101 「変換上着」

ウォーレン歴9年 緑風の月7日 朝




 今日はなんと、王都で魔術道具の露店をすることになった。


 そもそも私は王都に露店街があることを知らなかったし、アレンさんは魔術道具の露店の許可が下りるとは思っていなかったし、ふたりしてギルドの露店窓口でぽかんとしてしまったのが昨日の話。


 王都の宿は高いから貯金があるとはいえなにかしたいね、なんて話していたらやってきた機会。私とアレンさんは朝から露店街に向かった。


「アレンさん、これ……屋台?」


 露店街に入ると、ところせましと屋台が並んでいる。すでに来ている露天商の人たちはみんな、その屋台に商品を陳列しているみたいだった。他の町の露店街とは大違いだ。さすが王都。


「そうですよォ。私たちに割り振られたのはァ……ここですネェ」


 アレンさんが地図を見ながら指さしたのは、露店街のちょっと外れにぽつんと置いてある屋台。……立地はあまりよくない。


「アレンさん、がんばろうね!」


「? ……そうですネェ」


 立地が悪くても、展示と実演販売の派手さでなんとかなるはずだ。勢い込んで言うと、アレンさんはちょっと不思議そうな顔をしたけど、頷いてくれた。




「魔術道具いりませんか! 便利ですよ!」


 私が呼び込みをしつつ実演販売をしつつ、そろそろお昼という頃。アレンさんが新しい魔術道具を取り出した。


「次はこれを実演販売しまショウ」


 出てきたのは黒いベスト。着ると効果が出る種類の魔術道具かな。


「どんな魔術道具?」


「これは『変換上着』といいましてェ、魔力を上半身の筋力に変換できる上着ですゥ」


「へええ」


 その説明を聞いて、はて、と私は疑問に思う。


「その逆ってできたりしないの? 筋力があって魔力が少なめの人もいるよね?」


 アレンさんは口元をくしゃっとする。


「できないんですヨォ。魔力が変幻自在だからこそできる芸当、ということですネェ」


「そうなんだー……」


「その代わりィ、『変換ズボン』もありますヨォ」


「さすが!」


 とりあえずベストのほうを実演販売しよう、ということで、私は「変換上着」を羽織る。……特になにかが変わった感じはしない。


「今から魔術道具の『変換上着』の実演販売をしますヨォ!」


 アレンさんがそう言って、木箱から大量の分厚い本を取り出した。……アレンさんはいつも普通にこれを持ち歩いているっていうんだから驚きだよね……。


「じゃァまずはこの本を10冊お願いしますゥ」


「10冊!?」


「ハイハイ、早くゥ!」


 私はおそるおそる、山積みの10冊の本を両手で抱える。……軽々持ち上がった。え、本1冊ぶんも重さを感じないんだけど?


「か、軽い!」


「片手でもいけると思いますヨォ?」


「そうかも……」


 バランスを取りながら、片手に本を持ちかえる。……持てちゃった。


「どうですゥ、すごいでショウ!」


「か、軽々持てちゃいますよ!」


 アレンさんが私の持っている本の山にどんどん本を追加していく。ちらちらこっちを見ていた人たちが何人か近寄ってきた。


 今がアピールのチャンスかも! でも、ほかに重いものっていうと……?


「じゃァエスター、いっぺん本を降ろしてェ」


「う、うん」


「屋台をまるっと浮かせちゃいまショウ!」


「ええ!?!?」


「エスターの魔力ならできますヨォ」


「本当かなあ……」


 アレンさんが集まってきた人たちに向けて両手を広げる。


「彼女はとっても魔力が多いのでェ、こんなこともできちゃいますゥ。でも真似は厳禁ですヨォ?」


 アレンさんが私に目配せする。ええい、なるようになれ!


「そーれ……っ!」


 屋台の出っ張りに手をかける。今度はぐん、と力がかかった感覚があった。それにしたって屋台を持ち上げるのは――。


「すげえ、浮いてる!」


「ほんとだ!」


 お客さんの声で私はびっくりする。この魔術道具……すごい!


 このド派手な実演販売のおかげか、初日から売り上げは上々だった。




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