2.対決!魔王軍
外は快晴のいい天気であった。
青い空に緑が美しい草原。空気が美味しい。ユータは気持ちが良い草原を先に進んだ。
しばらくすると前から魔物の群れがやって来るのが見えた。
数にして百体ほど。殺気に溢れているのが離れていても分かる。その中にひと際大きな魔物がいるのが見えた。対峙したユータが言う。
「おい、お前らが魔王軍か?」
ひと際大きな魔物が一歩前に出て言う。
「そうだ、私が魔王エー様だ。小さき人間よ。これから王城を攻める。邪魔だ、死にたくなければ退くがいい」
魔王エーは低い声でユータに言い放った。
「俺は国王に依頼されてやって来た異世界の勇者だ。ひとつ聞く、どうしてお前は……」
ユータが話しかけると魔王エーは急に顔色を変えて怒鳴った。
「何っ! 国王に依頼された勇者だと!! あの男……、許せせん、許しはせんぞ!!」
ユータが言う。
「おい、ちょっと待て。どうしたんだ、急に」
「うるさい! お前も退かぬなら許さんぞ! それ、やれ皆の者!!」
魔王エーはそう言うと配下の魔物達にユータを襲うよう命じた。
ユータが剣を抜く。
「やれやれ、仕方ないな」
ユータは剣を構えながら魔物の群れに向って行った。
「はっ! はっ! はっーーーー!!」
勇者の剣を振り回しながら魔物を殴り倒していく。ユータが剣で斬りこむと大概の魔物は失神するか、もしくは吹き飛んでいった。
「はあ、はあ、はあ……」
ただ、何かおかしい。
足がやけに重いし、剣を振るスピードもいつもより遅い。それに感覚が違う。ユータは自分の手と剣をまじまじと見たが、特に不審な点はなかった。
半数以上の魔物がいなくなったところで魔王エーがユータに言った。
「ようやく気付いたか、小さき者よ。体が重いはず。それもそのはず、この世界に来た異世界人はその強さに比例してある程度まで弱くなるのだ。だからお前が強ければ強いほど、ここでは弱くなる。体が重く感じるのもそのせいだ!!」
魔王エーはがはははと笑いだす。ユータは余裕の表情をして言う。
「そうか。じゃあ来いよ、魔王A。その名前じゃ俺に勝てないことを身を持って教えてやる!!」
魔王エーは顔を赤くして言い返す。
「言うな、小さき愚か者よ! 今に後悔するぞ、その言葉!!」
ユータは剣を水平に構えて魔王エーに向かって走る。
「48剣技がひとつ・23の技【勇技】水平剣心斬!!!」
ユータは魔王エーの懐まで走り込むと、勇者の剣で水平に斬り込んだ。
ドーーーーーーーン!!
「ぐわっ!!!」
吹き飛ぶ魔王。ユータの剣の形に魔王のお腹が凹んでいる。やはり斬れなかったが、相当なダメージが入ったことは一目瞭然であった。
「痛っでえええーーーー!!!!」
魔王エーは倒れたまま、腹を押さえてのた打ち回る。ユータは魔王Aの傍に立つと剣を突き付けて言った。
「理解したか、魔王Aよ! お前では俺には勝てん」
魔王エーはお腹を押さえながら下からユータを睨んで言う。
「な、何故だ? 何故そんなに威力があるんだその剣は? そんな強そうな剣、ここでは弱くなるはず……」
ユータが答える。
「ああ、この剣か。これな、強そうに見えるけど実はただの木だ。木の剣」
「へ!?」
魔王エーは唖然としてユータを見つめる。
「弱いのよ、もともと。だからこっちじゃ強くなったんじゃね?」
「そ、そんな。木の剣を持った異世界の勇者など……、そんな……バカな……」
魔王エーは信じられない顔をして言った。ユータが更に言う。
「まあ、この剣使わなくっても勝てたがな。試しに受けてみるか、俺の
そう言ってユータが手で拳を作る。
ドーンと放たれるユータの恐るべき邪気。まるで古の最凶魔王のような全てを一瞬で抹殺しそうなその気迫に、辺境の魔王エーは心底恐怖した。魔王エーは直ぐに起き上がって座り直し、頭を下げて言った。
