5.圧倒的な力

「行けええええ!!!! 突撃だあああ!!!!!」


ユータが魔王城を攻略している頃、ツエツエ城前では魔王コリャ=ツエー率いる魔王軍と、勇者ソレナリが中心となった国王軍との激しい戦闘が続いていた。

魔王が繰り出す数多あまたの魔物達。それを兵士、そして招集された勇者達が次々と打ち破っていた。



「はっ! はっ! はあああ!!!」


勇者ソレナリの剣、そしてその美声が戦場に響き渡る。美人姉妹のケルファとミルファも戦いながらソレナリの華麗な剣技に見惚れる。


「ソードボンバー!!!! ウオオオオオ!!!!」


派遣勇者であるゴバックも相変わらず誤爆を繰り返しながら、敵陣に単騎乗り込んでは手当たり次第誤爆を行う。あまりの無茶な戦術に戸惑い逃げる魔王軍。

国王軍より湧き上がる歓声。勝利を確信したかのような雰囲気。確かに序盤だけの戦いを見れば、誰もがそう思った。


しかしが出てきてから戦況が一変する。



「ぐわあああ!!!!」


前線で戦っていた兵士達から悲鳴が上がる。見るとそこには普通の魔物よりも数倍大きな筋肉質の魔族がいる。砂埃舞う中、その魔族が体の埃を払いながら言う。


「ああ、嫌だ嫌だ。ほんと体が汚れちゃう。もうこんな面倒なこと、コリャ=ツエー様の命令じゃなきゃ絶対聞かないわ。そもそも何でこいつら弱いくせに私に向かってくる訳? 意味分からないわ、えいっ!!!」



ドーーーン!!!


そう言うとその魔族は自身を中心に強烈な爆発を起こした。


「ぐあああああ!!!!!」


周りにいた兵士達が次々と吹き飛ばされて倒れていく。魔族はまた体の埃を払ってひとりぶつぶつ言う。その異変に気付いたゴバックがやってくる。


「お前、何者だ!!」


その大きな魔族は体の埃を払い終わって答える。



「副将ミギーテ。魔王様の側近よ」


「副将……」


ゴバックはその魔族から発せられる強力なオーラに飲み込まれそうになった。それでも剣を構えて言う。



「俺も爆発使いだ。どっちが上か比べてみるか?」


ミギーテがゴバックを見て言う。


「嫌よ」


「何?」


驚くゴバック。ミギーテが言う。


「だってあなた、もん」



「き、貴様あああ!!!!」


ゴバックはすぐに剣を構えて詠唱する。


「48剣技がひとつ・38の勇技ゆうぎ】ソードボンバー!!!!」


ゴバックから放たれた爆裂が、珍しく狙った敵に命中する。



ドーーーン!!!


「やった! まともに食らいやがった……ぞ……、あれ!?」


ソードボンバーの爆炎が収まると、ほぼ無傷のミギーテが現れた。ミギーテがが言う。


「あーあ、こんなに私を汚しちゃって……、あんた、許さねえぞおおおお!!!!」


そう言うとミギーテは一瞬で姿を消す。


「えっ!?」


ドン!!



ゴバックが気付くとすぐ真横に立っているミギーテ。そして背中に強烈な痛みを感じるとそのまま意識を失い倒れた。



「くたばれえええええ!!!」


ゴバックの戦いに気付いた美人姉妹が叫びながらミギーテに襲い掛かる。


「あら、やだ。怖い女の子ね」



シュン!!


「えっ!?」


ドン、ドーーン!!!


二人同時に襲い掛かった姉妹は、やはり一瞬にして反撃を受けミギーテの足元に倒れた。姉妹を踏みつけながら言う。


「ああ、もう汗かいちゃった。気持ち悪いいい。早くシャワー浴びなきゃ。ほんと戦闘ってなんでいつもこう汚れるのかしら。ああ気持ち悪い。……で、あんたいい加減出て来たら」


そう言うと爆煙の中に居たその男がゆっくりと現れた。踏まれた姉妹を見て言う。


「この最強勇者ソレナリ様がお前に引導を渡してやろう」


ソレナリの剣が光る。





その頃街に戻って来たユータはひとりちゃんとしたバーに入って酒を飲んでいた。


「ああ、美味い! 仕事の後の一杯は最高だな!!!」


上機嫌で飲むユータ。そこにフードを被った女が現れてユータに言った。



「城が、王城が魔王軍に攻められています。助けて下さい……」


ユータは酔った顔で答える。


「そうか……、でも俺はまだ謹慎中だし……」


女性が言う。


「平和を、平和を守ってください、勇者様」



その言葉を聞いて立ち上がるユータ。


「う~ん、そうだな、お前の言う通りだ。すぐ行く。俺に任せろ!」


そう言って勢いよく店を出るユータ。そして勢いよく店外で転んだ。


「いてててて、俺、酔ってるんか? あはははっ」


少女は少しだけ心配になった。





カンカンカン!!


