4.姫を探して三千里?

「え、枯れ葉? そんなの山に行けばあるんじゃない?」


「ミイラ男? そうねえ、確かに最近時々目にするわ。仮装でも流行ってるの?」


「え? マケータ? 何に負けたの?」



ユータとモブはそれから数日街でカレハについて聞き込みを行ったが、これと言った有力な情報は得られなかった。




「そのカレハってのは普段街になんか繰り出さなかったんじゃないのか?」


一日中歩いて疲れ果てたユータがモブに言う。


「確かに、カレハちゃんはお嬢様なのでずっと部屋にいたような。求婚者を探す時も家に呼んでいたし……」


「そうか……、一度屋敷に戻ってあの当主に聞いてみるか」


そう言うとユータとモブは当主の館に向かった。




「カレハですか? はい、敷地内の離れに住んでおりますが……」


「はっ!?」


屋敷に戻り当主にカレハの居場所について聞いたユータはその回答に唖然とした。


「何だよ、先に言えよ、ここにいるなら……」


ユータが不満そうに言うと当主が答えた。


「いえ、特に何も聞かれなかったので……、皆さんご存じかと……」


「知る訳ねえじゃんか、来たばかりの俺が……」


「それは大変失礼しました。カレハは自身の容姿を気にしてもうずっと外には出ておりません」


ユータが言う。



「そんなに容姿が気になるなら美容整形でも紹介しようか。顔の広い奴がいるんで聞いてみてもいいぞ」


「そうですか、まあするかしないかは本人に任せるとして、そう言う選択肢があるのはいいかもしれません」


「分かった。ちょっと待ってろ」


ユータはそう言うと道具袋から【もしもしでんわ】を取り出した。



「あ、もしもし。ハーゲンさん? ユータです」


ユータは大勇者ハーゲンに電話をした。


「えっ? 髪? 問題ありませんよ。それよりいい美容整形を知っていれば紹介して……」


「……いや、ハゲじゃない。そもそもハゲは病院じゃ治らんだろ」


「いやだからハゲなんて言ってない。……あ、言ったか。もういいじゃあな」


ユータはそう言うと電話を切った。

不安そうに見つめる当主とモブ。ユータが言う。



「よしこれで大丈夫だ」


「全然、大丈夫そうに見えないんですが……」


「何、心配ないって。毛はないが頼りにはなる。それより早速その離れに行こうか」


そう言うユータに当主が慌てて言った。



「い、今から離れに行かれるんでしょうか?」


「そうだが、どうした?」


「もう夕刻。明日の朝にされた方が……」


「何で?」


「はい、ここからだと丸一日以上かかりますので……」


「はっ!?」


驚くユータに当主が続ける。


「離れと言っても山ふたつほど先にありますので……」


「何だそりゃ、離れすぎだろ。離れだけに」


「はあ……」


ユータとモブは仕方ないので今日は休養と準備を行い、翌朝敷地内にあるその遠い離れに向かって出発した。




「しかし広い敷地だな……、当主自身もどの位あるのか分からないって言ってたし」


広い山を歩きながらユータがつぶやく。


「そうですね。魔物も出るとかで物騒な敷地です」


「うむ」



半日以上歩き続けているが、ひたすら山の景色が続く。そしてユータは最初薄かった魔物の気配が次第に強くなっていることに気付いた。


「モブ、剣は使えそうか?」


「いや、多分ダメかも……」


「山にも出るぞ、魔物。準備しておけ」


「ひ、ひえ~」



そう言うユータ達の前に突如魔物が現れた。


「ユ、ユータさん、ま、ま、魔物!!!」


現れたのは木の容姿をした魔物。ほとんど邪悪さを感じない。勇者学校で習ったのだが、無害な生物でも時折その容姿から勝手に魔物にされてしまうことがある。



「大丈夫だ、あいつは無害……」


「きえええええええ!!!」


ユータが言う前にゆっくり移動する木の魔物に対してモブは勢いよく斬りかかった。


「お、おい、ちょっと待てって!!」


コン!


