5.未来への約束
勇者の剣技で無事国王の正気を取り戻させたユータ。涙して喜ぶゴブニン。ユータも少しだけ安心してその二人を見つめる。
それを待っていたかのように白く光り出す空間。その中からひとりの少女が現れた。
「ちょっとーーー!! ユータ!!」
「おお、レナ!」
「おお、じゃないでしょ! 勝手に呼び出しておいて、私も疲れてるんだよ!!」
急に現れた少女に周りにいた人達が驚く。ユータがレナに言う。
「悪い悪い! お前回復魔法、使えるだろ? ちょっとあのチビにかけてくれ」
「何勝手なこと言ってるのよ!」
「いいじゃねえか、今度【勇者アイス】奢ってやるからよ!」
「アイスぐらいで、まったく……。とは言え、あの子ちょっとまずいわね。分かったわ」
レナはチビ太の傍まで近寄ると、傷口に手を当てて魔法を唱えた。
「スーパー・ウルトラ・レナちゃんスペシャル、ハイヒール!!!」
レナが魔法を唱えるとドクドクと流れていた血は止まった。
「……おい、レナ。えらく長い名前なんだが最後だけで良くねえか? そのチビ、死にそうなんだぞ」
レナはユータの隣に来て剣を振り上げた。
ガン!
「痛ってーーー!!」
レナはユータの頭を剣の柄で思い切り殴った。
「うるさい! ヒールも使えない【へたれ勇者】が!!」
ユータが言い返す。
「何だと! お前だって【ちびっこ勇者】だろ!!」
「やるのかーー!!」
「何をーー!!!」
「勇者ユータよーーーー!!!」
王の間の入り口から聞いたことのある低い声が響く。ドタドタと音を立てて走って来たのは巨大ゴブリンであった。
「おお、ゴブリン王!」
ゴブリン王は涙を流しながらユータの前に来ると、頭を床に付けて大声で泣き始めた。
「感謝する! 感謝する! ユータ殿!! 子供達が帰って来た!!」
ゴブリン王の後ろから昨夜ユータが助けた子供達が付いてきた。
「おお、会えたか。それは良かった」
「何と、何とお礼申し上げればよいか! この御恩、生涯忘れはせぬ!!」
「熱い奴だなあ……。いいよ、あいつらの笑顔が俺の褒美だ」
「ユータ殿おおお……」
ゴブリン王は子供達の肩を抱き寄せ、再び大声で泣いた。
「ユータ、ありがとう。……そして……すまない」
ゴブニンがユータの隣に来て頭を下げて言った。
「お前が謝ることはない」
ユータがそう言うと、隣にいて正気に戻った元国王も同じく頭を下げて謝罪した。
「すべて私の責任でございます。勇者様、私に厳しき処罰を……、何卒お与えください」
ユータは元国王に言う。
「いや、だからお前の処罰はこの新国王に任せる。頼んだぜ、ゴブリン!」
そう言うとユータはゴブニンの肩を叩いた。
「分かったよ、ユータ。あと僕はゴブニンだ」
「何だかんだ、あんたも頑張ってるね」
回復を終えたレナがユータの耳元で囁く。
「ああ、まあな」
「じゃ、あたしは先帰るね。勇者アイス、忘れんなよ!」
そう言うとレナは光の中へ消えて行った。
ユータはふうと息を吐くと、集まっている皆に向けて言った。
「皆の者よ! 御覧の通りこれより新たにゴブリン第一王子が即位する。以後、新しき王に更なる忠誠を誓うが良い!」
パチパチパチーー!
