2.ゴブリン魔王
ユータが目を開けるとそこには巨大な岩の城があった。有難いことに【ゴブリン城】と書かれた立札まで立っている。
「いや~、前回の馬車も楽だったけど、今回の転移魔法はもっと楽だな。一瞬で来れた」
ユータが城門へ近づくと門が開かれ、そこからたくさんのゴブリンが出てきた。
みんな棍棒やら短剣やら手にしてこちらに向かってくる。
「人間だ! 人間だ! 人間だーーー!!」
皆目が血走っている。とても悠長に話などする雰囲気ではなさそうだ。
ユータは仕方なしに剣を抜いた。
「はっ! はっ! はっーーーー!!」
相変わらず斬れない勇者の剣。それでも思い切り剣で殴られたコブリン達は次から次へと倒れていく。ユータはその足で城内へ駆け込む。
「人間が、我が居城へ! 許さんぞーーーーー!!!」
城内を走り抜けたユータは大広間に出た。そこにはこれまでのコブリンとは違いとても大きな巨大ゴブリンがいた。ユータの姿を見て巨大ゴブリンが叫び暴れる。
「おい、ちょっと待て。黒いサングラスに、黒い……」
ドーーーン!!
巨大な鉄の棍棒が床にめり込む。ユータが話をしようにも巨大ゴブリンは棍棒を振り回して暴れ話にならない。
「やれやれ。なんでどいつもこいつもこう血気盛んなんだ? 悪いが無理やりでも話を聞いてもらうぞ」
そう言うとユータは剣を上段に構えた。
「48剣技がひとつ・11の
ユータは大きな声を上げると床を思い切り蹴り、巨大ゴブリンへ斬りかかった。
ドォーーン!!
「グワッ!!!」
ユータの剣は巨大ゴブリンの右肩に当たり、そして大きな声をあげて巨大ゴブリンは倒れた。
「やっぱり斬れないな、この剣。まあ、木じゃ仕方ないか」
「うぐっ……」
巨大ゴブリンは右肩を押さえながら半身起き上がった。一瞬ユータから放たれた強烈な覇気。巨大ゴブリンは自然と体が震えていることに気付いた。ユータが剣を収めて言う。
「おい! ゴブリン。俺は勇者だ。まずは話を聞け」
巨大ゴブリンはユータを恐れつつも、意を決しギッと睨んで大声で言った。
「あ、悪しき者にくみしお前が、何が勇者だ!! 俺は負けんぞ、皆の為に負けん!!」
ユータが聞く。
「悪しき者ってどういう意味だ? 俺は異世界から来た勇者。何が起こっているのか教えてくれ」
巨大ゴブリンはゆっくりと立ち上がるとユータを見て言った。
「お、お前は人間の味方か? それとも我らの味方か?」
ユータが腕組みして応える。
「知らんそんなもん。俺は俺の心のままに動く。ただ俺は勇者。求むのは平和。それを害する奴を斬る、それだけだ」
(「実際は斬れんがな、この剣じゃ」とユータは内心思った)
「そうか」
巨大ゴブリンは少しだけ安心し、ゆっくり胡坐をかくとユータに言った。
「ふっ面白き人間よ。いや勇者と言うべきか。相当の名のある勇者と見受ける」
「ま、まあな……」
――早く【ちびっこ勇者】を卒業したいぞ、ユータは心底思った。
巨大ゴブリンがユータに尋ねる。
「で、我に聞きたいこととは何だ、異世界の勇者よ」
ユータが答える。
「そうそう。黒いサングラスに黒いスーツの怪しい奴らって知ってるか?」
「知らない」
「そうか」
ユータが続ける。
「じゃあ聞くが、ゴブリンやゾンビゴブリンが人を襲うと聞いたが、それは本当か?」
「……本当だ」
「どうしてそんなことをする?」
巨大ゴブリンは、ふうと大きな溜息をついてユータに言った。
「お前、何も聞いていないのか?」
「何をだ?」
巨大ゴブリンが話し始める。
「ここ数年のことだが、我々ゴブリンの子供達がさらわれる事件が頻発している。野や山に遊びに行った子供達がそのまま帰ってこないのだ。そんな時ある噂を聞いた……」
ユータは黙って聞く。
「……人間の王が、ゴブリンの子供をさらっていると」
巨大ゴブリンは拳を握ると、床を強く殴った。
「本当かそれは? 証拠はあるのか、王がさらったと言う」
巨大ゴブリンはユータの目を見て言った。
「ない。ただそれを知った子供をさらわれた親ゴブリンや若い連中が怒り狂い、無差別にニンゲンを襲うようになった」
「そうか……。で、ゾンビゴブリンってのは?」
巨大ゴブリンは左手を目に当てて答える。
「……子供を、子供を奪われた親ゴブリンが悲観して自害し、それがゾンビとなって夜な夜な現れるようになったんだ!!」
「……」
ユータも巨大ゴブリン同様に胡坐をかくと、床に座った。
「誰がやったか知らねえが……、でも大切な子供をよお、宝物の子供達をよお、さらわれて黙っていられる親などいねえし、俺も絶対に許せねえ……」
巨大ゴブリンの目から涙が流れる。
「人間を襲ったことは……、悪いと思っている……」
巨大ゴブリンは正座に座り直すと、両手をついて頭を下げて言った。
「勇者よ。名のある勇者よ。俺達を助けてくれないか。俺は頭が悪くてよぉ……、もうどうして良いのかわからねえんだ」
歯を食いしばって涙をこらえようとするがとめどなく溢れる涙。
ユータは立ち上がって言った。
「頭を上げよ、ゴブリン王。その涙、嘘ではないと信じる。俺はこれからブリン王国に戻って調べてみようと思う。解決できるかどうか分からんがちょっと時間をくれ」
「本当か?」
「ああ、ただ約束しろ。それまでは決して人間を襲うな。やはり無差別はいかん」
「約束する。元々俺も無差別攻撃など好いておらん。名のある勇者よ。名前を教えてくれないか」
「ユータだ」
「勇者ユータ。その名前、胸に刻むぞ」
「ああ」
ユータは巨大ゴブリンに別れを告げると、ブリン王国へ戻ることにした。
「……しかし、行きは転移魔法で楽に来れたが、帰りのことを考えてなかった。
ユータはブリン王国までの帰路を早足で戻った。
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