声だけで力なきモブの剣は木の魔物の幹に当たって簡単に弾き返された。怒る魔物。その枝がモブを襲う。



ドン!!


「ぐわっ!!」


太い枝の攻撃を食らって吹き飛ぶモブ。木の魔物はそのまま動きを速めて逃げて行った。



「痛たたたた……」


うずくまるモブ。ユータが声を掛ける。


「見た目で決めつけるな。あいつは無害だ。邪悪さがないだろ?」


モブが立ち上がって答える。


「そ、そうですね。僕としたことが……見た目で判断するとは……。魔物に遭遇してちょっと興奮してしまいました。何事もまずは友好的に……」


「ただ、お前のその後ろの奴は気をつけた方がいい……」



いつの間にかモブの後ろにオオカミのような魔物が現れ牙を剥いて唸っている。後ろを振り返り魔物に気付いたモブが言う。


「ああ大丈夫ですよ、ユータさん。魔物には友好的に……」


そう言ってオオカミの魔物に手を差し出すモブ。


「バ、バカやめろ!!」


慌てて叫ぶユータだが、それは少し遅かった。


ガブ!!


「ぎゃっ!!」



オオカミの魔物は勢いよく差し出されたモブの手に噛みついた。ユータは抜刀し魔物に斬りかかる。


「ふん!」


ドーーン!!


ユータの鋭い剣を受けた魔物はそのまま遠くへ吹き飛んで行った。



「大丈夫か、モブ?」


「い、痛いよ~」


泣きながら手を抑えるモブ。ユータは道具袋から薬草を取り出すとその手に塗った。

痛みが治まり立ち上がるモブ。


「あ、ありがとうございます。助かりました」


「あれはどう見てもまずい奴だろ。邪気ぷんぷん出てたし」


ユータに言われモブが答える。


「その辺が良く分からなくて……」


「そうか、ある意味それはそれで貴重なキャラだな」


「は?」


不思議がるモブにユータは笑って応えた。




休憩を取りながらさらに半日ほど歩くとようやくカレハがいると言う離れが見えてきた。


「ユータさん、見えました! あれが離れですよ!!」


モブが指差す先には離れと呼ぶには立派過ぎる建物が立っていた。そしてその離れの門の前で大きな魔物と戦う一人の男が見える。



「おい、誰か戦っているぞ!」


「はい、あれは……、クーレさん?」


ユータ達が近付くとそれはやはり大きな魔物相手にひとり戦うクーレであった。


「はあ、はあ」


かなり息が荒い。そして双方それなりの傷を負っている。


「お、おい、大丈夫……」


ユータが声を掛けようとするとクーレは大声で剣技を叫んだ。



「くらえ! 【クーレ一刀流】かねのモージャ斬り!!!」


クーレはそう言うと大声を出して飛び上がり魔物に斬りかかった。


「はああーーー!!!」



ドーーン!!


クーレの剣は見事に魔物を一刀両断にすると地面に降り立った。魔物は音を立てて消え去った。


(名前はイカレてるが、剣の腕はそれなりにはあるな……)


ユータはクーレの剣を見て素直に思った。



「クーレさん、大丈夫ですか?」


はあはあと息をするクーレにモブが近寄る。


「ユーは……、ああ大丈夫だ。この先にマイフィアンセがいる。ミーは先に!」


そう言うとクーレは足早に離れに入って行った。


「ユータさん、僕らも急いで……」



そう言いかけ振り返ったモブの目に信じられないものが映り込んだ。

それは先ほどの魔物の倍はある巨大な魔物。その巨大な魔物が二人の前に立つ。ユータが剣を抜きモブに言う。


「モブ、に戦うぞ」


「う、うん……」


モブはガタガタと全身震えながら剣を抜いた。

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