最強勇者ソレナリと魔王軍副将ミギーテの戦いは白熱した打ち合いとなっていた。ソレナリが繰り出す鋭い剣、それをそれ以上の剣で受けながら反撃するミギーテ。互角の戦いに両軍から応援の声が上がる。


しかし一瞬の隙を突いたミギーテの鋭い一撃がソレナリの腹部に命中。



「ぐあああああ!!!!!」


後ろに吹き飛びのたうち回るソレナリ。腹部から激しく出血している。ミギーテがソレナリの元に行き言う。



「ああ、この鬱陶しい雑魚、早く死んでよ。本当に服も体もお顔も汚れちゃったし、もう今日はサイアクうううう。あなたの返り血でベトベトよ」


そう言って倒れるソレナリに爆裂弾を放つ。


ドーーン


「ぐはあああっ!!!」




「ケ、ケルファ……、大丈夫……?」


一方、妹ミルファは大怪我を負った姉のケルファの為に急ぎ回復魔法をかけた。姉のケルファが言う。


「要らぬ、弱者お前の助けなど、要らぬわああ!!!」


そう言って妹ミルファを殴る。そして力を振り絞って立ち上がると、ケルファは勇者ソレナリの傍に立つミギーテを睨みつけ奇声を上げながら殴り掛かった。


「ぐぎゃあああああ!!!!」


「煩いわよ」



ボン!!


襲い掛かってきたケルファにミギーテは至近距離から爆裂弾を放った。全身に爆裂を受け後方まで吹き飛ばされるケルファ。そのまま倒れ全身が焦げて動けなくなる。ミルファが叫ぶ。


「ケ、ケルファ!!!!!!」


ミルファは涙を流して姉の元へ駆け寄る。



「勇者様を、勇者様をお守りしろ!!!!」


一方的にやられる勇者達の後ろに集まった国軍の兵士達。隊列を組み剣や盾を構えて突入して行くが、ミギーテの遥か後ろに立つ魔王コリャ=ツエーが不気味な笑みを浮かべて彼らに衝撃波を放った。



ドーーーーン!!!


「ぐわあああああ!!!!」


まるでボーリングのピンのように簡単にバタバタと倒れていく兵士達。魔王の前に立ちはだかった兵士はその大半をその一撃で失った。動揺する国王軍。その不気味な魔王を前に恐怖が一気に広がる。


体の埃を払ったミギーテがソレナリのところへ行く。



「さ~て、一番厄介なあんたを先に殺してあげるわよ」


そう言ってソレナリに向けて剣を上げる。


「ひ、ひいいい!!!」


ソレナリは急いで立ち上がるとミルファとケルファの後ろに隠れた。驚くミルファが言う。



「な、何をなさいます!? ソ、ソレナリ様!!!」


ソレナリが血相を変えて怒鳴る。


「う、うるさい!!! 俺は大切な勇者。ここで死ぬ訳にはいかないんだ!! お前ら俺のことが好きなんだろ? だったら名誉ある死を選べ、さあ選べ!!」


そう言ってミルファを前に押し出すソレナリ。首を振って「やめて!」と泣きながら嫌がるミルファ。



バン!!!


「ひいいいっ!!!」


負傷していた姉のケルファが立ち上がってソレナリの顔面を思いきり殴った。そして涙しながら叫ぶ。



「お前は、お前は勇者なんかじゃない!!!!」


「ひぃ、ひいいい!!!!!」


殴られた勢いで倒れ込むソレナリ。そして恐怖のあまりに声を出して泣き出した。




「ね、姉さん、ありがとう……」


フラフラの姉を支えながらミルファが言う。それを振り払って叫ぶケルファ。


「何で、何でこんな弱いやつ助けたんだよ、私。わあああああ!!!!!」


ケルファは頭を抱えながら自身を責めるように泣き出した。



「茶番はもいいのかい。いい加減鬱陶しいよ、あんた達。汚いし、うざいし、生きる価値なし。私達に逆らった時点でもう決まってんのよ、どっちが負けるかってこと。じゃあね、さよなら」


振り上げられるミギーテの剣。ケルファは最早死を覚悟した。万策尽き、勇者達も全て倒れた。勝てない戦だったのだ、最初から。

ミルファが体を震わせて涙を流す姉のケルファを抱きしめる。そして叫んだ。




「助けて、助けて、勇者様ああああああああ!!!!」



ドーーーーーーン!!!!!!


「ぐ、はっ……」


突如ミギーテに起こった爆発。

それは何度も見た異世界の技ソードボンバー。しかしその爆炎はこれまで見てきたゴバックのものとは比較にならないほど強力であった。

黒煙にまみれるミギーテ。そして真っ黒になったままドンと音を立ててその場に倒れた。


「えっ、えっ、何が起こって……」


状況が理解できないミルファ。そしてその現れた少年の声が響く。



「どっちが負けるかって決まっていたって? まあ、確かにそうだよな」


そしてその少年はミルファとケルファの元にやって来て手を差し出した。




「助けに来たぜ、勇者だ」



「ユータ、さん……」


その姿を見た二人の姉妹の体に電流のようなものが走った。それはこの最悪の状況でも不思議と笑顔こぼれる心地良い電流であった。

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