第一章「ライム王国」
1.初めての異世界
「じゃあ、これよろしく!!」
ユータは受付嬢リリアに言われた通り、依頼指示書をドアの前に立つ職員に渡した。職員は紙を受け取ると、そこに記載された番号をドア横に付けられた番号のボタンを押して行く。
「さあ、どうぞ。勇者ユータ様」
職員がガチャっとドアを開けるとそこには七色の空間が広がっていた。
「おお、なんかすげー。これ入っちゃっても大丈夫なのか」
「どうぞ」
職員に言われて一歩踏み出す。
ガチャ。ドアが閉まった。ユータの周りを七色の光が包んでいく……
ユータが目を開けると、そこは全く知らない土地であった。
「……帰り方聞くの忘れた。どうやって帰るのかな? まあいいか」
周りをきょろきょろと見回す。
少し曇った空に、遠くには緑の山々が見える。草や木も普通に生えている。特段驚くべき点はない。
ただ少しだけ異臭がする。何の匂いだろうか、分からない。近くに流れている小川は色が黒く濁っている。その匂いなのかも知れない。
目の前には高い城壁に囲まれた大きな建物がある。大きな門も見える。見た感じ【城塞都市】ってところか。
ユータは依頼指示書の内容を確認した。
依頼主:ライム王国の王様
依頼内容:スライム魔王の討伐
場所:ライム王国
報酬:まあまあ
「いい加減だな……。まあとりあえず行ってみるか」
ユータは城壁にある大きな門へ向かった。
「おーい、ここ入ってもいいのかー?」
門の前に立つ門番らしき人に尋ねた。
「……人間か? まあよい」
先ずは無事に入ることができた。
城壁内は大きな街が広がっている。奥に城が見えるのでさしずめ城下町であろう。建物は多くが木造で高くても二階建て程度。道には馬車が走り、色々な人が忙しそうに歩いている。
ユータは街の奥にある城に向かった。
「ちょっと待った。お前は誰だ?」
城に入る城門の前で門兵に止められた。
「俺か? ここの国から依頼された派遣勇者だ。王に会いたい」
そう言ってユータは依頼指示書を兵士に見せた。
兵士はうーんと唸ってしばらく依頼書を眺めた後、ユータを城内へ入れた。
城内は物々しい警備である。スライム魔王の襲撃に備えているのだろうか。案内の後についてしばらく階段等を登った後、王の謁見の間に着いた。
国王らしき人物が椅子に座っている。白い髭を生やした老人。まさにザ・王様だ。
「おお、そなたが勇者か!! ……が、ちょっと子供っぽいなあ。大丈夫なのか?」
国王は座りながら話した。ユータが答える。
「これでも歴とした勇者だぞ。この剣が何よりの証拠」
そう言うとユータは学園から貰った装飾だけは立派な勇者の剣を見せた。
「おおっーーー!!」
予想通り周りから歓声が上がる。ユータは誇らしげに剣を鞘に納める。
「これは大変失礼した、勇者殿。間違いなく本物のようだ」
(まあ、ランクは【ちびっこ勇者】なんだけどな……)
ユータは内心思った。
「さて、ではここからが本題じゃ」
国王は難しい顔をして話を続けた。
「実はここ数年、このライム王国に住むスライム達が我々人間に牙を向くようになった。大変恐ろしく、困っておる……」
「なるほど、それで勇者を派遣と……」
ユータが言う。
「そうじゃ。あ、これ、被害者達をここに呼べ」
国王がそう言うと、奥から数名の被害者を名乗る人達が現れた。
「こちらが勇者殿じゃ。申してみ」
国王に言われ、ひとりの女が話し始めた。
「……実は先日、家に帰ってとても疲れたのでお風呂を沸かして入ろうとしたのです……」
「うん、それで?」
「……そうしたら、お風呂が全部スライムだったの!!!!」
「……へっ?」
ユータは唖然とした。
「何と恐ろしや。次の者、言うてみ」
