3.王城の秘密

ユータはブリン王国に戻ると城下町を抜け真っすぐ王城へ向かった。

城門に着くと門番が挨拶をして来た。



「マケータ、勇者様。お帰りなさいませ」


「マケータ、門番くん。ちょっと聞きたいんが第一王子はいるか?」


「はい、おります。部屋でお寛ぎではないかと……」


「ありがとう」


ユータは第一王子の部屋の場所を聞くとすぐに階段を駆け上った。




「マケータ、ユータ! 無事で戻ってきて何より……」


第一王子ゴブニンはユータの顔を見ると挨拶をした。しかし先に会った時より更に元気がなさそうそうだ。


「マケータ、ゴブリン。……凄い部屋だな」


ユータはゴブニンの部屋を見まわした。

美しい装飾が施された机や椅子、そしてベッドや鏡台。価値は分からんが高そうな絵画。

そして何より広い。いったい何人で暮らす部屋かと思うぐらいだ。庶民であるユータは部屋に入っただけで圧倒されそうである。


「で、ユータ。何か分かったのかい……?」


ゴブニンは弱々しい声でユータに聞いた。


「まだ分からん。ただゴブリン、ちょっと教えて欲しいことがある。ここ数年、城内で何か怪しい場所はないか?」


ゴブニンは少し考えてから思いついたように言った。


「……そう言えば、数年前から地下室一帯が立ち入り禁止になってたなあ。王族でも入れない。あと私はゴブニンだ」


「そうか、それは怪しい。よし今夜忍び込むぞ。ゴブリン、一緒に来い」


ゴブニンは驚いた顔で言う。


「え? いや、その怖いよ……、王族でも入れないし、見つかったら父に何をされるか……」


ユータはゴブニンをガッと睨み、剣に手をかけながら低い声で言う。


「怖い、だぁ? お前いずれこの国を継ぐ王だろ? お前が動かんでどうする? 嫌ならここでお前の首刎ねて、そのままゴブリン魔王にくれてやってもいいんだぞ!!」


ゴブニンの顔がどんどんと青白くなる。


「わ、わかったよ……、そんな怖いこと言わないでよ……」


もはや消え入るような声で答えた。

ユータは笑顔になるとゴブニンの肩を叩きながら言った。



「そうか、分かってくれたか。よしよし。じゃあ今夜ここに来るんでよろしくな」


ユータは笑いながら部屋を出て行った。


「だから僕はゴブニンだって……、ユータ……」


ゴブニンは不安でしかなかった。




「マケータ、ゴブリン」


「マケータ、ユータ……。僕はゴブニンだよ……」


深夜、ゴブニンの部屋にやって来たユータは早速地下へ行く準備を始めた。


「よし、じゃあ行くか」


「うん……」


地下へ降りる階段の前には兵士がひとりいた。ユータが後ろから木の剣で殴りつけると小さな悲鳴を上げて倒れた。


「だ、大丈夫? 起きない?」


「ああ、大丈夫だ。この剣全然斬れないが、よく相手を失神させる」


二人は気を失っている兵士を横目に地下へ降りる。

地下は松明も少なく薄暗く、そしてやや湿気がある。人の気配もなく、ユータ達の足音だけが小さく響いた。


「何があるんだろうな。確かに怪しい」


「分からない。僕も随分久しぶりだし……」


ゴブニンはユータの腕にしっかり掴まりながら歩いていた。

しばらく歩くと奥の方から幾つかの声が聞こえてきた。やがてそれは近付くにつれ大きくなり、その声が人間ではない魔物の声、ゴブリンの子供の声であることとだと分かった。すすり泣く声も混じって聞こえる。ユータは駆け足で向かった。



「これは……」


ユータ達が目にしたのは幾つもの狭い牢獄に捕らえられたゴブリンの子供達であった。

多くの子供達が疲れ果て生気を失い、そして唸り声や泣き声を発している。それは王城の地下で行われている、信じがたい光景であった。ユータが檻を掴んで子供ゴブリンに聞く。


「おい、お前ら大丈夫か? どうしてこんなところにいる?」


ユータの声に気付いたまだ比較的元気のある子供ゴブリンが答えた。


「何って、お前ら人間が俺達を売るんだろ……。頼むから母ちゃんの元に帰してくれ……」


子供ゴブリンの目から涙が流れる。


「売る? 売るってお前ら子供をか?」


ユータが立て続けに尋ねる。


「そうだ! ここにいる全員だ!!」


ユータは自分自身に冷静に考えるよう言い聞かす。そしてゴブニンに言う。


「おい、ゴブリン」


ユータはゴブニンに言った。


「僕はゴブニンだよ。で、何……?」


ゴブニンは泣きそうな顔をしてユータを見つめる。


「その突っ込みが欲しかった。で、お前は無論知らなかったよな、こんなこと」


ゴブニンは大きく何度も頷きながら答えた。


「もちろんだよ。知らないよ、こんな酷いこと……」


「よし、分かった」


ユータは子供ゴブリンたちに尋ねる。


「お前達をさらったのは誰だ?」


子供ゴブリンが答える。


「黒いサングラスと服を着た人達だよ……、お兄ちゃん……、だれ?」


ユータは剣を抜き優しく答えた。


「勇者だ」


「勇者……」


「ああ、そうだ。遅くなってすまんかった。今からこれを壊す。お前ら離れろ!」


ユータはそう言うと剣を構え気合を入れた。ゴブニンはある物に気付いてユータに言う。


「ユータ、ちょっと待って! そこに鍵が……」


「48剣技がひとつ・42の技【勇技】マテリアル・ブレーーーーーーイク!!!!」


ドドーーーーーン!!!


ゴブニンが声を掛けた時には既に遅く、ユータは剣を牢獄に振り下ろすと大きな音と共にドアが破壊された。


「よし! この剣技は生き物には殆ど効かないが、物質にはよく効くんでな。良かった」


「良くないよ!!」


ゴブニン大声でユータに言う。


「そこの壁に牢屋の鍵があるでしょ! あれ使えばこんなに壊さなくても助けられたのに……」


ゴブニンが指差す壁に牢屋の鍵らしき物が掛けてある。


「おお、そうかゴブリン! じゃあ早くそれで残りの牢を開けろ。すぐに兵がやって来るぞ!」


「ひえ~!!」


ゴブニンはそれはそれは信じられないぐらいの速さで鍵を取ると、素早く牢を開けていった。


「おお、やるじゃないかゴブリン! さて脱出だ! みんな! 俺に続け!!」


子供ゴブリン達は訳が分からないまま、突然やって来た騒がしい人間の後を追って必死に走った。走りながらゴブニンがユータに聞く。


「ユ、ユータ。で、これからどこに行くんだ?」


ユータは笑顔でゴブニンに答えた。


「お前の部屋だよ。こんな大人数でずっと城内や街中走れるか? お前の部屋広いからまあ大丈夫だろう。後で食べ物でも持って来てやってくれ」


「えっーーーー??」


そう言うとユータは先陣を切って走って行った。

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