4.償い
レーアは森の隅っこに移動してユータを見つめていた。
――あれが、ユータ……?
そこに立っているユータはこれまでとは全くの別人。立っているだけで放たれる強烈な覇気。他者を圧倒するような威圧感。剣士であるレーアにはその違いがはっきりと分かった。
ユータはワール大臣を見てから言う。
「お前、その体の為に何体の魔物を殺した?」
「う、うるさい!!!」
大臣は考え直した。
目の前にいるのは異界の子供。少し剣の腕は立つが最強の魔物の体を手に入れた自分に敵うはずがない。
「姫より弱いお前が、わ、私に勝てると思うのか!!!」
ワール大臣は大声でユータに言い放った。ユータは呆れた顔をして答える。
「勘違いするな、俺は女は殴らん。それだけだ」
「馬鹿め!!!!」
大臣は持っていたナイフを振り上げてユータに斬りかかった。
ガン!!
盾で攻撃を防ぐユータ。そのまま蹴りを大臣の腹に入れる。
ドン!!
「ぐはああ!!」
遥か後方に吹き飛ぶ大臣。その威力に唖然とする。
「分からん奴だな。仕方ない」
ユータは剣を構えて詠唱を始めた。
「48剣技がひとつ、13の
ガン、バリーーーーン!!!!
ユータが大臣に剣撃を加えると、大臣が纏っていた鎧や武器が全て粉々に砕け散った。
「こ、これは……?」
カラン
ユータも剣と盾を床に捨てる。
「教えてやるぜ、本当の力ってものを!!!」
そう言うとユータは光速で大臣の懐に走り込み、思い切り下から腹を殴り上げた。
ドーーーン!!!
「ぐはあああ!!!」
体が上空に吹き飛び、そしてそのまま地面に叩きつけられる大臣。
「こ、こんな……、バカな……」
血を吐き、そしてフラフラになって起き上がる大臣。周りにいた殺し屋もユータの気迫に押され全く動けない。大臣も全身の傷みと恐怖に震え動けない。
ユータはゆっくり歩いて行き大臣の首を掴むと言った。
「魔物にだって親があり子があり、家族がある。罪のない命を奪うお前を俺は許さん!!」
そう言って再び大臣の腹に鉄拳を加えるユータ。
ドン!!
「ぐはああ!!」
あばら骨が折れる音が響く。
ユータの変貌ぶりに驚いていたレーアが、その言葉を聞いてはっとした。
――お母さんが、お母さんが死んじゃったよ。嫌だよーー。嫌だよーーー!!!!
自身が子供の頃、大好きだった母親が死んだ時のことを思い出した。
家族を亡くす悲しみ。
それを一番よく知っていたのは自分じゃなかったのか。
剣を構える自分の前で震え怯える魔物。
無慈悲に剣を振り上げる自分。
レーアはこれまで魔物狩りと称して行ってきた自分の行為を心から恥じた。
その時後方から声がした。
「勇者ユータよ」
振り向くと真っ黒の肌にコート。恐ろしいまでの力を感じる存在。レーアは身震いをした。
「お、魔王か」
その言葉に驚くレーア。
「その者か?」
「ああ、こいつがお前達の同胞をさらった奴だ」
その言葉に反応するように急激に怒りのオーラを放つ魔王。そしてゆっくり歩いて行くと大臣の首を掴み上げ言った。
「殺された同胞の恨み、許さんぞ!!!!」
ドン!!!
ユータ同様に大臣の腹に強烈な拳を叩きこむ魔王。更にあばら骨が折れる音が響く。
「ご、ごめん……なさい……、ゆるして……」
魔王の顔が激怒の表情に変わる。
「その言葉を我ら同胞が口にした時、お前は何と答えた!!!!」
ドン!!
「ぐはっ!!!」
静かな森に再度あばら骨が折れる音が響く。黙って見守るユータ。
「ごめんなさい、ごめんなさい!!! ゆ、許しえくだせ……い……」
泣きじゃくりながら許しを請う大臣。魔王は大臣の首を掴むとレーアの方へ放り投げた。
「人間の姫よ、そいつの処分はお前に任す」
「え!?」
レーアはその言葉の意味が一瞬分からなかった。魔王が言う。
「お前達人間の法で裁くが良い」
ユータが聞く。
「良いのか、魔王」
「ああ、本当は存在そのものを消し去りたい気持ちはあるが、感情で動くことは良しとしない」
「男だな、お前」
魔王が言う。
「魔族に男も女もないが、それは誉め言葉なのか?」
ユータが答える。
「ああ、最高の誉め言葉だ」
「そうか、それは光栄だ」
「ごめんなさい!!!」
突然レーアが地面に頭をつけて魔王に言った。
「私は貴方の同胞を魔物狩りと称して狩っていました。あ、あの大臣と同じです」
じっとレーアを見つめる魔王。そして言う。
「それも含めてお前に全て対処を任せる。償う気持ちがあるのならすべきことは自ずと分かろう。我ら魔族は人間達と仲良くやって行きたい、ずっとそう思っている」
「はい……、分かりました……」
目に涙を溜め魔王に謝罪するレーア。
ユータはニコッと笑いながら二人を見つめた。
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