4.勇者メルちゃん

「えーーっ、どうしてダメなの?」


城門前、メルと話すユータ。メルが不満そうな声でユータに言う。ユータが強い口調で言い返す。


「当たり前だろ。昨晩遅くまで絡みやがって! おかげで誤解されるし、寝不足だし。一緒に行動なんてできるか!」


メルが泣きそうになって言う。


「やっぱり私は捨てられるのね……」


「もういい。じゃあな……」


ユータは特に言い返しもせずひとり荒野に去って行った。


「酷い、本当に捨てて行くなんて……。はあ……」


メルは仕方なしにひとりで行くことにした。




一時間ほど歩くとメルは広い草原に出た。


「はあーー、気持ちいい天気」


メルがそう言って両手を上げ背伸びをすると、遠くの方に魔物の群れがやって来るのが見えた。


「げっ! あれってもしかして……」


メルが道具袋から綺麗な宝玉を取り出していると、その魔物群れはメルの近くまでやって来た。


「人間か? 殺せ!」


その魔物の中央にいたひと際大きな魔物が、配下らしき魔物に命令する。


「はっ! 魔王様!!」


配下が答える。



――魔王!? やばっ、本当に遭遇しちゃった……


「ちょ、ちょっと待って。私は異世界から来た者なんだけど、いきなり殺しちゃうの?」


魔王が答える。


「異世界? まさか勇者じゃあるまいな?」


メルはドキッとしたが、すぐに否定した。


「いや、ふ、普通の人間です……」


魔王は腕組みをして言う。


「普通の人間が、それほど魔力を持っているか!!!」



魔王の配下の魔物がメルに襲い掛かる。

メルはちっと舌打ちすると、宝玉を前にかざし技の詠唱を始めた。


「48宝技ほうぎがひとつ・10の【勇技】火炎烈風弾かえんれっぷうだん!!」


メルが詠唱を終えると彼女の周りに幾つもの炎の玉が現れ、そして魔物目指して放たれた。


ドン、ドン、ドーーン!!



――えっ? 小さい!?


メルはいつもよりもはるかに小さい炎弾に戸惑った。そして何故か体も重い。

案の定、炎弾の攻撃を受けた魔物もそれほどダメージが入らなかったようでそのまま突進してくる。メルは再度詠唱を行う。



「48宝技がひとつ・11の【勇技】氷結ひょうけつの大津波!!」


メルが宝玉を水平に動かすとその前方に氷の波ができ、それは波となって走って来る魔物に襲い掛かった。


バーン!


魔物達はメルが作り出した氷の波を易々と打ち壊し、さらに進んでくる。



――えっ? また小さい。あれじゃただの氷の小波……、ど、どうなってるの?


メルの間合いまで来る魔物達。剣や斧、こん棒で一斉にメルを攻撃し始める。


ブン!


寸前のところで攻撃をかわすメル。しかしこん棒の攻撃のひとつがメルのお腹に入った。


ドン!


「ぐっ!!」


メルは数メートル横に吹き飛ばされる。

両膝をつくメル。口からは血が流れ、お腹にはズンと言う痛みが広がる。


「……どうして。力が出ない」


メルに向かって群れで襲い掛かる魔物達。

メルは宝玉を前にかかげるが、手が震えておぼつかない。魔物達はメルの前までやって来るとその大きな剣を振り上げた。



――助けて…… ユータ君……



ガン!!


「はあああーーー!!」


ドーーーン!!


メルが目を開けると、そこにはひとりの勇者が立っていた。


「ユータ……君……?」



「大丈夫か? これ飲んどけ」


ユータはそう言うと、メルに薬草を投げた。


「わ、わ、わっ!」


バリーン!


「あ!」


「え? どうした?」


ユータがメルを見ると、彼女が持っていた宝玉が落ちて足元にあった石に当たって割れていた。


「ど、どうしよう……、宝玉が……」


「お、俺は悪くないぞ。落としたのはお前だからな。 あ、そうだ。代わりにこれをやる」


ユータは道具袋から金色に輝く宝玉を取り出しメルに渡して言った。


「魔王から貰った宝玉だ。魔力がある。使え」


メルは宝玉を持って怪しんで見る。


「魔王のって……、大丈夫なの?」


ユータは微笑んで答えた。


「だ、大丈夫だろ。でも今度は割るなよ。割ったら魔王Aに食べられるぞ」


「そ、そうやって私をからかって、心を弄んで、そしてまたカラダも弄ぶのね」


メルが答えると、ユータが言う。


「それだけ冗談が言えれば大丈夫だな」


メルが前方を指差して言う。


「ユータ君、前!」



ガン!


