106 決めた!
ウォーレン歴9年 緑風の月9日 夜中
「……なかなか、衝撃的な話だったな」
綺麗なお庭の花壇に腰掛けて、隣でオリヴァーさまが呟いた。私はこくりと頷く。
「ずっと私のいいところって魔力が大きいところだけだって思ってたので、なんだか変な感じです」
「そうなのか? アレンとの露店もうまくやっていたじゃないか」
「あれは……アレンさんが私に合わせて魔術道具を作ってくれてたからですし」
「自分の手柄じゃない、というわけか」
「はい」
そうか、と呟いて、オリヴァーさまは空を見上げた。
「余は『魔力回路』に不調があって、常に魔力を込めた状態になってしまうのが症状だ」
「…………」
「攻撃魔法の練習など、危なくてできたものではない。ゆえに治療を受けているわけだが」
「そう、なんですか」
「治療に弊害があるなど、聞いたこともなかった。エスターは難しい体質を背負ったな」
「……そうですね……」
ざり、土を踏む音がして、いつの間にか下を向いていた顔を上げると、ぽつんとアレンさんが遠くにたたずんでいる。
「……エスター……」
「アレンさん……」
オリヴァーさまがひょい、と立ち上がった。自分の座っていた花壇の石をぺしぺし叩く。
「アレン、ここに座れ! お互い大事な相棒なのだろう、きちんと話をするがよいぞ!」
そう言うなり走り去ってしまったオリヴァーさまを私たちはぽかんと見送る。アレンさんがゆっくりこっちに近付いてきた。
「……座ってもォ?」
「……うん」
アレンさんがそっと隣に座る。私はまた足元に視線を落とした。
「アレンさん、ずっと知ってたんだ」
「そうなりますかネェ。最初……3つくらい魔術道具を作ったところでェ、なんとなくゥ」
「ほんとうに最初だ……」
「言えばよかったのかもしれませんがァ、私の中では仮説にすぎませんでしたからネェ」
「もし確信がもてたら、言ってた?」
「わかりまセン。決めるのはエスターであってェ、私ではありませんからネェ」
『僕が決めることじゃ、ないからさ』。あの酒場でも、アレンさんはそう言っていた。
「……私はずっと、魔力が大きいのだけがとりえだった」
「……ハイィ」
「でも、アレンさんと出会って、アレンさんの魔術道具でなら魔法が使えて、でもやっぱり自分で詠唱魔法が使いたいって思って、旅をしてきた」
「そうですネェ」
「でもアレンさんとコンビ解消もしたくないし、ずっととりえだった魔力の大きさがなくなるのも不安」
「そうですかァ」
「どっちをとっても、もしもを考えちゃう気がする……」
「そういうこともありますネェ」
私は優しく相槌を打ってくれるアレンさんの横顔を覗き見る。
「アレンさんは、どっちがいいと思う?」
「……詠唱魔法はァ、やっぱり便利ですヨォ」
「……ほんっと、アレンさんはそれしか言わない」
ぷっ、とふたりして小さな笑いが漏れた。少しの間笑って、私は空を見上げてみる。星が出て、綺麗な夜空。
少しの間それを眺めていたら、すこんすこん、と心の欠片が整理されてはまっていくような、そんな心地がした。
「……アレンさん」
「ハイィ?」
「私、決めた」
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