第四章「チャン王国」
1.共闘!?大勇者
「えっ? 共闘?」
勇者派遣本部に来たユータはリリアに向って言った。
「またあの
リリアが笑って答える。
「あれは本当に偶然。今度は違うわよ。実はね……、聞いて驚くな【大勇者様】だ!」
「大勇者?」
リリアはニコニコしている。少し首を傾げるユータ。そこヘレナがやって来て言った。
「何々? 大勇者がどうしたって?」
ユータが答える。
「いや、次の依頼だけど大勇者との共闘はどうかって言われて……」
「へえー、凄いじゃん。大勇者なんてそうお目にかかれないしね」
「どうする? ユータ君」
ユータは腕組みをして考える。
「俺じゃないといけないのか、面倒だなあ。もっとほかに中級や上級勇者がいるだろう」
「う~ん、みんなねえ、大勇者との共闘なので尻込みしたのか中々人が集まらなくて……」
リリアが答える。ユータが言う。
「だからってよ、俺みたいな【へなちょこ勇者】に話が来るのもおかしくねえか?」
リリアが手を叩ていて言う。
「あ、そうそう、ユータ君昇級したよ。言うの忘れてた」
「おいおい、そう言うのはすぐに言えよ。で、次のクラスは何だ?」
ユータが身を乗り出して聞く。
「次はね……、何と……、【へっぽこ勇者】だ!!」
「おい」
ユータは半ば諦めて言う。
「【へなちょこ勇者】と【へっぽこ勇者】って、どちらが上か分からんだろ? 何だそのネーミングセンス。お前が今決めたんじゃないのか?」
リリアの顔が豹変する。
「あぁ? 文句あるのか。黙って受けろや、このへっぽごがああ!!」
ユータは敬礼をして答える。
「はい! 了解です。へっぽこユータ、頑張ります!!」
「ぷっ」
隣で笑うレナ。
リリアは笑顔に戻って聞く。
「で、どうするんだ、共闘。受けるんか!!」
「はい! 喜んで承ります」
ユータは脅された勢いで返事をした。
「了解~! じゃあ呼ぶね、大勇者」
「はっ? ここにいるのか?」
ユータが驚いて聞くと、リリアは受付奥に向かって大勇者の名前を呼んだ。
「大勇者、ハーゲン様~。共闘勇者が見つかりましたよ~」
ユータとレナは顔を見合して言った。
「大勇者……」
「……ハーゲン?」
一瞬空気が固まる。
「な、なんか魔王みたいな名前だな」
「うん……」
ユータが小さな声でつぶやくとレナも頷いた。
「おう、決まったか」
奥から太く低い声で返事がする。そしてゆっくりと歩いて現れたのは、ユータ達も見上げるほどの体格の良い大男であった。
全身に鉄の鎧を着ている。ただ、服は着ず直接裸に鎧を装着しているようで、はみ出した体毛が目立つ。そして頭に被った立派な鉄兜が印象的。女受けは悪そうだがその威圧感は流石に大勇者を名乗るだけのことはあった。
「ハーゲンさん、こちらが共闘するユータ君です」
リリアがユータをハーゲンに紹介する。
「ユータか、よろしくハーゲンだ」
ハーゲンはそう言うと頭の鉄兜を取ってユータに挨拶をした。
しかしユータはその挨拶より兜が取られたハーゲンの頭に目が行ってしまった。見事に一本の毛もなかった。
(ス、スキンヘッドだと? いや、ハゲ!? ……ハゲだから、ハーゲン!?)
ユータはその安易なネーミングに、噴き出して笑いそうになるのを必死にそして冷静になって耐えた。しかし差し出された手に応えようとふとハーゲンを見上げると、明らかに怒りのオーラを発している。
(何っ? 笑ったのがバレたか? いやそんなはずはない。顔は冷静に、表情筋をピクリとも動かさずに応じたはず。まさか、大勇者になると相手の心まで読めるのか??)
ユータは大勇者ハーゲンの圧力をひしひしと感じながらふと横を見ると、ゲラゲラと大笑いするレナが見えた。
「おいっ!!」
レナに怒鳴るユータ。レナが答える。
「だ、だって、ハゲだからハーゲン? ぎゃはははは!! ウケる、マジウケるーー!!」
青くなるユータ。更に怒りのオーラを発するハーゲン。慌ててリリアが話題を変える。
「あ、そうそう。それで今回の依頼だけど……」
(ナイス! リリア)
ユータは内心ほっとした。ハーゲンの怒りのオーラも少し和らぐ。
「ええっと、依頼内容は……【人探し】だね」
「人探し?」
ユータが訝しそうに聞き直す。
「そう、人探しになってるわ」
「大勇者が受ける依頼だから、王族か何かの人探しか?」
ユータが尋ねるとリリアが答えた。
「ううん、赤ちゃん。それも一般人の」
「はっ?」
ユータは驚く。笑い終えたレナがリリアに聞く。
「大勇者に依頼って言うんで特殊かと思ったら、意外と地味な依頼ね」
リリアが答える。
「そうね、まあでも特殊依頼ってのは間違いないわね。ただ赤ちゃんだけど、ひとりじゃないの。大勢いなくなったみたい」
「大勢?」
ユータが聞く。
「うん、詳細は直接依頼主に聞いてね。はい、ハーゲンさん、これ依頼書」
「うむ」
いつの間にか兜を被ったハーゲンがリリアから依頼指示書を受け取る。
「じゃあユータ君、頑張ってね~。ハーゲンさんよろしくね~」
ハーゲンは依頼書を懐にしまうとユータに言った。
「じゃあ行くぞ、ユータ」
「お、おう」
ユータとハーゲンは転送用ドアに消えて行った。
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