!」
そう言うとリリカは奥の間に向かったその勇者を呼んだ。返事と共に現れるその少女。
長い髪は後ろでポニーテールで結ばれており、そして白いコートの様なマントの様なものを付けている。そして服は胸元が大きく開かれており、その豊かな胸を強調しているよう。そしてミニスカートから伸びる綺麗な足が男共の視線を奪う。
「はーい」
そう返事をして出てきたイロカと言う女の子。フェロモンをそこら中に振りまきながら歩いている。ただ同期だと言うが全く見覚えがない。
「ユー君ね、よろしく。イロカよ」
そう言ってユータに手を差し出すイロカ。ああ、と言ってユータも手を差し出すと、そのをイロカがぐっと引いて身をユータに接触させる。
「お、おい! 何だよ急に!」
じっとユータを見つめるイロカ。否が応でもユータの目にはイロカの胸の谷間が映る。イロカが甘い声で言う。
「可愛いわね、ユー君」
「な、な、何を言って、お前は……、!?」
ユータが背中に何か冷たいものを感じ振り向くと、そこにはこちらを無表情で睨みつけるレナの姿があった。
「げっ、レナ! いや、これは違うんだ!」
そう言ってイロカから離れるユータ。
「楽しそうね」
無表情で抑揚のない声で言うレナ。ユータが焦って答える。
「いや、だからこれは……」
「楽しそうね」
ユータは全身から汗が流れるのを感じる。そしてリリアの前に置かれた依頼指示書を持つとゲートの方へ向かって走って行った。
「ま、またな、レナ!!」
「あ? ちょっと待ってよ、ユー君!!!」
イロカも慌ててユータを追いかけた。
「ええっと、ここだな」
ユータとイロカは依頼指示書に指定されてあった【ライズ村】へと辿り着いた。
それほど大きな村ではなく、全般的に木や藁の家が目立つ。村人も決して裕福な身なりではなく、痩せこけている者も多い。
「とりあえず村長の家に行くか」
「うん」
イロカはそう言うとユータの腕に手を絡めて言った。ユータはそんなイロカを突き放しながら村長の家へと向かった。
「おお、あなたが勇者様で……」
村長の家は確かに他の家よりも大きくて立派だったが、それでもこれまで依頼をして来た国王や金持ちの家と比べると随分見劣りがする。自己紹介をした後、村長が言う。
「お伝えはさせて頂きましたが、郊外の森に魔物が住み着くようになりまして酷く我々の村に被害が出ております……」
「数は多いのか?」
「分かりませぬが、一群と言ったところでしょうか。何せ調査に向かった村の若い奴らが帰って来ませんので……」
「そうか……、まあ大体分かった。何がいるかも含めて調べてみよう」
「あ、ありがとうございます……」
村長はその痩せこけた顔をしっかりとしたまで下げて言った。ユータが家の中を見ながら言う。
「なあ、村長。失礼かもしれないけど、よくこの村に派遣勇者を呼ぶ金があったな」
「ユ、ユー君!」
遠慮なしに尋ねるユータにイロカが驚く。村長が急に元気になって言う。
「ええ、我が国では魔物体討伐には多額の補助金がでまして……」
「ほう」
村長が続ける。
「さらに今、派遣勇者様の方で勇者割引セールを行っているでしょ? お陰で村の負担はなし、勇者が無料なんですよ! そして補助金も余ってしまって、ぐへへへへっ……」
ユータが溜め息混じりに言う。
「お、俺達、無料……、なのか……」
「村長さん、キャラ激変……」
しまった、と言う顔をした村長が、再び暗そうな顔をして言う。
「と、と言う訳で何卒、この哀れな村をお救い下さい。勇者様」
「全然説得力ないよな……、まあ適当にやるか……」
「うん……」
村長が言う。
「それにしてもまさか夫婦(めおと)の勇者様がいらっしゃるとは、吃驚致しました」
「めっ……」
「……おと!! きゃ!!」
その言葉を聞いて顔に手を当てて喜ぶイロカ。慌てて否定しようとするユータよりも先に村長が言う。
「本当は二部屋用意しておりましたが、一部屋でいいですな。ダブルベッドの」
「おいっ!!!!」
「もちろんですわ、村長さん!!!!」
「い、いや、そりゃ駄目だろ! 村長!!!」
必死に否定するユータであったが、「耳が聞こえない」と言って聞こうとしない村長。
結局夕食の後、同じ部屋に押し込められた二人。話の通り、中央に置かれたダブルベッド。ユータが頭を抱える。
「ユ~君、今日は一緒におねんねだね!」
イロカは胸の谷間を見せながらユータに言う。
「お、俺はそこのソファーで寝る。お前はベッドで寝ろ」
それを聞いたイロカが不満そうな顔をして答える。
「えー、何それ。つまんない!! 私はユー君と寝たいよ~」
ユータがイロカを見て言う。
「悪りぃな。何故か知らんけど、お前にはそう言う魅力を全然感じない。そもそもお前、それ本気で言ってるのか?」
「えっ?」
イロカは一瞬自分の顔が青くなったのに気付いた。そして直ぐに笑顔になって言う。
「あ、当たり前でしょ! でもユー君が望まないなら今日はいいや。先寝るね」
そう言ってイロカは先にベッドに入って寝始めた。ユータも黙ってソファーで眠りにつく。
翌朝、早速ユータはイロカと二人で郊外にある森へ出かけた。
魔物はそれなりにいた。ユータは木の剣を、そしてイロカは両手に持った短剣で魔物を倒す。しかし目当てにしていた魔物のボスは見つけることができなかった。
ユータ達は仕方なく村に戻り夕食をした後、部屋に戻る。ユータがソファで寝ようとするとイロカが言う。
「ちょっと散歩してくるね。ユー君は先に寝ててね」
そう言うとイロカはふらっと外へ出て行った。ユータは疲れていたのでそのままソファーで眠りに落ちる。
静かな夜の森。ひとりローブを羽織ったイロカが漆黒の闇の中を歩く。そしてその闇の中、大きな口を開けるように現れた洞窟に入った。
「来たか……」
洞窟の中には昼間戦った下級魔物とは別の中級魔族数体が、イロカが来るのを待っていた。イロカは洞窟にある椅子に座って言う。
「何とか初日は見つからずに済んだ様ね。明日からもしっかりやりなさいよ」
イロカは上から目線で命令するように言った。魔族が答える。
「大丈夫だ。それぞれ結界を張って行動している。勇者とは言え簡単には見つからない」
イロカが小さく溜息をついて言う。
「大丈夫かねえ、あの勇者。かなり強いわよ」
それを聞いていた魔族の顔色が変わる。
「どういい意味だよ、それ? スライス様の命令で大人しくしてはいるが、子供の勇者一人ぐらい簡単に潰せるぞ」
「ちょっと、何言ってるのよ。大人しくしていなさい!」
イロカは椅子から勢い良く立つと魔族達に向かって言った。魔族達が言う。
「お前よお、俺達がそんなに弱く見えるのか? そもそもスライス様の娘だからっていい気になるなよ」
そう言って魔族はその手から鋭い爪を出す。イロカの近くにいた別の魔族がその細い腕を掴む。
「ちょ、ちょっと、何するのよ!! ううっ!!」
騒ごうとするイロカの口を塞ぐ魔族。
「そもそもガキのくせによお、お前、いやらしい体してんじゃねえか」
魔族達は捕まえられたイロカの大きな胸や真っ白な足を舐めるように見ながら言った。
(やめて、やめてーーーー!!!!)
イロカは塞がれた口で声を出すことができずに心の中で叫んだ。
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