2.チャン王国へ
ユータが目を開けるといつも通りそこは異世界の城であった。ただ違うのは青い空が見えることと、隣にハゲのハーゲンが一緒にいることである。
「何奴! 怪しい者奴らめ!!」
丁寧に植えられた木々、周りを囲む城壁、そして同じく周りを囲む兵士達。
突然怪しい男が二人も城内に現れれば、剣や槍のひとつでも向けたくなるのも当然であろう。ユータが言う。
「いやー、我々は……」
「ふんがああああーーー!!」
突然の叫び声と共にハーゲンが兵士達に向かっていき、次々と彼らを持ち上げては投げ飛ばしていく。唖然とするユータ。しかし見ている訳にはいかない。
「や、やめろーーーっ!! ハゲーーー!!」
そう言いながらユータはハーゲンに飛び蹴りを食らわせる。
「ぐはっ!」
前のめりに倒れるハーゲン。周りの兵士達は恐れながら後退しこちらの様子を見る。
「何やってんだよ、あんた! 突然襲い掛かったら吃驚するだろが!!」
ユータに言われたハーゲンが立ち上がり答える。
「ああ、すまない。剣や槍を向けられると自然と戦闘態勢に入る」
「何だそりゃ……」
頭を抱えるユータにハーゲンが聞く。
「ところでお前、今ハゲと言ったか?」
ユータは満面の笑みで答える。
「とんでもございません、大勇者ハーゲン様」
そう言うとユータは近くの兵士に事情を話し、国王に取り次ぐよう依頼した。
「お前、中々手際がいいな。はっはははあああ」
ハーゲンが満足そうに言う。ユータが答える。
「と言うよりあんたの方が場数踏んでいるはずだろ? 毎回こんな風に暴れてるのか?」
ハーゲンは相変わらず笑っている。しばらくすると国王の使い者がやって来て謁見の間に通された。
国王はユータ達を見て言う。
「おお、そなたらが派遣勇者か。二人も来てくれてよかったわい。さすが高い前金を支払ったことだけはある」
ユータは返答に困ったが、ハーゲンが代わりに言い出した。
「で、国王。今回の依頼を詳しく伺いたい」
鎧兜を着込みその低い声だけ聞いていれば、何と頼もしい男に見えるだろうとユータは思った。国王は軽く咳をしてから話し始めた。
「実は、ここ最近我が国に生まれる赤ん坊が次々とさらわれる事件が起こっておる。本来なら我が国の警察隊によって捜査されるべきなのだが何せ今は隣国と戦争中、無駄な人員はそちらに
「なるほど、で、我々勇者を?」
ハーゲンが聞くと国王が答えた。
「そうじゃ。戦争と共に魔物の活動も活発になってきており、万が一奴らが絡んでいるとなれば素人では手に負えなくなる」
「大体話は分かった。
ハーゲンは自信たっぷりに言い放った。さすがに大勇者だけありその姿は頼もしい。
「ええ、これ。赤ん坊をさらわれた時の状況を勇者様達にお話しせよ」
国王の傍で控えていた側近らしき人物がはいと返事をすると、手にしていたファイルを開けてユータ達に話始めた。
「ええっと、まず最初ですが夫婦と赤ん坊で散歩をしていたところ、突然何者かに泥を掛けられたそうです」
「うん」
ハーゲンは真剣に聞いている。
「で、偶然近くに温泉があったので入ろうか迷っているとダークエルフらしき女が現れて『赤ん坊を預かっておくので入って来い』と言われたそうです」
「……で?」
ユータが聞く。
「はい、そして温泉を満喫した夫婦が戻って来ると誰もいなくなっていたそうです」
「何と哀れな夫婦じゃ。続けよ」
国王は側近に報告を続けさせた。
「は、では次ですが、子育てが大変だった若い夫婦が息抜きに旅行に行きたいと悩んでいたところ、偶然現れたダークエルフの女に『赤ちゃんを預かるから行ってこい』と言われ預けたそうですが、やはり戻って来るとその女とは連絡が取れなくなってしまったそうです」
「うう、これまた哀れな若夫婦……」