拍手が沸き起こる。
「そしてこれまでの元国王の愚行、それはこの勇者ユータに免じて許して欲しい。かの者は反省し、罰を受け、そしてこれからは新国王を支えていく新たな仕事に精進していくだろう!!」
「ははっーー!!」
「幸いここに二人の王がいる。人間の王! そしてゴブリン王!」
「はい!」
「おうっ!」
ゴブニンとゴブリン王は大きな返事をしてユータの前まで来ると、片膝をついた。
「勇者ユータの名において命ずる! まずは行方不明のゴブリンの子供達を全力で取り戻せ! そして今後はお互い協力し、平和に仲良く暮らしてゆけ! 皆の幸せ、皆の笑顔はお前達の双肩にかかっておる。よいな!!」
「はっ、仰せのままに!!」
ゴブニンとゴブリン王は頭を下げてユータに従った。
「ユータ殿に頼まれては断ることなどできん。これからは宜しく頼む、人間の王よ」
ゴブリン王はそう言うとゴブニンに手を差し出した。ゴブニンもその手を握り返す。
「よしよし。これですべて上手く行ったな。まさに万事休す。俺も嬉しいぞ!」
場が一瞬、妙な空気に包まれたが誰もそれを言い出すことはできなかった。
最後にユータは怪我をしたチビ太の元へ行き膝をついて言った。
「痛むか、チビ太。お前に怪我をさせたのは俺のミスだ。許してくれ」
チビ太は首を横に振るとユータに言った。
「大丈夫だよ、ユータ。それより僕も【勇者アイス】食べたい」
ユータはチビ太の頭を撫でながら言った。
「よし、じゃあ怪我が治ったら
「うん! わかったよ、勇者様!!」
ユータは最後に「マケータ」と言うと光の中に消えて行った。
ユータが帰った後、元国王がゴブニンに言う。
「思い出したぞ。昔、我々人間はゴブリン族と大変仲良くやっておった。お前に付けたそのゴブニンと言う名、それはこれからもずっとゴブリン達と仲良くやって行く為に私が付けた名前だった。私は酷い過ちを犯した。だが、ゴブニン。お前なら新しき時代を築けるはず……」
元国王が涙を流す。
ゴブニンも父の肩を抱き、熱くなる目頭を押さえて何度も頷く。
そして少し上を見て言った。
「ありがとう、素敵な勇者よ」
久しぶりに帰って来たユータは、早速勇者派遣本部に向かった。
「マケータ、リリア!」
「えっ? 負けーたの?」
受付で仕事をしていたリリアはユータの挨拶に驚いて聞き直した。
「あ、いや、負けてはおらんぞ。間違えた。久しぶりだ、リリア。相変わらずはち切れそうだな」
ガンと一発ユータを殴ってからリリアが言う。
「おかえり、ユータ君。また無事に帰ってきて嬉しいわよ」
ユータは早速、依頼指示書をリリアに手渡した。笑顔だったリリアの顔が豹変する。
「……ねえ、何でこんなにボロボロなの?」
明らかに怒っている。ユータが答える。
「いや、その、何と言うか勢いで破っちゃったんだけど。でもほら、ちゃんと後で集めてテープでくっつけたぞ。それで大丈夫だ」
「勢いで破っただと~!?」
リリアの声が怒声に近くなる。
「で、でもちゃんとサイン貰って来たぞ。それでいいんだろ?」
ユータは逃げ腰で答える。
「何そのボロボロの指示書! あんた何やってるのよ!」
いつの間にかレナも隣にやって来てユータの指示書を覗く。
「あ、レナ。助けてくれ。俺頑張ったよな?」
「知~らない」
レナはからかう様に言った。
「まあ、いいわ。それより……」
リリアの顔が無表情になる。
「あんた、また次の依頼も報酬、なしね」
ユータが驚いて言う。
「な、何でだよ!! 今回で終わったんじゃないのか、無給の仕事は……」
リリアが帳簿を見ながら言う。
「あんた、王城の地下室、ぶっ壊したそうね……」
「あっ……」
「その請求がまた
「そ、そんなあ~、くそっ、ゴブニンめ!!」
「だから残念だけど次も無給、分かったかーーーー!!!!」
リリアの怒声がフロア中に響く。
「わ、分かったよ……。あ、そうだ。良かったら、これ食べて機嫌直してくれ」
そう言うとユータは袋からプリンを取り出し、リリアとレナに手渡した。
「何これ?」
「ブリン王国名産の特別プリンだ。美味いぞ!!」
リリアはプリンを見ると、帳簿を思いきり振り上げた。
バーー―ン!!
「痛ってーーーーー!!! 何するんだよーーーー!!!!」
「何じゃないわよ! なんでプリンが青いのよーーーーー!!!!」
「そんなこと言ったって……。ひえ~、ごめんなさーーーい!!!!」
ユータは帳簿で殴られながら思った。
やはり青いプリンはお気に召さなかったのか、と……
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