終章 この体質、治りますか?

099 王都医師協会

ウォーレン歴9年 緑風の月3日 昼




 昨日は祈りの日だったので宿でおとなしくしていた私たちは、いよいよ王都の医師協会の建物を訪れていた。


 イスの町でクリスさんからもらった紹介状を提出して、私の体質を診てくれるお医者さんを探すためだ。


 高等学校の敷地の隣の研究所の敷地のさらに隣にあった医師協会の建物。アレンさんがこころなしかどぎまぎしていたふうだったのがちょっと面白かった。


 中に入ると意外と人はまばらで、受付のお姉さんがすぐに私たちに気がついて片手を挙げた。


「なにか御用でしょうか?」


「あ、は、はい」


「エスター、落ち着いてェ」


「うん……」


 私はウエストポーチからクリスさんの紹介状を取り出した。しっかり「王都医師協会宛」と書いてある。よし。


「あの、診てもらいたいことがあって、紹介状があるんですけど」


「承りました。まずは紹介状をいただいてもよろしいですか?」


「は、はい」


 お姉さんに紹介状を渡す。お姉さんは金のペーパーナイフで封を切って、中身を確認した。


「あのペーパーナイフはたぶん『封蝋ナイフ』ですネェ。持ち主にしか使えないィ、中身を戻すと封も戻る魔術道具ですゥ。資格がないと持たせてもらえないんですヨォ」


「へええ……」


 アレンさんはいたっていつものように、新しい魔術道具の解説をしてくれる。私はといえば、緊張しっぱなしだ。


「……少々お待ちください」


 紹介状の中身をざっと読んだらしいお姉さんは、そう言い残して席を立った。受付の奥に行って、係員らしい人たちとなにかを話している。


「『魔力回路』に調子の悪いような人は少ないですからァ、なにかを確認しに行ったんでしょうネェ」


 アレンさんがまた解説を入れてくれる。私は小首を傾げた。


「そういうもの?」


「そもそも数の多い不調だったらァ、わざわざ王都に来る必要もないわけでしてェ、ハイ」


「たしかに……」


 そんなことを話しているうちに、お姉さんが戻ってきた。難しい顔をして、カウンターの下の本をめくるような仕草をする。


「『魔力回路』専門医の診察が望ましい、と紹介状には書いてあるのですが、該当の医師が現在第三王子様の治療をなさっている都合でなかなか予定がとれません」


「第三王子様?」


「詳しいことはお伝えできませんが、ひとつ言えるのは長期待ちになります、ということです」


「そうですか……」


「兼任医のご紹介ならできないこともないのですが、いかがなさいますか?」


 私はアレンさんと顔を見合わせる。アレンさんはふるふると首を横に振った。兼任のお医者さんじゃないほうがいい、ってことかな。


「……ちょっと、考えさせてください」


「かしこまりました。できる範囲で専門の医師に都合をつけてもらうようにしますね」


「ありがとうございます」


「紹介料は1,000ユールになりますが、ギルド口座はお持ちですか?」


「あ、はい」


「ではそちらからお引きしておきます。本日の手続きは以上になりますが、ご質問等ございますか?」


「い、いえ……」


「それでは、お大事に」


 お姉さんの事務的な挨拶に見送られて、私は少し挙動不審になりつつも医師協会の建物を出た。


 ……紹介料だけで1,000ユールかぁ。診察費、いくらするんだろう……。


 遠い目をしていたら、アレンさんが軽く肩を叩いた。


「長期待ちとは言われましたがァ、せっかくの王都を楽しむ機会が増えたと思えばいいですヨォ」


「……そうだね!」


 アレンさんなりに励ましてくれたらしい。私は頷いて、そのままアレンさんの案内で王都を歩き始めた。




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