2.カネアール家
「ここがその依頼主の家か? でかいな」
ユータはリリアから受け取った依頼指示書にある依頼主の家の前に来ていた。
ユータが再び訪れた異世界。場所は【サイク王国】という国である。
ただ今回の依頼は国王からではなく、この目の前の家の主から。通常国家レベルでの依頼となる派遣勇者なのだが、それを個人で頼めるとは相当なお金持ちなのであろう。ユータは依頼指示書を改めて見た。
依頼主:カネアール家当主(サイク王国)
依頼内容:魔物の討伐
場所:カネアール家
報酬:娘
「【報酬:娘】って何だよ……」
ユータは戸惑いながらも門のチャイムを鳴らすと、使用人らしき人物が現れ邸内へ通された。そこには当主らしき人物がいる。ユータの姿を見て挨拶をした。
「お待ちしておりました。ええっと、【適当に学校を……(中略)……駆け出し勇者】ユータ殿よ」
当主は手にした書面を必死になって読み上げた。
「すまない、ふざけた名前で」
「よいよい。覚えらんが印象には残る」
「ははは……」
しかしユータはそんな会話よりも当主のその恰好の方が気になっていた。当主が言う。
「この姿……ですね、順にお話ししましょう」
当主はそう言うとユータの他に先に部屋にいた二人の男と共に椅子に座るよう勧めた。ユータと他の男の三人が椅子に座る。
部屋は全体的に木目が美しい木の部屋で、中央に置かれた分厚いこれまた木のテーブルが美しい。落ち着いた感じでありここならゆっくり話ができそうだ。
「それではまずは皆さんに自己紹介して頂きましょうか」
そう言うと当主はテーブル中央に座った金髪の男を指名した。
「皆さんごきげんよう。ミーのネームはクーレ・ザ・イホウ。
ユータは剣で殴りたくなる衝動を必死に堪えて聞いた。続いてもう一人の男が話始める。
「ぼ、僕はモブ・エキストラン。カ、カレハちゃんの幼馴染で……、そのずっと彼女が好きでした……」
モブは顔を赤らめながら話をした。最後にユータが言う。
「俺は派遣勇者のユータ。異世界から来た。よろしく」
当主はコホンと軽く咳をすると話始めた。
「ええっと、それではまずこの姿ですが、皆さんのご想像通り娘の為に……こうなりました」
当主は顔を包帯でぐるぐる巻きにしており、その姿は顔だけミイラ男。目や口などは見えているがその見た目はインパクトのあるものであった。
「ちょっと待て。娘の為ってどういうことだ、まさか……?」
当主はユータを見て言った。
「ええ、お恥ずかしながら娘は魔物……のようになってしまい、その……恐らくなのですが、娘を見て、それを醜いと思うと顔がこのように変形してしまうようになって……」
ユータは少し考えて言った。
「と言うことは、あんたは娘に対して醜いって思ったのか?」
「……はい」
当主は弱々しく答えた。
「そんなにあんたの娘はブスになゃったのか?」
「それは……」
バン!
クーレが机を叩いて怒鳴った。
「ミーのフィアンセにブスとはなんと失礼! 許さないぞ、ユー!!」
クーレが怒り心頭で叫んでいる。
「でもその通りなんだろ、だから顔が変化したんだろ? 俺は事実を聞いている」
「くーーー!! いつかユーをぶった切ってやる!」
「はいはい。で、依頼ってのは何なんだ?」
当主は大きく息をつくと皆に言った。
「依頼内容はひとつ、娘の救出です。魔物のようになってしまった娘をどうか元に戻して欲しい。報酬は望むだけ差し上げます。そして娘と一緒になる権利を……」
「金銭的な報酬ってのは分かるが、娘を報酬にするってのはどうかと思うぞ」
ユータが言う。当主が答える。
「もちろん娘の意思は尊重しますが、娘自身結婚を強く望んでおりまして……。親としても娘を助けてくれるような方に一緒になって欲しいと願っております」
「そうか」
「と言うことで、ミーは頑張るよ。ダディ」
クーレがチャラけた感じで言う。
「ぼ、僕も頑張ります!!!」
モブも声を震わせながら言う。
「報酬も望むだけって、あんた金持ちなんだな」
ユータ言うと当主がすぐに答えた。
「ええ、我がカネアール家の資産は、サイク王国の国家予算に匹敵する規模です。多少の依頼料は大したことありません」
「ふーん、金持ちなんだな。で、娘が魔物ってのになった理由は何なんだ?」
ユータの質問に当主は下を向いて言った。
「それが分かりません……、何か悪い魔物にでも取りつかれたんでしょうか……。娘が無事かどうかも心配です」
力なく落ち込む当主にクーレが言った。
「ノンプロブレム、ダディ! ミーは【クーレ一刀流】の免許皆伝。このマイソードでバッドな奴らもグイングインよ!!」
クーレはそう言うと腰につけた剣を頭上に振り上げ、腰をくねくねと回し始めた。当主が言う。
「おお、何と頼もしきか、クーレ殿! その剣で是非娘の救出をお願いしたい!!」
その様子を口を開けて見ていたモブも言う。
「ぼ、僕もカレハちゃんへの想いはずっと変わらない。この身がどうなろうとカレハちゃんを助けます!」
「その【枯れ葉ちゃん】ってのが娘の名前なんだな?」
椅子に座って聞いていたユータがモブに聞く。
「はい、カレハちゃんが名前です。ただイントネーションが違いますよ。カレハです」
「分かった。しかしもっとちゃんとした名前を付けられなかったのかよ」
ユータが言うと当主が答えた。
「亡き妻が紅葉好きでして……、それでこのような名前を……」
「だったらモミジとかカエデとかでも良かったろうに、ちょっとずれてんな」
「なるほど、気付きませんでした。……ええっと、その他何かお聞きしたいことがなければこれで終わりにしますが。皆さんよろしくお願い致します」
当主は最後にそう言うと深々と頭を下げた。
「さて、じゃあまずは聞き込みからだな」
ユータはそう言うと近くの街に向かった。
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