閑話1
新人勇者評議会
「え、何? 新人勇者の評議会?」
ユータは依頼のない休日に派遣勇者本部を通るとリリアに呼び止められて言われた。
「そうなのよ。昨期、卒園した新人勇者君たちの活躍を称える場が開かれるんだよ」
「ふーん、何するんだ?」
ユータの問いかけにリリアが答える。
「ユータ君達は何もしなくていいわよ。ただ座っているだけ。これまで勇者としてやって来た仕事が評価されるの」
「なるほど。勝ったらなんか貰えるのか」
「勝ちとか負けとかじゃないわ。純粋に新しい勇者を称えてこれからも頑張ってねっていうの」
「ふーん」
「あ、ただ成績優秀者にはクラス昇級があるかも」
「お、それはいい!」
「うん、だからはユータ君も早く大勇者になってね。婿にしてあげる」
バキ!
どこかで何かが折れる音がした。
「で、その評議会っていつなんだ?」
ユータがリリアに聞く。
「今日の夜」
「おい」
「どうしたの?」
ユータが怒って言う。
「全然聞いてないぞ、そんな連絡!」
「そうなの? 【もしもしでんわ】で各勇者には伝えるって言ってたけど」
「げっ」
「どうしたの?」
「いやー、あれうるさかったんで、電源切って部屋に放置してある」
「あらあら。そりゃ駄目だ」
リリアは呆れた顔で言う。
「とりあえず今日の夜、センターホールに来てね」
「ああ、行くよ。とりあえず」
ユータはリリアにそう返事すると派遣本部を後にした。
コンコン
「ユータ、いる?」
ユータが部屋で寝ていると誰かが部屋のドアを叩く音がした。
「……ん? ふあぁい? だれ?」
ユータが寝ぼけながら返事をするとドアの外で声がした。
「レナよ! 早く評議会行くわよ」
「評議会? 何それ? お前、水着でも着て踊るんか?」
ドン!
レナが勢いよくドアを蹴る音が聞こえた。
「はいはい! ごめんなさい! すぐ行きます!!」
ユータは光速で服を着替えるとレナについてセンターホールに向かった。
センターホールの中央にたくさんの椅子が並べられ、そこに新人勇者たちが座って評議会の開始を待っている。客席には一般市民や勇者関係者などの見物客が多く来ている。ユータとレナは中央の椅子に腰かけた。
「同期の勇者ってこんなにいたのか」
ユータは周りを見渡した。百人は超える勇者達が座っている。
「同期でも科が違うと全然会わないしね」
レナが言う。
「そうそう、
ユータがそう言うと後ろから声がした。
「酷い、あれだけ私と遊んでおいて……、そんな言い方……」
「レナ、場所を替えよう」
メルに気付いたレナが言う。
「いいじゃない、別に。ヤマシイことがなければ問題ないでしょ」
「いや、しかしな……、はあ……」
ユータはそう言って審査員席を見ると見慣れた顔があった。
「おい、見ろ。あれハーゲンだぜ。偉そうに審査員席なんて場所に座ってる」
「そりゃそうよ。あれでも一応大勇者なんだから」
レナが小声で答えた。
やがて長い学園長のあいさつの後、新人勇者たちのそれぞれの活躍が発表された。
そして最後に点数式で上位三名の優秀勇者が発表される。
「おお、誰が選ばれるんだろうな。楽しみだ」
ユータが目をキラキラさせながら言う。
「そうねえ、誰かしら」
やがて司会の者がマイクを持って段に上がった。
「では発表します。まず第三位は……、マルハゲータさんです!!」
「おおーーっ!!」
歓声と共に会場から拍手が起きる。司会が紹介をする。
「マルハゲータさんですが、依頼達成率84%、顧客満足度81%、そして依頼件数6件ととても素晴らしい成績を残されました」
名前を呼ばれた新人勇者が段に呼ばれ皆に紹介される。
「では次きまして第二位ですが……、マタハゲータさんです!!」
「おおーーっ!!」
名前を呼ばれた新人勇者が段に向かって走る。
「何か同じような名前だな」
不満そうに見つめるユータが言う。
「兄弟か何かじゃないのかな……」
レナが答える。
「名前から察するに、ハーゲンがえこひいきでもしてんじゃねえか。または親族とか」
「どうかしら」
レナは笑って言う。
「マタハゲータさんですが、依頼達成率91%、顧客満足度85%、そして依頼件数5件とこれまた素晴らしい成績を残されました。そして……」
観衆が司会のマイクを見つめる。
「栄えある第一位は……、レナさんでーーーす!!!」
「おおーーっ!!!!」
これまでで一番大きな歓声が上がる。
「え! 私? どうしよう呼ばれちゃった!!」
慌てるレナにユータが言う。
「大丈夫だ。紐ビキニは用意してきた。ほれ」
ほとんど紐しかない水着をレナに投げるユータ。
バン!!
