5.未来の王へ

魔王マチョボン(マッチョボンバー)を倒し魔界に帰したユータ。ふうと一度息を吐くとケータじっと見つめた。



「な、何だよ……」


戸惑うケータ。



バーーン!!


「い、痛て……」


ユータはケータの頭をげんこつで殴った。


「な、何するんだよ!」


戸惑いながら怒るケータにユータが言う。



「世界の半分を魔王にやるだと! 仮にもこの先王になるお前がふざけたこと言うんじゃねえ!」


はっとするケータ。ユータが続ける。


「その半分の世界にもたくさんの人が住み、家族があり、愛がある。お前はそれを売ろうとしたんだ。分かるか? 自分のしようとしたことが!!」



下を向いて黙るケータ。

やがて目から涙が溢れだし、そしてアリスに謝った。


「ごめんなさい……、ごめんなさい、母様。僕が愚かでした……」


下を向き、目を赤くして謝るケータ。アリスはケータを優しく抱き言った。


「大丈夫ですよ、反省をしてくれればいいです。非を認めて謝罪する、少し大人になりましたね、ケータ。母は嬉しいです」



しっかりとアリスに謝罪するケータを見て、ユータが言った。


「よし、これで家庭教師終了。あとはガイアスに習え」


「えっ!?」


驚きの表情をするケータ。しかし膨れた顔をしてすぐに言う。


「お、お前なんていないくてもガイアスに習うし、国だってちゃんとガイアスが

守ってくれる!!」



ガン!


「いってーーーー!!!!」


ケータの頭を殴るユータ。そして言う。


「ガイアスじゃなくて、だろ? お前が国を守る王となれ、そしたら認めてやる」


「わ、分かったよ……」


ケータはユータの顔を見て渋々言う。


「よし、じゃあお前にこれをやろう」



ユータはそう言うと腰につけていた勇者の剣をケータに渡した。


「え、これって……」


「勇者の剣だ。勇気ある者、強き者だけが持つ剣だ。餞別にくれてやる」


「……いいのか?」


ユータを見つめるケータ。ユータが答える。



「それに見合う男になれ。頼むぞ、未来の王ケータ!」


「分かったよ!」


ケータは目を輝かせて言った。


「じゃあ俺はこの辺で……」


立ち去ろうとするユータにアリスが言う。



「ユータさんが宜しければずっとこのままこちらに居ても構いませんわよ」


ユータは背を向けたまま手を軽く上げて言った。


「待ってるひとがいるんでね」


そう言うとユータは光の中に消えて行った。




ユータが去った後にアリスがケータに言う。


「ユータさんみたいな素敵な男になってね、ケータ」


ケータは勇者の剣を振り上げて言った。


「俺はあんな奴よりもっともっと凄い男になってやるぞ!!」


「ふふっ、楽しみにしてるわ」


アリスはケータを優しい顔で見つめた。






「お、いたいた。メル!」


勇者派遣本部に戻ってきたユータはカウンターにいるメルを見つけて声を掛けた。


「あ、ユータ君。どうしたの珍しい?」


メルは少し驚いた表情で答えた。ユータが言う。



「いや、ちょっと頼みがあるんだけど、いいかな……」


「わ、私のカラダ!?」


「違うわい!!」


ユータが続ける。



「実は勇者の剣を成り行きで人にあげちゃって、お前魔法使いだから卒園で貰った剣、余ってるだろ? くれ」


「剣をあげた??」


カウンターで聞いていたリリアが驚いて言う。



「ああ、まあそのなんだ……、あげちゃった」


「何考えてるの、あなたは……」


リリアは呆れた表情でユータに言う。


「剣? うーん、確かに使ってないからいいけど……、ちょっと待っててね」


メルはそういうと転移魔法を使ってその場から立ち去った。



メルが居なくなってからユータはリリアに依頼指示書を渡した。


「はい、これ。終わったぞ」


「うん、ご苦労さん。今回長かったわね」


久しぶりに顔を出したユータにリリアは言った。



「まあ、家庭教師だからな。しっかりしごいてきた」


「そうなのふふっ」




「お待たせ、ユータ君」


メルが空中に現れた光の中から姿を現した。手にはユータがケータに挙げたものと同じ剣を持っている。


「おお、ありがと! メル!!」


そう言うとユータはメルが持っていた勇者の剣を取った。



「酷い……、私の大切なものをまた奪うのね……」


「おい! 誤解されるだろ、その言い方!! ……ん?」


ユータはメルから奪った剣を見て言った。


「何だこれ? 歯形がいっぱいあるし、それにベトベトだぞ……」



メルが舌を出して言う。


「うん、使わないんでうちの犬のペドロスちゃんの玩具にしてて。ちょっと汚れちゃったかな?」


「犬……、おもちゃ……」


ユータは犬のおもちゃにされた剣をまじまじと眺めた。


「まあ、少し削って磨けば、大丈夫かな。で、貰っていいんだな?」


「いいわよ、ユータ君。未来の旦那様だからね」



バキ!

どこかで何かが折れる音がした。




笑顔でユータが話すのを聞いていたリリアに派遣本部の事務員がやってきて一枚の書類を手渡した。それを見たリリアの表情が一変する。


「ユータ君、あなたカテ王国のお城で何やって来たの……」


「へ? 何って……、家庭教師を……」



リリアは事務員が持ってきた書類をユータに見せて言った。


「カテ王国王城でさんざん女の子を追い掛け回した挙句、お尻や胸を触ったってクレームが来てる」


「え! だ、誰から?」


「ケータ王子って人から」



「あ、あいつ……、くそ!!」


怒りのオーラを出したリリアが言う。


「本当なのね、あなたはまた!!!」


「いや、違うんだ、その、皆に挨拶をだな……」




「ただいま……、はあ、疲れた……」


リリアに怒鳴られている最中に、仕事を終えたレナが派遣本部に帰って来た。


「おお、レナ! 助けてくれ。リリアに怒られている」


レナは疲れた顔をして言う。


「ダメ、私もうくたくた。魔物と戦って、ほらこんなに汚れちゃって……」



レナの顔や体は魔物との戦闘で酷く汚れていた。


「うわ、ホントだ。汚ったねえな。い、いや、怒るなよ。そうだ、これ使え」


ユータは怒りの表情を見せ始めたレナに、道具袋の中から布を取り出して手渡した。



「ありがと。黒いハンカチ? 意外とお洒落なもの持ってるのね」


レナはユータから渡された布で顔を拭くと、その布を広げた。しかしその逆三角形の形状に目が点になる。



「ねえ、ユータ……、これ何……?」


レナは声を震わせながらユータに尋ねた。ユータが答える。


「ん? ああそれは魔王のパンツ……、あっ!!」



バン!!


「痛ってーーーー!!!!!」


レナは持っていた剣の柄でユータを思い切り殴った。


「信じられない!! あんた一体何渡すのよ!!!!」



怒り狂うレナ。ユータが言う。


「だ、大丈夫だ。まだ履いていない……、たぶん……」



バーーーン!!!


「痛っでーーーーーっ!!!!!」


「たぶんって何よ!!!! もう許さない、この変態!!!」



ユータはレナに殴られながら思った。

履いてないパンツならハンカチと同じだろうが、それを言うと間違いなく火に油を注いでしまうんだろうな、と。

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