2.ケーキ

カーン、カーーーン


早朝、王城一階にある剣道場にて軽金属の乾いた音が響く。

ユータがその音を聞きやって来ると、ひとり剣を握り人形に向かって訓練するレーアの姿があった。



「よお、姫さん。朝から精が出るねえ。少し稽古つけてやろうか」


ユータが言うとすぐにレーアが答える。


「あなた、何か勘違いしていない? 私、強いわよ」


「やれば分かる」


そう言うとユータは道場にあった軽金属の剣を持つとレーアに向かい合った。




「いいよ、来な」


「後悔するわよ」


カンカンカーーーン!!


鋭く剣を振り込んでくるレーア。ユータはそれをすべて剣ではねのける。



(剣の太刀はいいな)


ユータがそんなふうに思っていると、不意にユータが持つ【美女センサー】が反応した。



「まあ、そうですの。おほほほ……」


道場脇にある廊下を歩く二人の美女。センサーが反応したユータはぐっと二人の美女を見入る。大きく開かれた胸。美しい足。ユータの鼻の下が伸びる。


「はああああああ!!!!」



ガン!!


「痛ってええーーー!!!!」


美女に見惚れ、隙のできたユータの頭にレーアの強烈な一撃が振り下ろされた。

あまりの痛さにふらつくユータ。


「弱いくせに、何が護衛よ!!!」


レーアは剣を片付けるとひとり道場を去って行った。





翌日から本格的にユータの護衛が始まる。

朝、ユータは外出しようとするレーアに言う。


「外に行く時は俺に言え」


レーアが不満そうな顔をして言う。


「何言ってるの、あなた? 弱いくせに」


そう言ったレーアを、無言でそして背筋も凍るような視線で睨むユータ。


「わ、分かったわよ。ホントうざい」


渋々承諾するレーア。ユータは彼女に続いて外に行く。





外に出た二人。しかし会話がない。

沈黙を破ってユータが聞く。


「何をする気だ?」


「魔物狩り」



ユータが溜息をついて言う。


「だから魔物狩りはやめろって言ったろ」


「どうしてあなたに言われなきゃならないの?」


レーアは真正面を向いたままユータに言う。



「危害を加えない者を何故斬る?」


「魔物だから」


ユータも少し強い口調で言う。


「魔物とて生き物、正当な理由なくして斬ることは許さん」



そこに運悪く一匹のウサギのような魔物が現れる。明らかに人間を恐れている。

レーアは素早く剣を抜き、魔物を斬りにかかる。


カン!!


「きゃあ!」


しかし彼女が剣を鞘から抜いた瞬間、持っていた剣が地面に叩き落とされた。その反動で地面に尻餅をつくレーア。そしてユータが自分の剣を鞘にしまうと、魔物は慌てて逃げて行ってしまった。レーアが怒って言う。



「な、何するのよ!!」


「理由は先に述べた。それだけだ」


「ウザい男!!」


ユータがレーアを見て言う。



「……なあ、姫さん」


「な、何よ!!」


「パンツ見えてるぞ」


「ひぃ!!」


バーン!!!


「あ、あんたなんて、早く自分の世界に帰りなさい!!!!」


レーアはユータを思いきり殴ると、怒ってひとり城に帰って行った。





その夜、部屋に戻って寛いでいたユータをレーアの従者が訪れた。


「ん? どうした」


ドアを開けてユータが尋ねる。


「レーア様がお呼びです。お部屋までお越し頂けませんか」


「お姫様が?」


ユータは分かったと言って後からひとりレーアの部屋に向かう。




「入るぞ、お姫様」


ユータがレーアの部屋に行く。女の子の部屋ではあるが、予想以上に殺風景である。

そして鼻をつく何かを焼く香り。どうやらデザートを作っている様だった。



「いらっしゃい。ケーキ焼いたの、食べてちょうだい」


レーアはそう言うと自分で作ったというショートケーキを机の上に置いた。ユータはまた殴られるのかと思い少し警戒していたが置かれたケーキを見て安心した。



「おお、美味そうだな。お前が焼いたのか」


ケーキを見つめるユータ。レーアが言う。


「当然よ。見直した?」


「見直した」


「え!?」


レーアは意外なユータの答えに一瞬びっくりした。



「じゃあ食べるぞ」


「ええ……」


そう言うとユータはケーキにフォークを刺しパクパクと食べ始めた。



レーアは内心ドキドキであった。

実はユータに焼いたケーキは砂糖を使う代わりに塩、そして大量の唐辛子入りのケーキであった。


「あ、あの……、ちょっと……」


ユータはショートケーキを食べ終わるとレーアに言った。


「異世界料理は大好きだ。また作ってくれ。あ、これ余ってるなら少し貰って行くぞ」


そう言ってユータは残りのケーキを道具袋に入れた。



「じゃあな、ご馳走様」


「え、あ、あの……」


別れを告げるとユータはレーアの部屋を出て行った。



レーアは空になったケーキ皿をひとり眺めた。





ユータは部屋に戻るとそのままの足で城下町にあるバーに向かった。


「あははははは! 苦しゅうない、苦しゅうない!!」


すっかりその異世界でのバー通いが習慣になってしまったユータ。



「勇者様、お酒がお強いこと」


「勇者、だからな!!」


美女に囲まれ上機嫌のユータ。

しばらく飲んだ後、美女達に尋ねる。



「この辺で怪しい奴っているか?」


美女達は少し考えてから言う。


「えっと、よく分からないけどやっぱり魔王軍……かな?」


「魔王軍? 魔王がいるのか?」


ユータが聞く。


「ええ、国王のお城の向かいの山の向こうにいるわ」


「ああ、あの山の向こうか」


ユータは王城の川を挟んで少し先にある大きな山を思い出した。



「よし、明日にでも行ってみるか」


ユータは残った酒を一気に飲み干した。

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