第三章「メーン王国」

1.メーン王国

「ユータ君ーーっ!!」


ユータが勇者派遣本部の近くを歩いていると、受付から名前を呼ぶ声がした。


「なんだリリアか。何の用だ?」


ユータがダルそうに言う。


「何だ、はないでしょう? こんな美人に呼ばれて。婿候補から外しちゃうぞ~」


バキ!

どこかで何かが折れる音がした。



「……で何だ? また依頼か?」


「ご名答~。はいこれ」


そう言うとリリアはユータに依頼指示書を渡した。


「はあ~、なんか依頼をこなす度に借金が増えて行くんだが……、みんなそうなのか?」


リリアが頬をつきながら言う。


「あんだが行く先々で無銭飲食とか物壊してくるからでしょ。普通はみんな報酬貰っているわよ」


「ちぇっ」


ユータが不満そうな顔をする。リリアが言う。



「そうそう、忘れてた。ユータ君昇級したよ」


「えっ? 本当か? 上級勇者か?」


「そんな訳ないでしょ。クラスはね【へなちょこ勇者】だよ」


「おい!」


ユータが非常に残念そうな顔をして言う。


「これまでが【ちびっこ勇者】だろ? で次が【へなちょこ勇者】ってなんなんだよ!」


「仕方ないでしょ、そう言う階級なんだから。それより、はいこれ」



リリアは依頼指示書をユータに差し出した。

ユータが面倒そうに紙を受け取る。


依頼主:メーン王国の王様

依頼内容:魔王の討伐

場所:メーン国王

報酬:それなり



「……なあ、この【魔王達】ってどういう意味だ? 複数いるのか、魔王?」


「ん~、どうだろう、分からないなあ。多分そうじゃない」


「……じゃあ、あとこの報酬の【それなり】ってどのくらいだ?」


「どうだろうね、分からない」


「おい、お前ここの職員だろ? 知らない事ばかりじゃないか」


「だって私新人だもん」


「は? 新人?」


「そうだよ。新入社員」


「いつ入ったんだ?」


「2週間前」


「お前……、これまで偉そうにしやがって……」


それまで笑顔だったリリアの顔が一変する。



「はあ? 何だとお前、消されてえのか?」


ユータの背筋がピンと伸びる。


「いえ、滅相もございません! へなちょこ勇者ユータ。これより依頼に行って参ります!」


ユータはそう言うと異世界のドアへ逃げるように走って行った。





ユータが目を開けるとそこは赤い絨毯が敷かれたどこかの王宮の間であった。

両側に立ち並ぶ兵士達、そして絨毯の先には玉座があり国王らしき人物が座っている。そしてその前には三名ほどの人がいる。

ユータはゆっくり国王の元へ歩いて行った。


「ん? そなたは誰じゃ?」


国王らしき人物がユータを見て言った。


「俺は勇者ユータだ。魔王討伐の依頼を受けてやってきた」


するとユータの姿を見て国王の前に立っていた三名のひとりの女の子が言った。



「あっ! ユータ君!!」


ユータは名前を呼ばれてその少女を見た。


「ユータ君もここに呼ばれて来たの? 嬉しいなあ!!」


ユータは少女の顔を難しい顔をして見つめる。


「あれ? もしかして私のこと覚えてないの? 私は……、遊びだったの?」


少女が泣きそうになって言う。


「おい、ちょっと待て! 俺はお前となんて遊んでないし、と言うか悪いがお前、誰だ?」


「……ひどい」


「ふぉふぉふぉ、勇者様はおなご泣かせのよう。ワシも若き日はのお……」


「おい、ジイさんの昔話など聞きたくない。で、お前が国王だな。依頼を受けてきた。内容を教えてくれ」


ユータがそう言うと三人のうちのひとり、長髪の男がユータに言った。



「おい、お前! こちらは国王だぞ。どこの勇者だか知らんが失礼にもほどがある」


ユータは男の方を見る。その隣にはなかなかの美人の女性が一緒にいる。


「そうか、態度は確かに悪かった。国王よ、非は詫びよう」


ユータは国王に頭を下げた。国王が言う


「よいよい。若者はそれぐらい血気盛んじゃないといかんわ。ワシが若い時なんぞ……」


「おい! ジジイの昔話はいいって言っただろ!」


ユータが国王に突っ込みを入れると、長髪の男の傍にいた美人はくすっと笑った。


「おお、そうじゃったな。では依頼内容だ。が、その前に全員揃ったところで自己紹介をしてくれんかの」


「自己紹介?」


ユータが言う。


「ああそうじゃ。皆初めて、なんじゃろ?」


「分かった。俺は勇者ユータ。異世界から依頼されてやってきた派遣勇者だ。誰よりも礼儀正しく、そして強い男だ。俺が来たからにはもう安心だ。みんなに乗ったつもりでいてくれ」