「ふ、ふざけないで! もう!!」
レナは怒りながら段へと歩いて行った。
「いててて……、まあそれだけ殴れればもう大丈夫だろう。……でも真面目に痛いぞ」
段に上がったレナに会場から惜しみない拍手が沸く。
「さてレナさんですが、依頼達成率95%、顧客満足度92%、そして依頼件数6件と最高の成績を残されました!!」
「おおーーっ!!」
更に沸く会場。
「さてこの三名には勇者派遣本部より特別なプレゼントが用意されています」
「おおーーっ!!」
一言一言に沸く会場。
「それぞれ級の昇級、特にレナさんには特別に【中級勇者】の称号を与えます!!」
「おおおおおおーーーーーー!!!! レナーーーー!! 好きだーーーー!!!」
会場の歓声に耳を防ぎながらもユータが言う。
「昇級か、普通に羨ましいな……」
新人勇者評議会は大歓声に包まれながら、幕を閉じた。
「どうしたのユータ君、元気ないね」
いつもより元気のないユータに気付いたリリアが声を掛けた。
「まあな、レナにかなり先を越された」
「昇級のこと?」
「ああ……」
リリアは少し考えてから小声で言った。
「実はね、これ口外禁止だけど、成績ならユータ君がぶっちぎりだったんだよ」
「え!」
ユータは驚いた顔をしてリリアを見る。
「だって、依頼達成率100%、顧客満足度140%、そして依頼件数も5件と文句のない成績だよ」
「そ、そうなのか?」
ユータは声を震わせて言う。
「そうだよ。特に顧客満足度。これって100%での回答を依頼しているのに、140%以上の答えがあったってことでしょ? 普通じゃないわよ、こんなの」
「そ、そうか」
ユータは嬉しそうな顔をして言った。
「でもね、残念ながら減点項目が多過ぎて、それで漏れちゃった……」
「減点? 俺何か悪いことしたか?」
リリアは軽く咳をしてから言った。
「器物破損2件、未成年飲酒5回、セクハラ発言5回、無銭飲食2件……」
「あ……」
ユータは口を開けたまま固まった。
「成績は抜群なんだけどね、悪いことし過ぎで……」
「セクハラって何だ? 何かしたっけ?」
ユータがリリアに聞く。
「したわよ、私達に! レナちゃんの胸掴んだとか、パンツ盗んだとか……」
「パ、パンツは盗んでないぞ!!!」
「あと、私達に子供を作れとか、その……、魔王の金た……た……」
「魔王のきん……? 何だって?」
赤くなるリリアにユータがにやけて聞く。
バン!!
「痛ってーーー!!!」
「だからあんたは選ばれないんだよ!!! ボケェが!!!」
バンバンバーーン!!
「ご、ごめんなさーーーい」
ユータは殴られながら思った。
閑話だったので安心していたが、やはり最後は殴られるのか、と。
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