ユータは魔物の攻撃を盾で受け止めた。


「はっ!」


ユータは魔物を真正面から剣で殴りつけた。そして次々に襲う魔物達をどんどん殴っては失神させていく。ユータがメルに言う。


「気をつけろメル。ここでは俺達の力が元居た世界の能力に比例して弱くなる」


メルが驚いた顔をして言う。


「そうなの!? だから魔力が出ないんだ……。でもユータ君は?」


ユータは剣を構えて言う。


「大丈夫。これ、最強の剣だから」


メルはその意味が良く分からなかったが、魔王軍を目の前にしても全くいつもと変わらないユータに安心した。ユータは魔王の前まで歩いて行って言った。



「おい、魔王。ムダな戦いはよせ。お前たちのことは知っている。後は俺に任せろ」


魔王はメルが手にした黄金の宝玉を目にすると、怒りの表情をして言った。


「お前!! エー様に何を!? 許さんぞーーーーっ!!!!」


魔王は大声を上げると、そのまま真っすぐユータに向かって突進してきた。


「はあ、どうしてお前らはそう脳筋野郎ばかりなんだ?」


ユータは剣を構える。


「48剣技がひとつ・23の【勇技】水平剣心斬!!!」


ユータは魔王に向かって走ると、そのまま水平に思い切り剣を振った。


ドーーーン!!


「ぐわーーー!!!」


魔王はユータの攻撃受け後方に吹き飛ばされる。


「ぐおおおおおーーーーー!!!!」


あまりの痛さからか魔王は口から青い血を吐き、のた打ち回って叫んでいる。ユータは魔王の元まで行き剣を突き付けて言う。


「話を聞け、この脳筋野郎。魔王Aは俺に忠誠を誓ってあの玉を渡したんだ」


「え?」


魔王の動きが止まる。


「ほ、本当か? エー様が忠誠を?」


ユータはこれまでの経緯を説明した。

魔王は話を聞き終わると膝をついて頭を下げて言った。


「勇者様。私の勘違い、心よりお詫び致す。そしてどうか、どうか我らをお救い下さい、勇者様」


ユータは剣を収めて言う。


「分かった。どこまでできるか分からんが、平和の為に俺も一服脱いで裸になろう」


魔王は言葉の意味がよく分からなかったが取りあえず、懐から黄金の宝玉を取り出しユータに捧げた。



「ユータ様、これは私、魔王ビーの忠誠の証です。どうぞお取りください」


ユータは溜息をついて言った。


「分かったよ、貰っておく。ところでお前、魔王Bっていうんか」


「はっ! エー様の弟分でございます」


「ほう、魔王Aの弟分か」


ユータが宝玉を道具袋に入れようとすると、中にあった【もしもしでんわ】が鳴った。


「うわっ! 急に鳴ったぞ。ええっと、これを押せばいいんだな」


ユータが電話に出ると急に大きな声がした。


「ワシだ! 国王だ! 聞こえるかーー!!」


随分声が大きい。


「どうしたんだよ?」


「え? 何? 聞こえん!」


ユータは再度大きな声で言うと国王は答えた。


「大変じゃ! 魔王軍が王城に攻めてきた! 至急戻ってくれ!!」


「そうか! 分かった、すぐ帰る。少し耐えてくれ!」


「え? 何? カエル?」


ユータは電話を投げ捨てようかと思ったが、もう一度大きな声で言い直した。国王が答える。


「急いでくれ! あ、あとワシの若い頃じゃが……」


ツーツー


ユータは電話を切った。


「メル、急いで王城に戻るぞ。魔王が襲って来ている」


「え? うん、分かった」



ユータは魔王ビーに言う。


「おい、魔王B。もう一人の魔王が王城を襲いだした。お前は魔王Aを呼んですぐ王城まで来い。ただしお前ら二人だけだ。配下の魔物は連れて来るな。混乱する」


魔王ビーは片膝をついて答える。


「はっ、我が主よ」


魔王ビーは魔物を連れて戻っていく。


「行くぞ、メル」


「うん!」


ユータもメルと共に王城へ急いだ。

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