ハーゲンは腕で涙を拭きながら同情する。
「おい」
たまりかねたユータが言う。
「それ、どう考えてもそのダークエルフの女が犯人じゃねえか。それに赤ちゃんがいなくなったのもほぼ全部夫婦が悪い。そもそも戦時中に旅行ってあり得んだろ?」
国王が答える。
「まあ、確かに彼らに非がないとは言えないが、それでも赤ん坊を失った悲しみは計り知れない。是非とも勇者様達にお助け頂きたい、前金も戻らんし」
「らしいこと言って、最後にさらっと本音が出たな。どうする? ハーゲンのおっさん」
ハーゲンはうずくまって号泣している。
「おい、まだ泣いてたんか!! このハゲ!」
ハーゲンは立ち上がって国王に言った。
「国王よ、ご安心なされ。このハーゲン、必ずや、必ずや
「おお、何と頼もしい勇者だ! 期待しておるぞ!」
「はっ!」
そう言うとハーゲンとユータは謁見の間を退出した。
王城を歩きながらユータはハーゲンに尋ねる。
「なあ、ほぼ間違いなくダークエルフの女の仕業だと思うが、どうするんだこれから?」
ハーゲンは静かな声で答えた。
「ひとつ言おうと思っていたのだが、私はハゲじゃないハーゲンだ」
ユータは既に帰りたくなっていた。
夕刻過ぎ、ユータとハーゲンは夕食の為に城下町に向かった。戦時中ではあるようだが、大通りにはそれなりの人が歩いている。
ハーゲンは怪しい呼び込みに惹かれて小さなバーに入っていく。またバーか、ユータは内心不安に思った。
「いらっしゃ~い」
店内は暗くて良く分からない。声を掛けてきたのは女のようだが声が低い。と言うより男の声だ。酒や女は好きだがそっちの趣味はない。ユータは背筋がぞっとした。
ハーゲンは頷きながらどんどん入っていき、奥のソファ席に腰かけた。入り口で躊躇っているユータに手招きをする。仕方なしにソファーに座るユータ。
「いらっしゃ~い。あら可愛い坊や。こちらはダンディなオ・ジ・様」
数名の女の格好をした男達がやって来てユータ達のソファーに一緒に座った。
「はははっ、可愛いベイビー達だ。がはははは!!」
ハーゲンは既に上機嫌である。『ベイビー違いだろ、このハゲ!』とユータは内心突っ込んだ。メニューを見ながら次々と酒を注文するハーゲン。ユータはもう既に頭が痛くなっていた。
「かんぱ~い!!」
ハーゲンはガバガバと酒を飲み続ける。両隣にオカマを抱き抱えて上機嫌だ。
「あ~ら、分厚い胸板。そしてこの頭もす・て・き」
既に鉄兜も取られオカマ達に頭を撫でられながらも楽しそうに酒を飲むハーゲン。ユータはトイレに行くふりをして帰ろうとしていた。不意にハーゲンが言う。
「ところで可愛いベイビー達よ。お前達と同じぐらい可愛い本物のベイビーがさらわれているようだが、何か知らないか?」
ユータの顔が真剣になる。オカマが答える。
「知ってるわよ。でもどうしようかな。オジ様がもっと可愛がってくれたら教えてあ・げ・る」
ハーゲンは嬉しそうな顔をして答える。
「がはははああ、なに当然だ! 言われなくても朝まで可愛がってやるぞ!!」
オカマ達が騒ぎ始める。真っ青になるユータ。オカマが言う。
「郊外の岩山で、赤ちゃんを運び込むダークエルフの女ってのがいるって話よ」
「え?」
ユータはオカマの顔を見る。笑いながら酒を飲むハーゲン。こんな簡単に居場所が分かってしまった。もしかして全てお見通しだったのかそう思ってハーゲンを見たが、やはりその姿はただの【ハゲのおっさん】でしかなかった。ハーゲンが言う。
「おい、ユータ。飯食ったらもう
思わぬところでハーゲンから助け舟が出たユータは、夕食を食べるとすぐに王城の部屋へ戻った。結局ハーゲンは朝まで帰ってこなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます