第七章「ジャジャ王国」

1.ジャジャ王国のジャジャ馬姫

「護衛?」


勇者派遣本部のリリアに呼び出されていたユータが聞き返した。



「そうよ、護衛って仕事」


「誰の護衛?」


リリアは依頼指示書を見てユータに答えた。


「ええっと、ジャジャ王国の……、お姫様だって」



「姫様、ねえ……」


ユータは腕を組みながら言った。


「なんで? お姫様の護衛なんて男の子の夢じゃないの?」


リリアは興味津々でユータに尋ねる。



「まあ、そうなんだが。勇者うちに依頼して来ている時点で普通じゃないよな……」


「まあ、確かに」


リリアは苦笑して答える。


「でもまあ、お前が勧めるのなら行ってくるわ」


「えっ、どういう意味、それ!?」



リリアは一瞬顔が赤くなるのを感じた。


「じゃあな」


ユータは依頼指示書をリリアから受け取ると、そのまま転移の扉へ向かって行った。






「だから要らないって、お父様」


「いや、そんなこと言ってもだな。父親としては心配でならんのじゃ……」



ジャジャ王国の王の間。

国王とその娘であるレーア姫が話をしている。


「私だって十分強いのよ。それはお父様もご存じのはず」


「分かっておる、分かっておる。じゃがもう依頼しておるのじゃ、分かってくれ」




「……なんか俺、あんまり歓迎されてないのか?」


「わっ!!!」


国王とレーア姫に王の間に転送されて来たユータが言う。


「ゆ、勇者様!? びっくりしましたぞ……」


驚く国王にユータが言う。



「いや、もうここに来て結構経つが、お前らが全然気付かなかったんだろ」


「そうであったか、それは失礼、失礼」


国王は頭をボリボリかきながらユータに言う。




「では勇者殿、紹介しよう。護衛をして貰いたい我が娘のレーアだ」


国王に紹介されたレーアは腕組みをして知らぬ方向を見ている。



「俺は勇者のユータだ。護衛は初めてだが、まあ大丈夫だ」


「ええっと、あとこれがレーアの義弟のフレデリックだ」


国王に紹介された弟のフレデリックが丁重に頭を下げてユータに言う。


「フレデリックです。勇者様、どうぞよろしくお願いします」


「おう、よろしくな」


ユータは自分より年下であろうフレデリックの頭を撫でた。



「で、依頼内容だが、最近レーアを怪しい者が襲うようになってな……」


国王が真面目な顔をして話始めた。


「先日もレーアが魔物狩りに出掛けた際にその怪しい集団に襲撃され、まあ何とか娘の活躍もあり撃退で来たから良かったもののひとつ間違えば大変なことになっていた」



「魔物狩り?」


ユータがそのフレーズに反応して言う。


「そうよ、魔物狩り」


レーアが答える。



「なぜ魔物を狩る?」


ユータがレーアに向かって尋ねる。


「なぜって、魔物だからでしょ?」


レーアは不思議そうな顔でユータに答えた。



「その魔物は、お前達に危害を加えたのか?」


「いいえ、だけどいずれそうなるわ。魔物ですもの」


ユータが少し怒った顔で言う。


「魔物とは言え平穏に暮らしている奴らを狩るのはよせ」


ユータの言葉を聞いたレーアが顔を赤くして言う。


「あなた何言ってるの? 頭おかしいわね、鬱陶しい……」



レーアが国王に言う。


「お父様、こんなのが私を守るの? 不愉快だわ」


不満そうな顔をしてレーアが言う。


「まあ、大丈夫だろう。若いとはいえ勇者として派遣された方だ。人格も腕もお墨付きのはず」



「こんな子供が?」


「お前も子供だろ」


ユータがレーアに言う。


「あなたに私が守れるの?」


「お前が俺の言うことをちゃんと聞けばな」


「何それ。今から言い訳?」



「お前、男ならぶん殴っているところだぞ」


ユータがレーアの顔を見て言う。


「まあ、男とか女とかで差別する気? まさにアホですわ」


レーアが笑いながらユータに言う。


「……」


沈黙するユータ。レーアが続ける。


「何よ、何も言えないわけ?」


「……女には手を上げん。それだけだ」


ユータの言葉を聞いたレーアが呆れた態度で言う。


「バッカじゃないの? もういいわ。まあせいぜい頑張ってね」


レーアはそう言うと王の間を去って行った。




「すまんのう、勇者殿。ジャジャ馬で。母親を亡くしてから頑張って男手ひとつで育ててきたんだが……」


「ジャジャ馬の扱いには慣れている。心配無用」


「そうか、それは助かる」


ほっと安心する国王。

ユータが国王に近付き小声で言う。



「時に国王、見たところ従者に側近、皆美女揃い。これは決して偶然ではないだろう」


国王はにっと笑みを浮かべて答える。


「勇者殿も好きじゃのう。良ければ好きなのを選んでも良いぞ」


「嬉しい申し出だが、俺も仕事で来ている。今は遠慮しておこう」



ユータもにっと笑って答える。


「遠慮などせんでも。若気の至りと言うだろうに……」


「にひひひっ」


「むふふふふっ」



ふたりの様子を傍で見ていたレーアの義弟フレデリックはその光景に頭を抱えた。

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