4.魔王城攻防戦

「勇者だ! 勇者の襲来だああああ!!!!」


魔王城に残った守備の魔物達が、突如現れたユータに気付き叫び声をあげた。



「ふん、ふん!!!」


ユータは波のように押し寄せる魔物達を木の剣でバッタバッタと弾き飛ばしていく。


「やっぱり斬れねえよな、この剣」


どれだけの数に囲まれても顔色一つ変えずに進むユータに、魔物達は底知れぬ恐怖を抱く。

そして城内の大広間にやって来たユータ。そこには騒ぎを知った駆けつけた副将ヒダリーテが待ち構えていた。



「き、貴様は何者だ?」


ヒダリーテが聞く。ユータが答える。


「俺か? 勇者ユータだ」


(……勇者ユータ?)


ヒダリーテは軍事会議で出ていたその名前を思い出し、笑って言った。



「貴様か、能無しの異世界勇者とは?」


ユータは無表情で答える。


「異世界勇者じゃねえぞ、派遣勇者だ」


ヒダリーテはユータを注意深く見つめ、そして思った。


(何か強力な異世界武器を持ってここまで来たのだろう。ただ今それも使い果たし、持っているのは木の剣のみ。ふっ、自身の力量を知らぬ愚か者め)



「来い、お前達!!」


ヒダリーテがそう叫ぶと屈強そうな魔物が数体奥の間から現れた。ヒダリーテが言う。


「こいつらは俺様の忠実な部下で……」


「もういい」


ユータが言う。


「はっ?」


ヒダリーテが怪訝そうな顔をする。ユータが続ける。



「そんな名前もないような奴ら、一瞬で消えるから」


瞬間湯沸かし器のように一瞬で顔が赤くなるヒダリーテ。しかし次の瞬間、自分の周りにが舞った。



「えっ?」


バタ、バタ、バタ……


今現れたばかりの精鋭達が次々と声も上げずに倒れていく。ユータが言う。


「だから言ったろ。すぐ消えるって」


そう言ったユータから強烈な邪気が放たれていることに気付いたヒダリーテ。一瞬恐怖が体を襲うが、すぐに部下に向かって叫ぶ。




「あ、あいつらを、あいつらを連れてこい!!!」


そう言うと部下達はすぐに別の部屋に行き、ある物を持って再び現れた。


「あれは?」


それは何台もの台車に木の柱が付いたもので、その柱に沢山の勇者が縛り付けられている。ヒダリーテが笑って言う。



「ぎゃははあっ、こいつらはここにやって来た勇者どもだ。すべて討ち取られこのざま。動くなよ、お前。動いたらあいつらを殺すぞ!!」


ユータがその縛られた人達を見ると、柱にしっかりと固定され皆気を失っているようだ。ユータはその中に片目の勇者を見つけた。ヒダリーテに言う。


「とことんお前は悪役だな、逆に笑えるぞ」


そう言って手にした木の剣を握り直す。


「き、貴様、動くなと言ったはず……!?」



気が付くと捕えた勇者達を運んでいた部下達が次々と倒れていく。そしてそのすぐ傍にはいつの間にかユータが移動しており、縛られている縄を手で引きちぎっていく。


「き、き、貴様、いつの間に!? な、何をしている?」


驚きと共にヒダリーテが言う。ユータが答える。



「何って、助けてるんじゃん。見て分からんのか?」


「な、何を……」


ユータは一人ひとり縄を切っては薬草を飲ませ行く。やがて気を失っていた勇者達が目を覚まし周りを確認し始める。



「こ、ここは!?」


その中の熱血感あふれる勇者がユータに気付いて言う。


「き、君は子供? 危ないから下がっていて!!」


ユータが答える。


「俺なら大丈夫だぞ。勇者だ」


「さあ、ボクおいで」



ユータが振り向くと、先程縄を切ってた助けたビキニの女魔導士がユータを抱きしめて言う。


「勇者に憧れているのね、分かるわ。でも危ないから、お姉さんと一緒に行こ」


そう言ってユータを抱きしめて奥に連れて行く女魔導士。



(む、胸が……、でも何で魔王城に挑むのにビキニなんだ……、これはこれで幸せでいいが……)