国王に言われて隣にいた男が話し始める。
「はい。今朝、私は食事を終え歯を磨いて口をゆすごうとしたのです……。そうしたら、何とコップの水がスライムだったんです!!!!」
「おお!! 何と恐ろしいことじゃ!! ガクガク!!」
王は顔に手を当てて恐怖を体で表現する。
「……おい、ちょっといいか?」
ユータは被害者達に冷静に尋ねる。
「別にスライムから攻撃を受けて負傷したとか、殺されたとか、ではないんだな?」
被害者達が答える。
「はい」
「ほとんど
国王が答えた。
「今は悪戯レベルかもしれんが、いずれこれが大規模な襲撃にならんとも言えない。だから先手を打っておくのじゃ」
「……う~ん、まあ否定はしないが。なんかしっくり来ないなあ」
「勇者よ! 是非スライム魔王の討伐、頼んだぞ!!」
国王は真剣なようだ。
「分かった。これも平和の為だ。早速明日にでも色々と調べてみるか」
ユータが言うと国王が答えた。
「おお、そうか。やってくれるか。ならば明日の朝、城壁の門に馬車を用意させる。それに乗って魔王城へ行ってくれ」
「はっ? 馬車で魔王城?」
ユータは聞き返す。
「そうじゃ、要らんのか? 他にも依頼した勇者はおるが皆それで行っておるぞ。馬車の方が楽に行けるが嫌か?」
「いや、てっきり苦労して魔物と戦い、ヒイヒイ言いながら荒野を歩いて着くんだと思っていた。そう習っていていたし……」
「……習った?」
国王が聞き返す。
「あ、いや、何でもない。明日の朝、城門ね。そんじゃまた」
ユータは城を後にした。
その夜、ユータはひとりレストランで豪華な食事を楽しんでいた。
「いや〜、美味い! 異世界料理も中々だなあ」
ユータは食べ切れないほどの料理を注文していた。
「本当に美味い。ええっと喉が渇いたなあ。ん? これなに?」
ユータは近くにいたウェイターにメニュー表を指差して聞いた。
「こちらはお酒でございます。【マケータ】と言う果実から作られたこの国自慢の果実酒で、酒名も【マケータ】です」
「……マケータ? なんか縁起の悪い名前だが美味いのか?」
ユータは訝しんで聞く。ウェイターが笑顔で答える。
「当然でございます。大変美味でございます」
「そうか、じゃ、それ貰おうかな。ちなみにこの世界ってお酒に年齢制限ってあるの?」
ウェイターが答える。
「年齢制限? 何故そのようなものが必要なのでしょうか」
ウェイターは真面目に聞いている。
「いや、なんでもない。詰まらぬ事を聞いた。早速マケータを持って来てくれ」
「かしこまりました」
ユータは持って来られた【マケータ】に舌鼓を打つ。
「おお、これまた美味。酒は初めてだが美味いもんだな」
ユータが上機嫌で食事をしていると店の責任者がやってきた。
「お客様、当店をご利用頂きましてありがとうございます。で、大変失礼ながらお支払いの方は大丈夫……でしょうか」
大量の料理を注文した自分を疑っているのだろう。ユータは腰につけた勇者の剣を見せて言った。
「私は勇者ユータである。国王に召喚されて異世界よりやって来た!」
「ははーーーっ」
店の者が平伏す。
「料理の代金も後で城に請求してくれ。大丈夫だ。国王と私は犬猿の仲。何も心配要らない。私は勇者だ!」
もはや支離滅裂だが、ユータの勢いに押されて店の責任者が頭を下げて言う。
「勇者ユータ様。かしこまりました。明日お城に請求させて頂きます!!」
「うむ、苦しゅうない。料理は美味で気に入ったぞ」
「有り難きお言葉。どうぞごゆっくり……」
ユータは夜遅くまで店の客らと食事を楽しんだ。
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