第六章「カテ王国」

1.カテ王国の女王と王子

「家庭教師?」


ユータはリリアに呼び出されて勇者派遣本部の受付に来ていた。



「何を教えるんだ?」


ユータは難しい顔をしてリリアに聞く。


「うーんと、剣術指南って書いてある」


「剣術か……、誰に教えるんだ?」


「カテ王国の王子様、だって」


リリアは依頼指示書を眺めながら答えた。



「魔王はいないのか?」


ユータに聞かれたリリアが依頼書をもう一度見直す。


「うーん、魔王は分からないけど、魔物の欄にはチェックがしてあるのでなんかいるわね」


「何かいつも適当だな。ちょっと依頼書見せてくれ」


そう言ってユータは派遣依頼書をリリアから受け取り内容を確認した。



依頼主:カテ王国の女王

依頼内容:ケータ王子の家庭教師

場所:カテ王国

報酬:それなり


「ケータ王子……、ねえ……」


「何かユータと兄弟みたいだね」


笑顔で言うリリアにユータが言い返す。



「ふざけるな、俺は天涯孤独。そんなもん要らねえ」


リリアが胸の谷間を強調して甘い声で言う。。


「あら、ユータ君。私の婿になれば天涯孤独じゃなくなってよ。早く大勇者になって私の為にお金稼いでね」


バキ!

またどこかで何かが折れる音がした。それと同時にユータの背中に走る悪寒。



「こ、これ、受けるぞ! じゃあ!!!」


「あっ!」


ユータはそう言うと、リリアが持っていた依頼指示書を取って転移の扉の方へ走って行った。


「ちょっと待ちなさーい!! まだ説明が!!」


ユータは扉の中に消えて行った。





「いいですか、ケータ。今日は異世界より勇者様がいらっしゃるので失礼の無いように」


カテ王国の女王アリスは、息子のケータに今日の話をしていた。



「分かったよ、母様。でも剣術なんてガイアスで十分じゃないの?」


ケータは不満そうな顔をして母アリスに尋ねた。アリスが答える。


「騎士団長のガイアスが強いのは十分わかっています。ただ彼はあなたには甘すぎるところがあります。我儘を聞いてしまうと言うか……」


「俺、我儘なんて言ったことないよ」


ケータは不満そうな顔をして答えた。



「そんなあなたが見てみたいですけどね」


女王アリスがそう微笑むと謁見の間の中央が明るく光った。


「あら? いらしたのかしら」



光は大きく光るとやがて消えて行き、そこにひとりの剣を携えた少年が立っていた。


「あなたは……?」


アリスが尋ねるとその少年は軽快に応えた。


「俺は派遣勇者のユータだ。依頼を受けに来た」



アリスは軽く会釈をして答えた。


「初めましてユータさん。カテ王国女王のアリスです。こちらは息子のケータ」


ユータが答える。


「美しい女王だ」


「ご冗談を、でも嬉しいわ」


「俺は嘘が付けない性格でね」


「お上手だこと、おほほほほ」


「ふふふふふっ」



「おい!! 俺を無視して話をするな!」


完全に外野になっていたケータが怒って言う。



「何だお前? 誰だ」


ユータがケータの顔を覗きこんで言う。


「お、俺はケータ王子だ!! 将来王になるんだぞ!! お前、失礼だ! ひかえろ!」



ガン!


ユータはケータの頭を思い切り殴った。


「い、いってーーーー!!!! いきなり何すんだよ!」


ユータを睨みつけるケータ。ユータが言う。



「それが年上に対する口の利き方か?」


「な、何だそれ!!」


ケータは顔を赤くして言う。


「うるさいんだよ、ガキが」


「お、お前だってガキだろ!!」


「お前より強い」


「何だと!!」



「まあまあ、二人ともその辺にして……」


アリスが笑いながら仲介に入る。


「ふん!」


ケータは拗ねるように顔を横に向けた。



「ベロベロベロベロ!!」


ユータは舌を出してケータを馬鹿にする。


「ふふっ、面白い勇者様ですね。明日からケータをよろしくお願い致します」


「まあアリスの頼みなら仕方ないか」



ユータが言うとケータが大声で言った。


「お前みたいな奴に習うのやだね!!」


ガン!!


「いっでーーー!!! な、何だよ今度は!!」


ユータは再びケータの頭を殴ると言った。



「これから人に教えを乞うのに何だその態度は。お前は性格から叩き直さんといかんな」


「ユータさん、是非お願いします」


女王アリスはユータを見つめて言った。


「美しい女王の頼みとあらば……」


「まあ、お上手で……」



アリスは頬を赤らめて言う。


「くっそ……、分かったよ。母様の命令だから仕方ない……」


偉そうに振舞うユータをケータは不満そうに眺めた。






「で、ここが食堂。腹減ったらいつでも来い……、でそこが……」


ケータは母親に言われユータに城内の案内をしていた。



「勇者ユータで~す!! い~や、城内は美人ばっかり!! マケータ! 綺麗なお嬢さん!!」


「くっ」


「わお! 美しいお姫様。僕はユータだよ」



「お、おい!」


堪り兼ねたケータが言う。


「何だよガキ、うるさいな」



「お前何をしてるんだ。俺の説明聞いていたか?」


「当たり前だろ。そんでちゃんとみんなに挨拶もしている」


「女だけにか?」


「ガキは余計な詮索をしなくていいんだ」



ケータはムッとして言う。


「一体お前何なんだ、くそっ」


「勇者だ」


「どこがだよ!」



「あ! 綺麗なお嬢さん~!! お尻にゴミが……」


「きゃあ!」


バン!!


「ひえ~、こりゃ魔物の攻撃より効くなあ~」



ケータはお尻を触って殴られているユータを見て、こんな奴から一体何を習えばいいのかと強く思った。

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