ユータは無抵抗のままに連れられて行く。目を覚ました勇者達がヒダリーテに向かって言う。



「この間は不覚を取ったが、次こそは負けん!!」


監禁勇者達は一斉にヒダリーテに挑むが、予想通り次々と討ち取られていく。斬りかかってははじき返され、魔法を撃っては反射される。そして一人を残して皆その場に倒れた。



「に、逃げろ、みんな! 俺が、俺が食い止める!!!」


そこに立つのは片目の勇者であった。全身負傷を負いながらも、ひとりヒダリーテの前に立ち仲間を守ろうとしている。



「やはり、やはり、ダメなのかしら……」


ユータを抱いていた女魔導士が震えて恐れ始める。ユータはすっとその手から離れると立ち上がって片目の勇者を見つめた。


「あ、ボク、危ないよ!」


ユータはじっと片目の勇者の戦いを見る。



ガン!!!


勇敢に一人立ちはだかっていた片目の勇者が、ヒダリーテの攻撃を受け後退する。


「退かぬ、退かぬぞ……」


ヒダリーテが笑いながら言う。



「弱い雑魚め!!! 死ぬがいい!!!!」


そう言ってヒダリーテの持った剣が片目の勇者に振り上げられる。


(くっ、これまでか……)




ガン!!


――えっ?


片目の勇者が目を開けると、ヒョイと宙に浮いてヒダリーテの剣を受ける一人の少年が映った。



「お、お前は!?」


少年は片目の勇者の前に立つと言った。


「全く無茶すんなよ」


それは先程自分達の縄を解いてくれた少年であった。その動きを見てようやくユータがただ者ではないと気付いた。片目の勇者が言う。



「すまない、体が、体が勝手に動いてしまうんだ」


ユータがにっこり笑って言う。


「勇者だもんな! それが平和を愛する者の証」


「私も一緒に戦う」



ユータが背を向けて言う。


「大丈夫、あんなの俺一人で十分」


「しかし……」


「……下がってろ」



「!!」


片目の勇者はユータが放ったその一言に、恐怖と言うか畏怖を感じた。自分が踏み入れる領域ではないと。片目の勇者は言われた通り後方へ下がる。




再びヒダリーテの前に立つユータ。そして言う。



「おい、ここは魔王城だろ? コリャ=ツエーはいないのか?」


ヒダリーテは笑いながら言う。


「お前、何か勘違いしてねえか! ここから生きて帰れると思ってるのか?」


「お前が、か?」



それまで見下して笑っていたヒダリーテの顔が硬直する。ユータが続ける。


「お前とことん雑魚キャラだな。相手の力量も分からないなんて」


「な、何を!!!」


「教えてやるよ、その意味!!」



ユータが剣を構えて叫ぶ。


「48剣技がひとつ・38の勇技ゆうぎ】ソードボンバー!!!!!」



ドーーーン!!!


「ぐあああああ!!!!!」


ユータの剣爆を真正面から受けたヒダリーテは真っ黒に焦げ、そして煙を吐いてその場に倒れた。ピクリとも動かないヒダリーテ。そして副将がやられたと分かり魔物達が騒ぎ始める。



「おい! お前ら!!!」


ユータは慌てふためく魔物達に言う。


「は、はい!!」


ユータの気迫に体が動けなく魔物達。反射的に返事をする。


「ここに『王者の剣』ってのがあるだろ、三秒以内に持って来い」


「は、はいいいいい!!!!!!」



ぶつかり転がりながら言われた剣を持ってくる魔物達。ユータはそれを受け取ると半身を起こして唖然としている片目の勇者の元に行き尋ねる。


「あんた、名前は?」


「マ、マサルだ……」


ユータは頷くと王者の剣を渡して言う。



「俺はこの後行くところがあるんで、これを王様に渡しておいてくれ。頼んだぞ」


「あ、あの……、あなたは一体……」


ユータは無言で立つと出口に向かう。ビキニの女魔導士が言う。



「ど、どこへ行くの?」


ユータが振り返って言う。



「ちょっと飲み直してくる。あ、そうそう、俺がここに来たこと秘密な。今、謹慎中なんで!!」


ユータはそう言ってひとり去って行った。

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