皆がユータの顔を見つめる。国王だけがふぉふぉふぉと笑っている。長髪の男が言う。


「俺はこの国の勇者。名はサルバニール・フィルメルト・レ・カルヴェルト・サンニクルララファルト・マタマケータ・キョーモ・メルフィス17世、

略して【イケメン】だ」


「おい」


ユータが言う。


「全然略になってないぞ」


イケメンはユータを見下すように言う。


「可哀そうな駄面ダメンには分からんだろうな」


「何だと!!」


ユータが大声で言うと、イケメンの隣にいた美女がユータに謝罪する。


「ユータさん、申し訳ございません。イケ君も悪気はないのですが……」


「おい、ティアナ。余計なことは言うな。お前は黙って従っていればいい」


ティアナはイケメンに言われるとすっと彼の後ろに下がった。

もうひとりの少女が言う。



「私はメル。異世界から来た派遣勇者でーす。そこのユータ君とはクラスメイトでした」


「は?」


ユータはまじまじとメルの顔を見る。


「お前なんて……いたっけ?」


メルが答える。


「ひ、酷い。やっぱり私はおもちゃだったの?」


ユータが声を荒げて言う。


「だから、お前なんて知らないって! 本当に同じクラスにいたのか?」


メルは舌を軽く出すとユータに言った。


「へへっ、正確に言うと私は【魔法科】。ユータ君とは合同実習で時々会ったくらいかな」


「そ、そうか。通りで……」


「ふぉふぉふぉ。若いもんはいいのお、お盛んで。ワシも若い頃は……」


「ジイ……、国王よ。早く依頼を教えてくれ。頭が痛くなってくる」



国王はちょっと真面目な顔をして話始めた。


「いつぞやかこの国に魔王が現れるようになってな。しかも三体も。我々人間は怯えながら暮らしておった。そこでそこにおる我が国の勇敢な戦士、勇者と呼ぶべきかな、そこのサッ、サッ、サ……」


国王は口をパクパクしている。


「サルバニール・フィルメルト・レ・カルヴェルト・サンニクルララファルト・マタマケータ・キョーモ・メルフィス17世、通称イケメンです」


イケメンが言う。


「ん? そう、えっー、……サル、サル、ゴホッゴホッ……に魔王討伐を依頼したのじゃ」


サル? ユータは笑いをこらえる。国王が続ける。


「彼は見事三体の魔王を退け、柄の間じゃがわが国にも平和が訪れた。しかし!」


国王の顔が更に厳しくなる。


「魔王達が再び我が国を襲い始めたのじゃ。しかも先の戦いより激しく。そこで勇者の他にも、派遣の勇者を呼んだ訳じゃ」



イケメンはこめかみをぴくぴくさせながら言う。


「先の戦いでは私のミスで魔王どもを【撃退する】のみで終わってしまった。今回はしっかりととどめを刺したいと思います。そして残念ではありますが、このような不節操な者どもに活躍の場はないでしょう」


イケメンはユータ達を一瞥して言うと軽く王に頭を下げた。

腕組みして聞いていたユータが言う。


「ふ〜ん、まあいい。で、国王。魔王軍はどこにいるんだ? 魔王城にいるのか? それとも攻撃に来ているのか?」


国王が答える。


「それは分からん。魔王城にいるかもしれんし、進撃中かもしれん。何か分かったらすぐ伝えるが、こちらに向かっているという噂も耳にしておる。十分気を付けて行かれよ」


そこまで言うと一旦ここで解散となった。

ユータは案内された客室で少し休憩すると、早速城郊外へ行ってみた。





一方その頃――


「魔王様。間もなく王城でございます!」


「おのれ、人間め! 許さん、許さんぞ!!」


怒り狂う魔王軍は不穏な空気が漂う王城へ向けてまさに進行中であった。

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