3.魔王始動
魔物群を撃退した翌日、勇者達一同は王城で昼食会に参加していた。当然ながら話題は昨日の戦いの話となる。
「それにしてもソレナリ様の強さには驚きました」
美人姉妹の妹ミルファが羨望の眼差しでソレナリを見つめて言った。姉ケルファも言う。
「ソレナリ殿! 俺と、俺と子作りをしてくれ!! すべてを捧げる!!」
ソレナリの両隣に座った二人の姉妹はお互い、そのはち切れそうな胸をこすりつけて言った。ソレナリが二人の肩を抱き寄せて笑って言う。
「あはははっ、私の強さに痺れたかい? 特定の女性と付き合うことはしないが、良かったら今夜二人して私の部屋に来なさい。可愛がってあげよう!!」
「ミルファ、お前は黙ってろ!」
「例え姉さんの言うことでもこれだけは譲れません!!」
喧嘩する姉妹を抱えて、ソレナリは鼻の下を伸ばし下品な笑いを続ける。強さがすべてのこの国では当たり前の光景。ただそれを見ていたゴバックがあからさまに不満そうな顔をして言う。
「あ~あ、詰まんねえな。俺も活躍で来てたらハーレムだったのにな」
ユータが言う。
「いいんじゃねえか、別に。誰が倒しても平和になればそれでよ」
ほぼ活躍できなかった派遣勇者組は今回の会食でも話題には一度も上がらなかった。周囲からはほぼ空気のような扱いを受け、活躍したソレナリの引き立て役となっていた。
そんな事よりもユータは、会食のくせに酒がないことの方が不満であった。
「わりぃ、ちょっと出掛けてくるわ」
「お、おい、ユータ!!」
ユータはそう言うと一人街中へ向かった。
「お前のおやじ、ヨワヨワ勇者だな!!」
「怖くて逃げ出したんだろ!?」
ユータが街中を歩いていると、子供達がひとりの少年をからかう声が聞こえた。
「ち、違うぞ、父ちゃんは、父ちゃんは!!!」
ユータがそちらへ向かうと、同年代の子供達に囲まれているイツキの姿があった。
「父ちゃんは、凄い勇者なんだ!!!」
イツキは目に涙をためて大声で言った。ユータがイツキに声を掛ける。
「どうした、イツキ」
「あ、お兄ちゃん!」
周りにいた子供達はユータの姿を見ると、そそくさとその場から去って行った。イツキがユータに言う。
「父ちゃんは、父ちゃんは勇者なんだ。誰にも負けない、勇者なんだ……」
再び目に涙をためて言うイツキ。ユータはイツキの頭を撫でて言う。
「分かってる。もうちょっと時間をくれ。頑張ってるお前のオヤジを見つけてくる」
「うん、ありがとう。お兄ちゃん」
ユータはもう一度イツキの頭を撫でると再び歩き出した。
「いらっしゃ~い、お兄さん!!」
バーの前を歩くユータに、店の女の子が声を掛ける。露出の多い下着のような服を着た美女がたくさん店の前に立ちユータを誘う。ユータはフラフラとそちらに足を向け、当たり前のように店に入って行った。
「乾杯~!!」
ユータはたくさんの酒と美女に囲まれて楽しく時間を過ごした。
「よきよき!!」
出される大量の食事、酒。気立てのいい色っぽい女の子達。たまにはハーゲンさんと一緒に飲みたいな、などとユータは思っていた。
「やだあ、ユータさんのえっち!!」
「がははははっ!!」
数時間、酒を楽しむユータ。ユータが女の子に聞く。
「なあ、ひとつ聞いていいか?」
「なあに?」
女の子はユータに火照った顔を近づけて言う。
「何で、俺の名前知ってんだ? 俺、一度も言ってねえぞ、自分の名前」
一瞬驚きの表情を見せる女の子。そして直ぐにその火照った顔が青くなっていく。ユータが言う。
「じゃあ、もうちょっと、いろいろ教えて貰おうかな」
そう言ってユータは周りを凍り付かせる様な覇気を体から発した。
一方その頃、魔王コリャ=ツエーの居城では、ツエツエ城攻略の為の軍団が編成されていた。先の斥候部隊による戦いで注意すべきはやはり勇者ソレナリだと分かり、それを考慮した上で王城制圧の為に最強の軍の編成が出来上がっていた。
大将に魔王コリャ=ツエー。そしてそれを支える副将ミギーテ。そして城の守備には同じく副将のヒダリーテを残していく。出陣の準備が終わった魔王コリャ=ツエーが言う。
「ではヒダリーテ。守備は頼むぞ」
「はっ、コリャ=ツエー様」
魔王コリャ=ツエーはそう言うと、自身で出陣の合図を出し士気を高めた。それに応じ叫ぶ魔物達。その数はツエツエ城の兵力の数十倍にもなるほどであった。
魔王出陣後、守備に残ったヒダリーテが魔王城に捕らえた勇者達を見て笑う。
「これだけの戦力差。それでも慎重に慎重を重ね、確実な勝利を掴む。コリャ=ツエー様に負けの文字はない。それにしてもこの国の勇者達、雑魚ばかりだな。ぎゃははははっ!!!」
魔王城にヒダリーテの笑い声が響いた。
「よし、ここだな」
魔王コリャ=ツエー率いる王城攻略部隊が城を出てしばらく経った後、ユータはバーの女の子達から聞き出した魔王城の前に立っていた。
「さて、行くか」
ユータは木の剣を腰に付け、ゆっくりと魔王城に向かって歩き出した。
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