「め、滅相もございません、勇者様。あなた様のお強さ、この魔王エー十分に理解致しました」
周りの魔物達も魔王同様平伏す。ユータは剣を収めて言う。
「よし、じゃあちゃんと話はできるか?」
「はっ、勿論でございます」
ユータは服従した魔王エーを見てこれまでの経緯を尋ねた。
それはユータにとっても大変驚くべきことであった。魔王エーが言う。
「実は我々魔王族の者はずっと以前から人間達と共存していく方法を模索しておりました。我々魔族はいずれユータ様のようにめっぽう強い勇者が現れ滅ぼされる運命。だからそうならぬ様、どうしたら人間を襲わずに平和に暮らしてゆけるか、どうしたら皆が死なずに生きて行けるかを考えておりました」
ユータは腕組みをして黙って聞く。
「そして争いなく生きてゆくには人間達から食料を買えばよいとの結論になりました。しかしそれには【お金】と言うものが必要だと知りました」
「まあ、そうだな」
ユータが言うと、魔王エーは続けた。
「しかし我ら魔物にはお金を稼ぐ
「ある話?」
「はい、それは、我ら魔王軍が形だけでもいいので街や城を襲い、その勇者が撃退すると言うもの。魔王軍撃退には多額の報奨金が国から支払われるそうで、その勇者が言うにはそのお金を我ら魔王軍にも渡す、とのことでした」
ユータが聞く。
「で、王城や街を襲うふりをして、その勇者に退けられる役を演じたのだな?」
「はい、その通りです。ただ……」
「ただ?」
ユータは聞き返す。
「その勇者は報奨金を貰っても我々には金一枚も渡しませんでした。しばらくは山に入って飢えを凌ぎましたがとてもそれだけでは足りず、腹を空かす日々を耐えました。そしてやっと分かったのです、騙されたと……」
「うむ……」
「それからはご覧のとおりです。腹を空かした魔物の群れを率いてその勇者を討ちに向かっておりました」
「で、俺に遭遇したと」
「はい……」
魔王エーは力なく答えた。ユータが言う。
「世界は違えど俺は勇者だ。俺が求めるのは平和や幸せ、そして皆の笑顔。それはお前ら魔物だろうと同じこと。少し時間をくれ。一度王城に戻って調べてみる」
魔王エーは目に涙を浮かべて言う。
「ありがたき、勇者ユータ様。どうか、どうか我々をお救い下さい」
「うむ」
ユータは大きく頷いて答えた。
「ユータ様これをお受け取りください」
魔王エーはそう言うと懐から黄金に輝く宝玉を差し出した。
「これは?」
魔王エーが答える。
「それは魔王が絶対の服従と忠誠を誓った方にお渡しする黄金の宝玉でございます。魔力を有し、そして売ればそれなりの価値が出る魔王族の宝でございます」
「ほう、それは苦しゅうない。遠慮なしに頂くぞ」
ユータは宝玉を手にすると道具袋に入れた。
「はっ。我が主。絶対の忠誠を誓います。そして何卒我らをお導き下さい」
魔王エーは片足をついて大きく頭を下げた。
「よし、俺はこれから王城へ戻る。お前はどうする?」
「私は傷ついた部下の治療の為、一度王城へ戻ります」
「分かった。腹は減るかもしれんがそれまで人間を襲うな。足しになるかどうかわからんがこれをやろう」
ユータはそういうと道具袋の中から自分の弁当を取り出し魔王エーに渡した。
「私の弁当だ。ひとり分しかないが食べてくれ」
魔王エーは涙を流しながら受け取る。
「そのお優しき心、このエーしかと受け取りました。そのお気持ち忘れは致しません」
「大袈裟だぞ、弁当ぐらいで。じゃあまたな!」
「はっ! どうぞお気をつけて!」
ユータはひとり王城へ戻る途中つぶやく。
「あの
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