095 「防壁ブレスレット」
ウォーレン歴9年 緑風の月1日 昼
ぶわっと広がった赤い光はカツカツと鈍い音を立てて、それが私の左手首から広がっている【防壁】だと気付くのに少し時間がかかった。
「え、え!?」
混乱する私に、アレンさんが駆け寄ってくる。
「向こうに魔物の群れが見えますゥ。なにか攻撃をしかけてきたので【防壁】が発動したのでショウ。じっとしていてくだサイ」
「わ……わかった」
しばらくするとカツカツという音がやんで、赤い光も収まる。光のもとをたどると、アレンさんから誕生日にもらって以来ずっと着けているブレスレットが目に入った。
「アレンさん、これ……」
魔術道具だとは聞いてたけど、まさか。
「……発動しないほうがよかったんですけどネェ。そうデス、【防壁】を仕込んであったんですヨォ」
誕生日のときにはもう、王都行きは決まっていたわけで。このときを見越して、魔術道具をプレゼントしてくれてたんだ……。
なんだかじーんとしてしまった私をちょっと押しのけるようにして、旅慣れたふうの冒険者のおじさんがこっちにやってきた。
「……こりゃ
わらわらと人が集まってくる。私も足元に落ちているそれに目をやった。ちょっとつくりは雑だけど、でも命中したらちょっとしたケガになりそうな矢がたくさん散らばっていた。
ゴブリンは珍しい闇属性の魔物で、それなりの知恵があり、一体一体はそんなに強くない代わりに群れで襲ってくる。今みたいな道具を使った攻撃もお手の物だし、強い個体だと罠を仕掛けてきたりもするらしい。
教科書でしか見たことない魔物が実際に近くにいると思うとちょっと怖いけど、私たちはなんとしても今日中にこの森を抜けなくちゃいけない。
「やつらが追い付いてくる前に逃げきっちまおう。隊商の荷物、持っていいもんは分けて運ばせてもらえねえか交渉してくる」
実質リーダーみたいになっているおじさんが隊商の方へ向かうと、私たち冒険者はそれぞれ顔を見合わせて勇気を出し合った。大丈夫、きっとこの人数いればなんとかなる。
私にはアレンさんと、アレンさんの作ったたくさんの魔術道具がついてるしね!
私はアレンさんと顔を見合わせる。
「大丈夫、だよね?」
「大丈夫ですヨォ。みなさん強いですしィ、我々だって負けていまセン」
「……うん!」
アレンさんの言葉に励まされて、私はゆっくり進み始めた人のかたまりの中に戻ろうと足を動かした。
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